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月々の星々 -Season2-

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2021年11月に再スタートした140文字小説コンテスト「月々の星々」への応募作品たちです。
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#詩

世界の終わり、そして始まり。 -10月の星々②-

世界の終わり、そして始まり。 -10月の星々②-

丘の上から見える大きな川の向こう岸、

名前も知らない里山の頂に

いく筋もの雲が吸い込まれていく。

最も強そうな雲の筋に太陽が絡めとられる。

燦然と輝く無敵の星が、

ゆるゆると軌道を外れ山頂に不時着し、

瞬時に暗闇が世界を覆う。

翌朝、全く違う太陽が東の空に現れた。

世界はもう一度そこから始まる。

深まる秋 -10月の星々-

深まる秋 -10月の星々-

高度を下げた朝の太陽が窓から差し込み、

ファンヒーターがタイマーで動き出す。

日増しの寒さにフリースを重ね着する。

明日から霜月。

「畑の一年は仕舞仕事に始まる」と

古書店で手に入れた歳時記の余白に記された先人の知恵。

四季折々の恵みに感謝しながら御礼肥えを撒く。

三度目の冬を迎える畑にて。

水引の花  -9月の星々-

水引の花  -9月の星々-

夏の終わりの田舎道は、高く青くなる空と軽やかになる風。

あちこちの道端でチラチラと水引が咲く。

まっすぐ伸びた細い茎に赤い小花を順々に並べて。

里の田畑は、それぞれに春に芽吹いて夏に育った黄金の実り。

その喜びの季節の訪れをみんなと分かち合うように。

控えめに、でも艶やかに水引の花は咲く。

月々の星々、9月のお題は「実」でした。

森の風 -6月の星々-

森の風 -6月の星々-

夕方、森の入り口に立って目を瞑ると、

背中に少し湿った風を感じる。

人ごみを通り、いろんなものを纏って

よれた空気が流れ込んでくる。

夜の静寂の中、穏やかな雨を浴びた風は、

そのいろんなものを洗い流して軽くなる。

朝、森の入り口に立って目を瞑ると、

頬に接吻するように軽やかな風が吹いていく。

止まる。少し。 -5月の星々-

止まる。少し。 -5月の星々-

畦の草刈りをしていたら、

蓬の葉を渉るカタツムリに声をかけられた。

そんなにしゃかりきになるなよ。

息が切れちまうぞ。

先は長いんだ。

慌てず急がず、一歩ずつ前に進めばいいさ。

それでも疲れてしまったら。

止まればいいさ、

少しだけ。

そこで上を見てごらんなさい。

大空に君の歩く道が見えてくるから。

神秘のちから -3月の星々-

神秘のちから -3月の星々-

植物の芽吹きとは、

種子が発芽適温の土中で、

適度な水分が与えられた際に発生する

加水分解という化学反応である。

光合成で有機物を合成する仕組みも、

受粉して果実が成長する仕組みも化学反応。

それはわかっている。わかってはいるが、未だ人間は、

この植物の仕組みを作り上げることはできていない。

土の鈴 -2月の星々-

土の鈴 -2月の星々-

隣町の民芸品店で見つけた小さな土鈴2つ。

シジュウカラとヤマガラ。

まあるい形と丁寧な絵付け。

しばらく手のひらで愛でたあと、窓辺の飾り棚に並べて寝た。

翌朝、日差しが差し込むと、

その子らは仲間たちに混じって空に飛び立ち、

あれよと思う間に森の中に消えていった。

私に柔らかな鈴の音を残して。

光の糸 -1月の星々-

光の糸 -1月の星々-

その桂の大樹は奥まった社にあり

幾本かの太い幹が鬩ぎ合いながら

はるか高い空へと聳え立っている。

大寒の強い北風が冬枯れの枝枝を

轟々と揺さぶりながら吹き抜ける。

一条の光が幹の根本の隙間を貫き

鮮烈に迸る谷川の水面を照らした。

まるで光年の距離と悠久の年輪と

刹那の流れを光の糸で結ぶように。

冬の朝 -12月の星々-

冬の朝 -12月の星々-

ファンヒーターがタイマーで動き出す。

すっぽりと首まで毛布にくるまって部屋が暖まるのを待つ。

この30分のたまらない贅沢にほくそ笑む。

窓から差し込む朝の光が結露に乱反射してオレンジ色に染まる。

1日で一番寒い時間。そして1日で一番美しい時間。

世界の片隅でなんでもない日がなんでもなく始まる。

晩秋の森にて -11月の星々-

晩秋の森にて -11月の星々-

書いておこうと思った。

たとえば、敷き詰められた落ち葉のほんのりとした暖かさを

たとえば、木々の年輪にくっきりと刻まれる厳しい寒さを

たとえば、冬枯れの枝に始まる新しい芽吹きを

たとえば、沈黙した森に響く陽射しが降り注ぐ音を

せめて、言葉を超えたものがあるということを

明日も覚えておくために