季節の変わる音
この前、祖父(93歳)が「今年はウグイスの声を聞いてない」とぼやいていた。
そんなことはない・・・はずだ。桜の時期からホーホケキョと鳴いていたし、ちょうどこれを書いている今(6月末)も鳴いている。
どうやら去年よりも耳が遠くなったらしい。
夏至のあたりからだろうか。
ウグイスに加えて、朝晩にはキリギリスも鳴き始めた。小雨の日は蛙の合唱も加わり、大小さまざまな音の粒が辺りにこだましている。
ウグイスのさえずり、蛙の合唱、涼やかな風を運ぶキリギリスの声。
外ではいろんな生き物が、季節をまたいで前乗りしたり居残ったりして、季節から季節へとバトンを繋いでいる。
インドの伝統医学アーユルヴェーダでは、季節の変わり目をルトュ・サンディ(ritu sandhi;”季節が出会う”の意)という。この時期は、心身を特にいたわるようにする。
例えば、梅雨から夏の間は、1年の中でも体力が最も弱まる時期とされている。
梅雨は冷えや湿度に気を付けつつ、消化に負担をかけないように温かく、ピリッとした味の物を摂ると良い。
夏は、消化しやすくて栄養のあるもの…例えば良質な油や季節の果物などを上手に取り入れ、涼しい環境で体力を保つように心がける。
自然の変化をよく感じて、生活を対応させていく。
文字にしてみればさもないことだ。
でも、意外と出来そうで出来ない。
それが「養生」というものなのかもしれない。
3000年あるいは5000年も前に誕生したと言われるアーユルヴェーダの文献には、それぞれの季節の過ごし方が緻密に丁寧に書かれている。
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イカル、セキレイ、ホトトギス。
今まで聞き流していた音に、名前があり、目があり、羽があり、色があり、温かみがあることを知る。
「サンディ(sandhi)」はサンスクリット語で「連音」と訳され、「2つの形態素が並んだ時に起きる音変化」のことを指すらしい。
今、外は2音どころか幾重にも音が重なり、耳に拾いきれない。
春のかすかな名残、夏の風物詩、秋の代表格が混ざり合い、季節は行きつ戻りつしながら、確実に夏へと舵を切っている。
早朝、窓を開けると、外はもう夏の匂いがする。
昔、夏休みのラジオ体操に向かうときにもかいだ、まだ生活にまみれていない、凛とした匂いだ。
知らぬ間に旅立った声、今日新しく出会う声がある。
つながる音、連なる音が、季節を少しずつ変えていく。
ウグイスの声がだんだん遠くなってきた。
今日はセミが鳴いている。
https://note.com/hogar_kaorita/m/me4efaee26ff2
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