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ヒトシ
2022年6月22日 16:27
夕方、森の入り口に立って目を瞑ると、背中に少し湿った風を感じる。人ごみを通り、いろんなものを纏ってよれた空気が流れ込んでくる。夜の静寂の中、穏やかな雨を浴びた風は、そのいろんなものを洗い流して軽くなる。朝、森の入り口に立って目を瞑ると、頬に接吻するように軽やかな風が吹いていく。
2022年6月15日 16:30
分厚い雲の下 梅雨の止み間に森の入口の我が庭に初登場したのはベイビー・ガラッチ、ヤマガラの幼鳥トレードマークの山吹色と黒のツートンが産毛に覆われて薄ぼんやりの初心者マーク親鳥に手解きを受けたのかキョロキョロと周囲を伺いながら餌台のひまわりを啄んでいくそういえば君に聞きたいことがその餌台を支える土台の麻紐を君の両親がほぐして持っていったけどそのベッドの寝心
2022年6月7日 14:02
ページをめくると、たくさんの書き込みに目を奪われる。几帳面な小さな文字で、余白を埋め尽くさんばかり。活字の本文が薄れてしまうほどの情報量だ。かつてこの本を手に歳時を過ごした人の経験と知恵が詰まっている。唐突に、この続きを僕が始めようと思った。新しい季節が今、動き出そうとしている。この作品は、小説家ほしおさなえさんの門下生を中心にした140文字小説サークル‘lotto140‘
何十年も薄暗い古書店の端っこにいた。年代物同士、老店主と余生を送るはずだった。ところがある日、一人の若者がわたしを取り上げると熱心に頁をめくり、町外れの古家へ連れて帰った。昔ながらのやり方で畑仕事を始めるんだそうだ。窓から森の薫風。止まっていた歳時が今、再び動き出そうとしている。この作品は、小説家ほしおさなえさんの門下生を中心にした140文字小説サークル‘lotto
2022年6月7日 14:00
ふと、早春の森に来た。小鳥たちが奏でる求愛の歌が響いている。人の気配はなく、木々や野花が支配する世界。朽木のベンチに寝転んで五感の全てで地球を感じると、精霊の守り人になった気分。全身に気が満ちてくる。僕は今、あの主人公のように、明日を切り開く強さとしなやかさを手に入れた気がする。この作品は、小説家ほしおさなえさんの門下生を中心にした140文字小説サークル‘lotto14
2022年6月7日 13:59
山の奥の古い社のそのまた奥に聳える大樹。その脇腹には大きなウロが空いていて、中に入ると螺旋の階段。壁の全てが本棚。森で生まれた鳥や虫は皆、年頃になると、このウロに来て、自分達に代々伝わる恋の作法書を読んでから外の世界へと飛び立ってゆく。口々に覚えたての求愛の歌をくちずさみながら。この作品は、小説家ほしおさなえさんの門下生を中心にした140文字小説サークル‘lotto
2022年6月6日 11:23
去年の九月に植え付けた大蒜厳しく長い冬を乗り越えて病気の脅威もすり抜けて無事迎えた収穫の時枯れかかった茎葉をすっと抜くとその瞬間立ち上がるあの臭い土の中から顔を出す六片の白い塊ににんまりと微笑みほっと胸を撫で下ろすさあて、どう料理してやろうかいろいろ使ってあげるから首を洗って待っていなされ
2022年6月1日 12:58
氏神さまに詣でた帰りちょっと遠回りした先は欅の大樹が聳える畑中の小道道端に繁る世話人知らずの桑の木お天道さまをたっぷり浴びて赤紫色の房をたわわに実らす誰にとはなく許しを乞うて両手のひらほどのお裾分け野趣たっぷりのほのかな甘み砂糖と一緒にコトコト煮込み檸檬を絞って仕上げれば朝の食卓を鮮やかに彩る自家製桑の実ジャムの出来上がりこれもまた季節を味わう贅