ヒトシ

ヒトシです。 百姓詩人です。森の古家に住み、畑を耕し、小鳥と戯れながら、田舎暮らしや自…

ヒトシ

ヒトシです。 百姓詩人です。森の古家に住み、畑を耕し、小鳥と戯れながら、田舎暮らしや自然や小さな生命の様子などをとつとつと綴っています。

マガジン

  • 2024

    2024年の作品たちです。

  • 季節の星々

    140文字小説コンテスト「季節の星々」への応募作品です。

  • 2023

    2023年に投稿したものたちです。

  • 月々の星々 -Season2-

    2021年11月に再スタートした140文字小説コンテスト「月々の星々」への応募作品たちです。

  • 2022

最近の記事

  • 固定された記事

瑣末なものとして

心の中で自分が問う。 わたしは何者かと。 もう一人の自分が答える。 『全ては定義の問題だ』。 宇宙に対峙させるか、 社会に対峙させるか、 家族に対峙させるのか、 あるいは己らしさに対峙させるのか。 己らしさはその問い自体が自己矛盾し、 家族は個の尊重の名の下で説得力を失い、 社会は今や時代の歯車にしか興味がない。 そして宇宙の前ではほんの光の粒である。 さほど瑣末なものならば、 このひとときを尊び、 このいとなみを慈しもう。 春の陽だまりを 夏の慈雨を 秋の実りを

    • 麦、出穂す。

      三日続いた慈しみの雨に ぐいっと背中を押されたか 吾畠の麦が一気呵成に穂を出した 清々しく広がった青空を目指し 青々と茂った茎葉の先に みっちりと粒を詰め込んで さわさわと吹く風になびく 生まれたての若穂たち 喜びと期待に満ちて

      • 穀雨の森

        降り続く細やかな雨は 森を穏やかに潤しながら滴り落ちて 降り積もった腐葉の土に沁みてゆく 聳え立つ木々たちは溶け出した滋養を 深く張り巡らせた根で吸い上げて 育ち盛りの緑葉をいっそう濃く茂らせる 森に満ちる噎せ返るような生気 穀雨の雨は慈しみの雨 生命の躍動を加速させ やがて季節は春から初夏へ

        • 漲るいのち

          皐月の風に乗って降り立った 一粒の赤いプロペラが 小さく芽吹いたのは一昨年の春 そして三度目の晴明の候 もう一人前だと枝を振り 柔らかな若葉をいっぱいに湛える 吾庭の小さな舞台の真ん中で 若武者のごとく見栄を切り 力強く緑彩を刻む ああ なんと美しき ため息が出るような 迸るわかさ 漲るいのち

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        瑣末なものとして

        マガジン

        • 2024
          20本
        • 季節の星々
          2本
        • 2023
          72本
        • 月々の星々 -Season2-
          16本
        • 2022
          84本
        • はまぐりの夢 vol.4
          4本

        記事

          陰翳の舞姫

          暖かな陽が野を優しさで包みこみ とりどりの花々が一斉に咲き乱れ 誰も彼もが我世の春を謳歌する 満開の桜に賑わう堤の先 雑木の森が作る陰翳の足元に 密やかに咲くヒトリシズカ 四枚の艶やかな緑を従えて 凛と咲く小さな白いこの花を 照らすのは微かな木洩れ陽だけ 春の華やぎを遠く見守り 一人静かに舞いをまう 世の静謐を願うように

          陰翳の舞姫

          遅れ馳せの春

          南の強い風に乗って 大急ぎでやってきた 遅れ馳せの春 待ちかねていた草花たちは 一気呵成に蕾を解かし 甘い香りを振りまいて 蜜蜂たちが忙しなく渡る みるみるうちに萌えはじめた森では 鶯も四十雀も盛んにさえずり 軒先を燕がびゅんと掠め飛ぶ 我畠の土も温もってきて じゃがいもの芽吹きももう間近 野良の手を休めてしばし眺めれば 見渡す限り どこもかしこも 百花繚乱 春爛漫

          遅れ馳せの春

          春待ち、晴れ待ち

          もう四日もお天道様が隠れ続けて 挙句に今日は冷たい雨 桜の蕾もまだまだ固く 暖冬はどうしたんじゃいと 誰にともなく悪態を吐く 芽吹いたばかりの苗たちも 寒さを避けて部屋の中へ 窓辺でずっと日差し待ち 軟風にも折れそうなか細い茎で 薄黄緑の双葉をもたげ 雨雲のそらへ背伸びする 勝てない相手は泣く子と地頭と空模様 この先もしばらくぐずつく予報に 幼苗達の行く末を案じる 薄寒の彼岸明け

          春待ち、晴れ待ち

          探り探りの春仕事

          暖かな冬だと思いきや 菜虫が蝶になる頃を迎えても 寒さがもたもたと居座って 桜の蕾もまだ固いまま 夏野菜の苗づくりも 低温予報が気になって 二度三度と日延べして 気づけばもう春彼岸 いくらなんでももうそろそろと 見切り発車の育苗開始 天気予報と隣畠さんのご様子を そっと横目で伺いながら 探り探りの春仕事 期待と不安を綯い交ぜにして どうか無事に芽吹きますように 太く元気な苗に育ちますように

          探り探りの春仕事

          手前味噌

          土づくりと苗づくりの間の早春の日 食卓に欠かせない名脇役を仕込む 山の畠で仲間と共に育てた大豆を 大鍋で柔らかく煮てつぶしたら ひと肌ほどに粗熱をとり 塩と麹を混ぜ合わす 辺りに立ち込めるふくよかな匂い 手のひらに触れる柔らかな温度 しあわせな出来上がりの予感 桶につめて塩蓋をして あとはじっくり寝かせてやれば 麹がゆるゆると働いて ゆっくりとまろやかに 我が家の味に育っていく 唯一無二 天下無双 美味安心の手前味噌

          手前味噌

          大地の微睡み

          巣篭もりの小さな生命が目覚める頃と 春の暦はいそいそと 心を吾畠に向かわせる けれどまだ 大地の目覚めは行きつ戻りつ 照らされて温もって 霜に降られて凍てついて 繰り返しながら少しずつ 深いところまでほぐされてゆく 三寒四温 夢うつつ 微睡みの中を揺蕩いながら だんだんと季節が春になっていく 足どりのもどかしさを楽しむように

          大地の微睡み

          生け花

          秋に実った吾畠の大根たち 暖かかった冬のおかげか いつになく丸々と肥えて 一本で三本分の食べごたえ 鍋に 煮物に たくあんに 冬じゅう美味しくいただいて 大活躍の名役者ぶり 畠でそのまま冬越しの子は 刻んで干して切り干し大根 残った首根をいたずらに 水に浸して窓辺に置いたら 眠っていた本能が目覚めたか 青々とした葉を蘇らせて ついには小さな蕾を拵えた 春待ちの床間に飾られた 一瓶の生け花のように 凛と美しく光を指して

          早春の薫り

          畠の隅にある道具小屋の脇 無造作に掃き溜められた 落ち葉の蔭に芽吹いた蕗の薹 遠慮がちに広げた薄緑の葉の上に 小さな花蕾をぎゅうぎゅうに並べて 暖かな陽光をいっぱいに集める そっと摘んで持ち帰り 蕗味噌に仕立てていただけば 強烈に鼻腔をくすぐる早春の薫り 野生のいのちの力強さと豊かさに ひとりでに感謝の念で手を合わす ありがとう。いただきます。

          早春の薫り

          耡い初め

          月のこよみの正月もはや十日 日が随分と長くなり 夜明けもだんだん早くなり そこここに感じ始めた生き物たちの息遣い 雨水を超えた大安吉日を選び 吾畠に出て鍬を入れる耡初め 季節外れの暑さに大汗をかきながら 蔓延っている野の草を抜き 堆肥を撒いて土塊をほぐせば 手のひらに伝わってくる 畠の土の柔らかな暖かさ 頭の中に広げた作付設計図に照らし たっぷり実った野菜たちの姿を夢想して 4度目の春畠が、今始動する

          耡い初め

          春の羽音

          抜けるような青空を背に ふわふわと揺れる紅の梅 てんでに天を指す細枝の あちらこちらで蕾と花が さきを競って咲き誇る 忙しなく飛び回るのは この春初めての蜜蜂たち 生まれたての小さな体で せっせせっせと蜜を集める 少し強い南風に紛れても ブンブンと確かに響くのは 近づいてくる春の羽音

          春の羽音

          ムラサキシジミ

          冬木立のたっぷりした枯葉の上 点滅するむらさき色を見つけた 遠目にもはっきりと見える光に 吸い寄せられるように近づくと 日向ぼっこするムラサキシジミ 緩やかなリズムで翅を動かして 閉じれば枯葉にすんと溶け込み 開けば紫水晶のように光り輝く 鬼と炒り豆と太巻きが季節を分けて 名ばかりの春が立った翌日 南岸低気圧が連れてきた雪が あたり一面を真っ白に染めても 彼はじっと待っているだろう 枯葉の毛布にすっぽりと埋まって 春の暖かな光が森を包み込み 生命

          ムラサキシジミ

          屋根上の門番

          いつもと違う辻を左に折れると古家が軒を並べる小路。 寒風が和らぎ、背中を温める陽射しが心地よい。 この道で正解、と安堵して頬が緩む。 ふと見上げると、屋根上に長老髭の三毛猫。 じろりと私を検分し、にゃーとひと鳴き。 そのまま行くが吉の声、と思わず一礼。 眼前に広がる新世界は眩しく輝いている。

          屋根上の門番