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2022

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2022年11月の記事一覧

親父の梅酒 -11月の星々-

親父の梅酒 -11月の星々-

一足早い大掃除。

埃の積もった保存棚の隅っこに琥珀色の瓶を見つけた。

親父が元気だった頃に仕込んだ梅酒。十年物か。

硬くなった蓋をこじ開けグラスに注ぐと、芳醇な香りが広がる。

熟成が進んでまろやかになった液体。

あの日止まった親父の時間は、こんなところで動き続けていた。

穏やかにゆっくりと。

進む季節、止まる時間

進む季節、止まる時間

強く吹いた北風の後、

暖かな雨が紅葉の赤を引き立てる

行きつ戻りつの季節の歩みに

自分の足の加減を重ねる

この秋の里山散歩をあきらめて

窓からの遠景に軽くため息を漏らす

我が庭の住人は小さく地鳴きし

止まり木から手のひらに飛んで来て

慰めるように小首を傾げ

種を一粒、器用に咥えて森へ帰る

進む季節、止まる時間

こんな冬の始まりも

きっと、またよかろうよ

新しい何かに出会う

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陽だまりの待合室で

陽だまりの待合室で

町の小さな整形外科の瀟洒な窓から

差し込む冬の始めの暖かな陽光が

順番を待つ人たちを柔らかく照らす

少し気の早いクリスマスソングが

静かにゆっくりと時間を進めていく

ここにいる誰もが

何処かに痛みや不自由を抱え

不安や焦燥に苛まれながら

それでも静かに座っている

揺蕩うような静寂の中で私は

自分もその一人であることを

不思議な気持ちで眺めていた