トークバック②

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先日のコミティア131で購入した仰木日向さんのハーフ・ノンフィクション小説『トークバック』の2巻を読みました。1巻が出たのが1年と少し前。続きが読みたくて読みたくてずっと待ってました。

プロの作曲家を目指しながらコンビニのバイトで生計を立てている青年の物語。”この小説には、登場人物が精神的に追い詰められる描写が含まれております”というなんともおっかない注意書きが添えられているのですが、そりゃあもう容赦なく追い詰められる。必然的に読んでる人も精神的に追い詰められます。しかしそこが良い。追い詰められた先にしかない面白さがある。

今作は1巻に比べると序盤はややマイルドに感じました。主人公が行動する範囲が広がり、登場人物も増えたのでこれは必然かなと。

読み進めると中盤にそこそこのパンチが数発あり、終盤でドギツイのを貰いました。

ディズニー版の『アリとキリギリス』のストーリーを交えて、”娯楽職”と”生活職”の関係についてを語るシーンがあるのですが、これがもう本当に見事で完全にやられました。この考え方でいくと世の中もうそこらじゅう偽キリギリスだらけです。嫌になります。それと同時に自分はどうなんだと考えさせられ、若干ヘコみました。己が愚かさを反省し、考え方を改めました。


とまあ、ここまでが一回読んでみての感想でした。

本編を読み終わった後、面白かったけどなんかちょっと引っ掛かりを感じるんだよなとか思ってたんですが、あとがきを読んでハッとしました。

僕は完全に勘違いをしていました。

その勘違いに気付いてからもう一度最初から読みなおしてみると、ほぼ全てのシーンの見え方が変わりました。

地獄って、そこが地獄だと認識しなければ地獄には見えないもんなんだということを改めて思い知りました。

そのことは本作の1巻で学んだつもりだったのに、こうも簡単に引っかかってしまうとは。”知らない”っていうのは本当に恐ろしい。

そしてこの小説の巧妙さも恐ろしい。めちゃくちゃよくできてる。いろんな要素が随所に含まれてる。たぶん気が付かない人は気が付かない。自分が気が付けたのはおそらく若干似たような経験があったから。同じ罠にもう一回引っかかるところだった。

今作を何回か読みなおして、「これは今後の物語に向けての入念な下ごしらえだな」と感じました。次巻からは物語の舞台も変わり、話が本格的に進んでいくようなのですが、現段階で既に嫌な予感しかしておりません。

何が怖いってこの物語はほぼ事実に基づいているということ。今後なんとなくこうなるんじゃないかという予想はいくつかしているのですが、その予想が当たってしまうとそれは実際にあったことということになるから怖い。実際にあってほしくないことばかり思いついてしまう自分の脳が嫌だ。

とか言いながらも、それでもとにかく続きが読みたくてたまらなくなってる自分がいます。都合が悪かろうがなんだろうがとにかく真実が知りたくてたまらない自分にとってこんなに突き刺さる作品はありませんでした。

仰木日向さんの作品は読むたびに身の引き締まる思いになるのですが、この『トークバック』は別格です。「自分自身の心と真正面から向き合うのが好き」という方は(あんまりいないと思いますが)是非読んでみて下さい。


読んでいただいてありがとうございました。退屈しのぎにでもなっていれば幸いです。