見出し画像

知らなかった街が、特別な場所になるとき。

記憶力の低下が、とまらない。

今日も、食料品調達のついでに風呂用洗剤が切れていたことを思い出し、「よく気づいた私えらい」とホクホク買って帰ってきたのに、先週私自身が同じものを買ってきてストックしていたらしいことを知った。「らしいこと」とわざわざ書いたのは、帰宅後に夫に告げられて初めて自分の先週の行動を知ったから。そしてそれでも、先週風呂用洗剤を買ったことなどまったく思い出せないからである。

子どもの友達、といっても保育園の1つ上のクラスのお兄ちゃんお姉ちゃんたちたけど、彼らの顔と名前が一致しない。まったく一致しない。「この前も教えたよねー」と4歳児に叱られることもしばしばだ。

芸能人の名前も、出てきそうで出てこない。「ほらほら、あの女優の元カレが前につきあっていた人の今の旦那さん。ああ、名前なんだっけー、なんか明るい感じの名前だった気がする」ってな具合だ。

そんな風に、さまざまな種類の記憶力の低下に侵食される数年を送っている。

スクリーンショット (315)_LI

そんな2021年秋、オータム・クラシックのペアを見た。
多くの方が感激しているのと同じく、私も三浦&木原に胸を熱くした。まだ熱い。

今年3月の世界選手権での好演と国別対抗戦での再びの好演で審判団にも強く印象づけ、それから約半年後のこのオータム・クラシックで「世界選手権と国別対抗戦での2人のスケートは、“好演”というよりも、いつもやっていることを見せた演技(とはいえ世界選手権では、出し切れなかった悔しい、と彼らは語っていたけれど)」だと世界中に示したことを感じた。
そうやって経験を積んだことで、やっと2人に点数が追いついてきたなと、ほっとした。


さて、今回のオータム・クラシックは、ピエールフォンでの開催。
ピエールフォン。どこなのだろう? 検索してみた。

スクリーンショット (320)_LI

Google Earthをちょっと俯瞰めにすると、ピエールフォンはモントリオール郊外のようなところにあるのだと気づく。

スクリーンショット (335)_LI

近隣には、過去のさまざまな大会などで目に&耳にした、各地の名前が次々に現れてくる。
ロンドン、バリー、トロント……

こんなとき、弱々しかったはずの私の記憶力は、パワー全開になる。

ロンドンといえばテッサとスコットの生まれ故郷で、ここで開かれた2013年の世界選手権でとうとうヴォロ&トラが優勝してシーズン全勝になりそのまま五輪シーズンに向かって行ったんだった、バリーといえばやっぱりジェフよね、それから本田武史さん、織田さん、宮原さん……、トロントといえば……などなど、どの地名からも、具体的なスケーターや演技が次々に連想される。

さらに俯瞰していくと、シカゴやデトロイト、ニューヨークなども視界に入ってくる。

スクリーンショット (337)_LI

記憶力の爆走は、とまらない。

シカゴはジェイソンの実家がある場所で、デトロイトは木原くんの古巣であり、などなど、記憶力に加えて妄想力も大いに発揮されたりする。

そういえば、と思い、さっきの地図をもう一度見る。
やっぱりあった。
目にするだけで胸が熱くなる、「キッチナー」と「ミシサガ」の文字。

スクリーンショット (339)_LI

「キッチナー」と「ミシサガ」。
そう文字を打つだけで、胸が熱くなってくる。

キッチナーとミシサガは、特定の人々にはたまらない、大切な場所だ。
少なくとも、私にとってこの2か所+「バンクーバー」は、きっとずっと大切な場所であり続けると思う。
キッチナーもミシサガもバンクーバーも、ヤグディン(ファン)にとって、忘れがたい場所なのだ。

キッチナーは、ヤグディンとプルシェンコが熱闘、本当に熱闘を繰り広げた2001年GPファイナルの開催地だし、ミシサガは、ロシア人であるヤグディンの引退セレモニーが2003年に開かれた場所。バンクーバーは、2001年世界選手権開催地でもある。

キッチナーと聞くだけで、ひりつくような空気を頬に感じるし、ミシサガという文字を目にするだけで、心の中にさみしさが広がり、1人のスケーターを送り出す会場いっぱいのあたたかい雰囲気がよみがえってくる。
まあ、私はどちらも現地に行ってはいないのだけど、それでも、これらの地名を見ただけで、まるで現地で見ていたかのような映像と思いが、瞬時に脳内に再現されるのだ。


スケートを見てきた年月のなかで、そんなに知られた街ではないけれど、自分にとっては重大で大切な場所、というものがいくつもできた。
そうした場所1つひとつが、私のスケート観戦人生とリンクしていて、とてつもなく愛しい。

ピエールフォン。
この地名を、私は今大会で初めて知った。
もしかしたら聞いたことはあったのかもしれないが、残念ながら私の記憶力は低下しており、ひとまず、初めて知ったのだと思っている。

三浦&木原がまたひとつのステップをあがった、世界選手権と国別対抗戦だけが特別ではなくいつもこういうスケートができていることを見せた、穏やかで温かな演技を安定して見せられることを示した、点数も追いついてきた、優勝した、そして、ふたりの可能性がまだまだ広がっていることも感じさせた、2021年オータム・クラシック。
それが開催された街、ピエールフォン。

ピエールフォンは、私にとって特別な場所になった。
記憶力の低下も太刀打ちできないほど印象深く、彼らの演技やそれをとりまくすべてが、私の脳裏にたしかに焼きついた。


この記事が参加している募集

#一度は行きたいあの場所

50,167件

このnoteをいいなと思っていただけたら、「スキ」をプッシュいただけると大変嬉しいです。ストアヒガサ(スケート好きの雑貨店 https://storehigasa.stores.jp/)やTシャツ(https://suzuri.jp/storehigasa)もぜひ。