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「負けに慣れた」ファイターズ。ファンもチームも想いはひとつな今、トンネルの先にはどんな景色が待っているのだろうか。

勝てない。常にあと一歩が届かない。届かないというより足りないチームであることをこんなにも叩き込まれて、もう痛いほど理解したのに、それでも野球の神様は残酷で「もっと分かれ、もっと学べ」と試練を与えてくる。北海道移転後初の12連敗。不名誉な初モノの称号を与えられ続ける新庄ファイターズであるが、この弱さは新庄ハムになったときに急に始まったものではない。もっと前から、ファイターズは勝ち方と強さを全部忘れてしまった。

ファイターズが最後に優勝した2016年。あの年の後半戦を一軍で戦った選手はほとんどチームに在籍していない。特に野手は深刻で、松本剛、淺間大基、中島卓也の3名しかあの頃を知る選手が残っていないのである。様々なスポーツ記事や解説者、チーム内の関係者らからの言葉からよく聞かれる「経験」というものが欠如した若すぎるチームは、免許取り立ての学生が初心者マークをつけたまま車で全国一周しているくらいのスリルと常に隣り合わせな状況を過ごす他ないというのは想像に容易い。そのようなチームでも一時最下位を脱出できたことは、本当に奇跡だったのかもしれない。

もちろん足りないものは経験だけではない。その中でも個人的には確実性を持った役者の不在が大きく影響していると思う。役者というのは、例えば代打の切り札とか代走のスペシャリストとか「ここぞの場面で必ず決めてくれる信頼のある選手」のことで、若すぎるファイターズにはこういう絶対的がずっといない。これまでもずっと絶対的な存在が必要だと考えて、過去にも記事に書いたことがあって記憶があるのだけれど、何年経ってもそういう存在が確立されていない。経験不足ゆえに絶対的存在やこれだけは負けないという自信がなかなか育たない。すぐに芽が出るなんて思ってないけれど、困った時に頼れる存在が複数枚構えているというのはベンチの安心感に繋がる。現状、ファイターズは代打打率が著しく低く、スタメンが打てないなら負けという悲しいチーム状況だ。強いチームは劣勢をひっくり返す力を持っているのだから、絶対的な存在は苦しい時こそ必要になってくるのである。

とはいえ、解説者の話を聞いていても、ファイターズに対し絶望的な何かを感じて指摘をするところはあまり見られない。むしろ昨シーズンの方が奇抜で常識に囚われない野球スタイルだったために、批判的な声が多く聞こえていたと思う。あくまでも基本的なことしかしていないが勝てない。つまりこのチームに今ないのは基本、基礎の部分ということになる。

それもそのはず。一軍の選手の過半数がこれまで二軍生活が長かった苦労人と若手で構成されており、100試合以上の出場を経験している選手がほとんどいない。夏の乗り越え方も、負けが混んできたときの切り替え方も、身体で覚えられていない選手が多いのだろう。それだけでなく、こうして連敗が重なると当たり前だが気持ちは無意識に下を向く。切り替えよう、前を向こうと言っても簡単にできないから心の病は深刻なのだ。そういうマイナスな気持ちに覆われてしまうと、自信喪失→不安→ミスという悪循環に突入する。出来ていたことも焦りと不安が呼吸を乱し、出来なくなって病む。だがこればかりは他人にとやかくできるものではない。きっかけを他人が与えられても、克服は自分の内側からしか出来ないのがとても辛くてもどかしいのである。

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7月23日の試合では、ポンセが何度も踏ん張っていたがそれも7回に決壊した。よく踏ん張ってくれたと思うほど、この日は守備ミスも多くて攻撃ではチャンスを作れずにいた。それでもマウンドでナインを鼓舞するポンセの姿に胸が熱くなったし、ベンチもまた連敗中とは思えぬほど明るくチーム全体で勝ちたいという気持ちがあるのが見て取れた。しかし、リーグ首位の強さは伊達じゃない。セデーニョの3ラン、野口のタイムリーでダメを押されてしまい、万事休すと全ての人が諦めようとしていたと思う。

最後まで諦めなかったのは、ファイターズの闘将会(私設応援団)だった。この夏、私も何試合かビジター応援席で試合を観戦したが、どれも劣勢で終盤を迎えていた。そういう場面でも闘将会のお兄さんたちは「まだ諦めてないぞー!」とか「もう負けなくないんだ!!」と声を張り、選手だけでなく心が折れそうなファンのことも救ってくれた。目の前でこんな連敗を見続けて、どれほど悔しいか。その気持ちが叫びとなって終盤の応援を支えているのだ。この日も劣勢ながら、応援することしか出来ないと少しでも背中を押してやろうと応援の力を信じて呼びかけ、声を枯らしていたそうだ。そういう応援に選手は少なからず応え続けていて、昨日も2点差に詰め寄る満塁弾が生まれた。僅かな点差まで迫るのに掴みきれない背中を見続けて、応援席では試合終了後に「悔しい」という声がたくさん聞こえる。選手とファンの気持ちがこんなにリンクするのも珍しいくらいに、今、多くのファイターズファンの想いとチームの心はひとつになっていると感じる。以前新庄監督が「チームが負けに慣れている」とチームの雰囲気を語っていたが、いつしか「勝ちたい」という思いがみんな強くなってきたようだ。だから「その日」が近いと思わずにはいられないのだ。

長いこと連敗をしている中で、キーマンと感じているのは五十幡と石井。ポイントゲッターである松本剛、万波の前にいかに走者を置けるかというのが重要であることはもちろん、彼らにはリードオフマンの素質があると感じている。リードオフマンは単に足が早いとか出塁率が高いだけでは物足りないと考える。最も必要なのは多才であらゆる作戦を実行できる能力があることだと思う。脚力を活かして出塁する手段を広げられる五十幡と、新庄野球の奇策を数々こなしてきた石井であれば、「いやらしいリードオフマン」になれると考える。また、当然ながら得点を上げる選手が固定になるとなかなか厳しい試合を過ごすことになる。松本や万波だけでなく、打点を叩ける選手は持っといてもらわないといけない。野村が完全復活することはもちろん、マルティネスや加藤豪将など、繋ぐ打点が後半戦のポイントとなると感じている。

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後半戦はスタート時点での首位とのゲーム差は16.0。2試合を終え未だトンネルを抜けられないファイターズは更に首位の背中が遠くなってしまった。前半戦を終了した時点で最下位だったチームは最高でも3位までしかあがったことがないらしい。ましてや2桁ゲーム差は縮まるどころか開いてしまう傾向にある。歴史上「ありえない」かもしれないが、不可能を可能にし続け、進化を止めない新庄野球が再び息を吹き返せば、パ・リーグをかき乱しさらに面白い夏を過ごせるはずだ。ファンは当然、その時を信じて待っている。いつかきっと、このトンネルの先に最高の景色が広がっていますように。

悩めるこの背中にもわくわくした姿が戻ってほしい。

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