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2022

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小さな空間の大きな時間 -12月の星々-

小さな空間の大きな時間 -12月の星々-

冬晴れの庭に立ち、欅の老木越しに青空を見上げる。

降り注ぐ悠久の太陽と、地球を巡る季節風の冷たさ。

小鳥が落葉の中に餌を探す音が緩やかな調べを奏でる。

残り葉は優雅に舞い、音もなく着地して眠りに就く。

それぞれの生命がそれぞれの時間の中で、

この小さな空間に集い、わたしの人生になっていく。

厄除招福

厄除招福

気がつけば冬至も過ぎてもう年の瀬

聖夜の鐘の名残を足早に消し去って

世の中は一気に忙しなくなる

まだ少し煩わしさの残る膝を庇いつつ

厄除け招福の正月飾りを自作する

収穫した唐辛子の赤い実を麻紐で束ねて

流木の横木にひとつふたつと連ねてゆけば

つらつらと頭をよぎる春夏秋冬

できなかったこと、不本意なことも

そりゃ、なくはないが、それにも増して

新しく出来たこと、嬉しかったことは

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氷のプリズム

氷のプリズム

この冬一番の寒さに肩を窄めながら

庭に降りて朝の日課の小鳥の餌出し

しばし常連たちと手渡しで戯れたあと

ブリキの水遣りに見つけた今年初めての薄氷

ウキウキと幼子のように棒切れを拾い

ガシガシと一点をつついて穴を開け

グイグイと指をこじいれ引っ張り出す

ひっくり返した塊りは朝の陽を乱反射して

プリズムのように小さな影絵を揺らす

閉じ込められた落ち葉を象って

冬の森から贈り物

冬の森から贈り物

柔らかな冬の陽が差し込む雑木林

その足元に降り積もった

とりどりの枯れ葉たちは

森がくれる冬の贈り物

大きな袋にたんと詰め込んで

我が畑の隅の置き場に持ち帰り

米糠を混ぜ込みながら

ぎゅうぎゅうに踏み締めれば

やがて小さな働き者が

せっせせっせと葉っぱを食べて

肥沃な土へと分解し

自家製腐葉土に仕上げてくれる

四季折々の山河の恵みを

余すところなく生かしきる

見事なまで

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冬の主役

冬の主役

冬晴れの日が続き、そろそろ霜が降りる畑で

冬の野菜たちが身体いっぱいに甘みを蓄えて

それぞれの出番を待っている

今日の収穫は

大根、人参、春菊、小松菜、葱、水菜、白菜、レタス、キャベツ

里芋、菊芋、生姜も土の中でスタンバイ中

いただきものの霜降り肉もあるし、

今宵はすき焼きにでも致しましょうか

主役はもちろん、うちの畑の野菜たち

天気にも虫にも負けずに

ちゃんと育ってくれたこと

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親父の梅酒 -11月の星々-

親父の梅酒 -11月の星々-

一足早い大掃除。

埃の積もった保存棚の隅っこに琥珀色の瓶を見つけた。

親父が元気だった頃に仕込んだ梅酒。十年物か。

硬くなった蓋をこじ開けグラスに注ぐと、芳醇な香りが広がる。

熟成が進んでまろやかになった液体。

あの日止まった親父の時間は、こんなところで動き続けていた。

穏やかにゆっくりと。

進む季節、止まる時間

進む季節、止まる時間

強く吹いた北風の後、

暖かな雨が紅葉の赤を引き立てる

行きつ戻りつの季節の歩みに

自分の足の加減を重ねる

この秋の里山散歩をあきらめて

窓からの遠景に軽くため息を漏らす

我が庭の住人は小さく地鳴きし

止まり木から手のひらに飛んで来て

慰めるように小首を傾げ

種を一粒、器用に咥えて森へ帰る

進む季節、止まる時間

こんな冬の始まりも

きっと、またよかろうよ

新しい何かに出会う

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陽だまりの待合室で

陽だまりの待合室で

町の小さな整形外科の瀟洒な窓から

差し込む冬の始めの暖かな陽光が

順番を待つ人たちを柔らかく照らす

少し気の早いクリスマスソングが

静かにゆっくりと時間を進めていく

ここにいる誰もが

何処かに痛みや不自由を抱え

不安や焦燥に苛まれながら

それでも静かに座っている

揺蕩うような静寂の中で私は

自分もその一人であることを

不思議な気持ちで眺めていた

世界の終わり、そして始まり。 -10月の星々②-

世界の終わり、そして始まり。 -10月の星々②-

丘の上から見える大きな川の向こう岸、

名前も知らない里山の頂に

いく筋もの雲が吸い込まれていく。

最も強そうな雲の筋に太陽が絡めとられる。

燦然と輝く無敵の星が、

ゆるゆると軌道を外れ山頂に不時着し、

瞬時に暗闇が世界を覆う。

翌朝、全く違う太陽が東の空に現れた。

世界はもう一度そこから始まる。

深まる秋 -10月の星々-

深まる秋 -10月の星々-

高度を下げた朝の太陽が窓から差し込み、

ファンヒーターがタイマーで動き出す。

日増しの寒さにフリースを重ね着する。

明日から霜月。

「畑の一年は仕舞仕事に始まる」と

古書店で手に入れた歳時記の余白に記された先人の知恵。

四季折々の恵みに感謝しながら御礼肥えを撒く。

三度目の冬を迎える畑にて。

今年の生姜

今年の生姜

梅雨明けが早すぎたり 

戻り梅雨が長かったり

酷い暑さと強い雨が変わりばんこに続いたり

気分屋できかんぼだった今年の天気

それでも秋は急に深まり

霜降る寒さは暦どおりに訪れて

そろそろ生姜の掘り出しのころ

適期を逃さぬようにと

痛めた膝を庇いつつそろりそろりと試し掘り

植え付け直後の雨続きもあって

無事育ったのは半分くらい

それも育ちはいまいちで

反省しきりの今年の出来栄え

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奇跡のようなこの空の下

奇跡のようなこの空の下

どんな理由でそうなるのか

どんな意味があるのか

そんなことは全然わからないけれど

こころが揺さぶられるほど

美しいと感じる夕景がそこにあって

その瞬間に巡り会えた偶然はきっと

わたしたちの道を

明るく照らしてくれる祝福なんだと

そう素直に思えたある日の夕暮れ

ひまわりの手渡しサービス

ひまわりの手渡しサービス

今日は朝から冷たい雨。

畑仕事を諦めて、のんびり過ごす午前10時。

ゆっくりと珈琲を淹れて、雨宿りカフェを開店。

香りを楽しみながらnote街を散策していると、

間もなく常連さんがお目見しました。

ありがたくも、お仲間にお声がけいただいたようで、

ここ数日は団体さんでご来店いただいております。

いつもお皿からのセルフサービスでは味気ないので、

今朝は手渡しひまわりをお楽しみいただき

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草むらの秋

草むらの秋

ひんやりとした風が渡る寒露の手前

あちらこちらの野の草むらが

実りの重さに首を垂れて

啄む雀が喧しく踊る

夏の光を集め続けた緑の葉

秋虫たちに齧られて

草臥れ萎れ穴だらけ

賑やかだった草花の舞台は終演間近

残り少ない蜜床を探して

ミツバチたちが飛び巡る

やがて来る眠りの季節のその前に

今しばし続く

小さな小さないのちの躍動