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未来国家ブータンへの考察、隣の芝生と幸福度

数年前からブータンという国に何故か惹かれている。パリのブックオフに立ち寄った時に、偶然見つけた、未来国家ブータン 高野秀行著 (2012年3月刊行)

これは読むしかないと思い早速購入した。
ブータンは世界一幸福な国だ、みたいなキャッチフレーズを幾度か聞いたことがあって、何が国民をハッピーで満足だと思わせているのか、すごく気になっていた。

2012年から国連が毎年3月20日の世界幸福デーに発表している“世界幸福度ランキング”(Gross National Happiness)は、アメリカのギャラップ社の世論調査をベースにして世界140以上の国や地域を対象とし、各国の約1000人に以下6項目を0(完全に不満)から10(完全に満足)の11段階で答えてもらった結果を専門家がまとめている。

国民総生産、所得
社会保障制度
人生の自由度
健康寿命
寛容度
腐敗、汚職

2013年のランキングでは、ブータンは8位だった。でも2019年に95位に留まって以降、ランキングには登場していないのだそう。
ブータンよ、何があった?!
ちなみに2024年1位はフィンランドが2018年以降7年連続で獲得している。
ちなみに日本は2024年51位。
面白い考察が書かれていたのだけど、このランキングはあくまでアンケートベース、日本人は控えめな気質なので、あなたは今幸せですか?と聞かれても、欧米人のように胸を張ってイエス!と断言する人が少ないゆえに、ランキングも下がるのだという。

当のブータンでは国の伝統やイメージを守るため、また「質の良い旅を少数の人に」と掲げていて、外国人観光客の入国を制限している。
よって、外からブータンの中の情報を知るのは、そう簡単なことではない。

未来国家ブータンの中で印象的だったのは、ブータン人の殺生観で、日本人や欧米人は大きな動物を殺すことを嫌がるが、ブータン人は逆だということ。
高野氏の知り合いのブータン人が日本に来て寿司を美味そうにぱくぱく食べていた時のこと、数の子やイクラといった魚卵と白魚だけは「食べられない」と顔をしかめたという。その理由は大きくても小さくても命は命、大型の魚を何人かで分けると罪悪感が減るが、1人で何十もの卵や小魚を食べるのは大量虐殺の気分になるらしい。また、肉に関して、どの肉が好きかと問えば牛肉という答えが圧倒的だったという。で、その理由は、大きいから。味どうこうの次元じゃなくて、動物を頂くときにはどうしても殺生観が先に出てくるというのだ。
でも、だからと言って国民がベジタリアンとかヴィーガンて訳じゃなくて、肉だって食べる。ただ、家畜のヤクをと殺しなければならないときは、自分では罪悪感が勝ってできないので、近所の人にやってもらったりするらしい。
それから、ブータン人は進路に迷ったら占い師に決めてもらうし、運気が落ちていると感じたら祈祷師にお祓いをしてもらって気分を上げる。
その決めてもらった進路も、”もともと運命は決まっていた“的なニュアンスだから、そこは誰も責任は負わないし、運気が落ちているのは何かに取り憑かれているせいだから、それを祓えば万事オッケー。
国王はイケメンで人気者で、自らの足で国を行脚して農地の視察や土地の配分に関わっている。
とても独特な文化を持った国だと思う。

ここで高野氏の総括を。

そうなのである。ブータンを一ヶ月旅して感じたのは、この国には「どっちでもいい」とか「なんでもいい」という状況が実に少ないことだ。
何をするにも、方向性と優先順位は決められている。実は「自由」はいくらもないが、あまりに無理がないので、自由がないことに気がつかないほどである。国民はそれに身を委ねていればよい。だから個人に責任がなく、葛藤もない。
ブータンのインテリがあんなに純真な瞳と素敵な笑みを浮かべていられるのはそのせいではなかろうか。
教育水準が上がり経済的に余裕が出てくると、人生の選択肢が増え、葛藤が始まるらしい。自分の決断に迷い、悩み、悔いる。不幸はそこに生まれる。でもブータンのインテリにはそんな葛藤はない。庶民と同じようにインテリも迷いなく生きるシステムがこの国には出来上がっている。ブータン人は上から下まで自由に悩まないように出来ている。それこそがブータンが「世界でいちばん幸せな国」である真の理由ではないだろうか。

と、ここで、ブータンが2013年当時幸せ度満開だったことが見てとれる。
現在ブータンでは、インターネットも普及して、情報鎖国だった10年前よりはるかに多くの情報が流入するようになり、他国と比較できるようになった。
現に都市部の若者たちは伝統と欧米の文化の狭間で揺れ動く。

情報が溢れ返り、物も選択肢も多い日本人の幸福度が低いのは他人と比べたがる気質も関係している。
幸せって人と比べるものじゃないんだよ。
わかってるんだけどね、
隣の芝生は青く見えるものなんだよ。
The grass is always greener on the other side but you need to know that yours is also beautiful.

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