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書くことをたのしむためのオーダーノート

この6年、1年の終わりが近づくたびに必ず訪れている場所がある。
蔵前にある『カキモリ』という文房具屋さんだ。

自分でノートをつくれるお店があると知ったのがきっかけだったと思う。
「自分だけのノートがほしい!」と当時住んでいた場所から1時間半くらいかけて出かけ、念願の初代ノートをお迎えした。

もともと「書く」ことが好きな私にとって、手で文字を書くということは、五感をめいっぱい楽しませてくれる瞬間の連続だ。
ペンを走らせる時のささやかな音や、するすると生まれていく字、ペン先から伝わる紙のざらつき…それらをひっそりと感じるたび、授業の板書、日記、お手紙などはもちろん、ちょっとした日常の走り書きのメモでさえ、たのしみに変わる。

しかし、当時の私は、紙とペンを手にする機会がとんと減っていた。
通っていた大学では講義メモはPCでとるのが普通だったし、友人との連絡手段も当たり前にSNSだったから、どことなく手書きが好きという気持ちも顔を出さなくなっていった。そんな時にカキモリさんと出会ったのだ。

『たのしく、書く人。』
手紙を書く、ラクガキをする。
アイデアを文字にする。
書くことは、毎日をちょっとあたたかくすることだと、
カキモリは思います。

この言葉は、カキモリさんの自己紹介に書かれている言葉だ。
(※2020年11月10日にwebサイトがリニューアルされ、いまは言葉がすこし変わっています)

「そう、私は書く時のこの感覚がすきだった。その字から感じる人の温かさがすきだったんだ」

つくったノートをひらき、久しぶりにお気に入りのペンをすべらせるたびに、薄れかけていた『書くことをたのしむ』気持ちに、息が吹き込まれていった。
そのたのしみを味わい続けたくて、カキモリさんのノートに私は恋をし続けている。蔵前も、いまは地元の次に好きな街だ。

書くことに欠かせない文具のなかでも、私の気持ちや考えを受けとめ、残してくれるノートは特別な存在になった。
どこでも出会えるノートも親しみがあって好きだけれど、自分でつくったノートはかわいくて大切でしかたがない。

表表紙に裏表紙、中の紙の種類から留め具まで、自分の興味の赴くままに手に取り、こっちかな?あっちかな?と、うんうん首を傾げながら、何度も試してみては戻しを繰り返して、私の一冊はできあがる。

誰かに「これをつくってほしい」とまるっとお願いするのでもなく、
出来上がったものから「この中だとこれかな」と選ぶのではなく、
ぴったりを自分の手で見つけていく時間はなんて贅沢なんだろう。
スタッフさんの元へ選んだものを渡しにいく瞬間は、自分のお気に入りをみつけた達成感で足取りがうきうきする。

カキモリさんでつくったノートには、手元においておきたい言葉やちょっとした考えの種、ゆっくり時間が取れた時に感じていることなどを書くことにしている。
生命力あふれる力強い言葉もあれば、揺れうごく波のような不安定な心模様もあって、たまに読み返すと、思いがけない自分と再会することもある。

「いろいろあったけど、ひっくるめて私は大丈夫だ」という気持ちで自分をいたわってあげることができるのは、カキモリさんのノートのおかげだと思う。
365日、私の時間を見届けてくれたノートは、1年のお役目を果たしてくれた後も、ずっと私のお守りだ。

「元気でいる、ってどうやるんだっけ…?元気な私って、どんなだっけ?」
今年は特に急にわからなくなることがあった。
どうにか思い出したくて、誰かに話すには形になっていない、断片のような言葉をノートにぶつけるように書いた。
言葉にもならないゆらぎに何度もつまずいたけれど、形になっていないからと、なかったことにしなくてすんで、本当によかった…。
そのおかげで、いまの私は元気を忘れずに過ごすことができているから。

つい先日、2021年用の7冊目のノートをつくりにいった。
今年の私のお気に入りだった、紫と緑のとっておきの組み合わせ。

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あともうすこしの2020年をおわりに振り返ったとき、自分がなにを思うかはわからないけれど。
お正月に新しいノートをひらき、まっさらな紙に文字を書き初める瞬間を、
私は今か今かと心待ちにしている。

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