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「バティモン5 望まれざる者」鑑賞後メモ
かつて貧しい市民たちがその手で封建的な体制を打ち崩した革命の歴史を持つフランスの現状にはどのような側面があるのか、この作品によって非常に繊細に描出されている。パリ郊外の一画における行政と市民の対立の構図は、まず端的に旧世紀の封建的社会に逆戻りしているかのような印象を強く我々に抱かせるが、武装しているのは常に行政側の特殊部隊の人間たちだけであり、バティモン5と呼ばれる主に移民系の貧しい人々が多く暮
もっとみる「カード・カウンター」鑑賞後メモ
「同じことの繰り返しだ。どこかへ向かっている気が全くしない」と話すカーク(タイ・シェリダン)に対して、「ああ。ひたすら回ってるんだ。納得いくまでな」と返す主人公のウィリアム・テル(オスカー・アイザック)らふたりの劇中におけるこのやり取りに今作が語ろうとしていることが端的にまとめられているように思えた。ブラックジャックや拷問というモチーフを通して語られるのは、人間があらゆる物事において「負けた」と
もっとみる「デューン 砂の惑星PART 2」鑑賞後メモ
IMAXの巨大なスクリーンにとてつもなく巨大なものが現れたり動いている様子が映し出され、さらに緻密に構築されたサウンドデザインの音響や劇伴が全身を貫いていく心地よさ。「デューン」自体は非常に情報量の多いSF小説ではあるものの、ドゥニ・ヴィルヌーヴによるそれは映画鑑賞の快楽性を押し出す方向性に振り切っている。個人的には少し拍子抜けするくらいに物語自体はシンプルに見えるようにまとめられているのは、や
もっとみるBAD HOP THE FINAL
久々にとてつもなくポジティブなヴァイブスに溢れたものを目撃した。特にガチなヒップホップヘッズというわけでもないタイミングから今までインターネットの端っこからひっそりと見守っていた、2010年代以降の日本語ラップシーンを牽引していた存在、BAD HOPによる目の前でのアンセムのつるべ打ちには興奮して頭がクラクラし始めると同時に、ドーム中が、そして俺の横にいる青年がとにかくずっと全力でシンガロングし
もっとみるTaylor Swift / THE ERAS TOUR
昨夜、2月8日木曜日のテイラー来日公演2日目、東京ドームでのライブを友人と共に観に行った。
ライブを見終わってからはずっと脳内で”Cruel Summer”が流れ続けている。今はまだ冬だし、なんならこれから花粉症シーズンだったりで、マッドな恋愛模様が個人的に展開されているわけでもないのだけれど。まあ、でもテイラーの書く歌詞はけっこう好きだな、とライブの前日くらいに思い出したようにYouTub
私の日は遠い #17
心が揺れ動き続けて定まらないような状態はとても疲れるなとシズオは思った。人の心なんてわからないものであるということはあまりにも分かりきったことだろうけれど、現実にはあまりにもそういったことが多すぎて心がすぐに許容範囲を追い抜かれてしまう。ただ取り止めのないような日々を過ごしているだけなのに、それでへとへとになることはしばしばある。スッと、自分が一番思っていることを伝えたり、分かりやすい言葉で胸の
もっとみる「エクソシスト 信じる者」鑑賞後メモ
アメリカという国を構成している根幹的な思想として存在するキリスト教的なマインドを解体していくことを今作は試みているというか、より平たく言えばアメリカに暮らす白人中年男性による自己批判的なトーンが本編を覆っている。それぞれの人物造形が図式的すぎるきらいはあるものの言及している事柄自体は非常にシリアスで根深い問題だ。
主人公のヴィクター(レスリー・オドム・Jr.)は過去の経験により宗教に対しては