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未発売映画劇場「サント対死の商人」

第51弾の今回は、1982年9月にメキシコで公開された「Santo contra el asesino de la televisión」 英題では「Santo vs. the TV Killer」だが、「el asesino de la televisión(テレビの殺人鬼)」とは何か? それは本編を見ればわかる仕組み。

と、映画が始まるとすぐにタイトルにふさわしく、いきなりテレビの歌謡ショー。チョビ髭のオッサンが気持ちよく歌うさまを、居間に座ったメキシコファミリーが仲良く鑑賞中。

このオッサンが今回の一方の主役、どっかで見たような気がしていたが前回の「サント対国境の悪魔」で活躍したヘラルド・レイエス(Gerardo Reyes)だった。前回も今回も役名は本名のままでいわば本人としての登場なのだが、今回は歌手として歌も披露する。

じつはこの人、もともとは本当に人気歌手で作曲家、メキシコのフォークロア音楽の人気ジャンルであるランチェロを代表する歌手なのだ。その後に映画にも進出し、名実ともにメキシコ芸能界を代表する大物になった。

で、その大歌手ヘラルドの番組が突然中断し、謎の黒覆面の男が出現するのが事件の発端。

ブラック・サントではないぞ

テレビ電波をジャックして番組に割りこんだ黒覆面、これから犯罪をおこなうと宣言し、画面は町中へ。現われた二人の暴漢がいきなり人気女優を誘拐する。なんのために? そんなことカンケーなし。つづいて宝石店強盗なども生中継。これぞ「テレビの殺人鬼」いやいや殺人はやってないが。

というわけで、サントと人気歌手ヘラルドのコンビが事件を追うことになる。ちなみにサントとヘラルド氏はもともと知り合いのようで、サントの交友関係の広さには感心させられるね。

黒覆面の悪役は、かつてメキシコから追放された武器商人で、外国で財を成したのちに、復讐のために帰国したそうだ。

それにしても、テレビ電波をハイジャックして番組に割りこむって、この手の映画ではしばしば出てくる手口だが、そう簡単にできるもんじゃない。テレビ放送の出力って強力なんだよ。

今回の黒覆面は、そのために郊外の洞窟に秘密基地を設け、そこに放送設備を用意している。おお、007以降の悪役たちが大好きな秘密基地だね。まぁ秘密っていっても、洞窟の上の地上にパラボラアンテナがドーンと並んでいたりするんで、バレバレな気がするが(もちろん最後はドッカーン)

悪役たちが好む秘密基地の一例

サントたちはちょっとしたことから鋭く秘密基地に位置を推理し(ここはまぁまぁ巧い伏線あり)基地へ乗りこむと大勢の部下どもをなぎたおす。しかし人質をタテにされて万事休す。黒覆面は捕らえたサントを火炙りにしようとするが、そんなめんどくさいことをしている隙に反撃されてしまう。このへんはいつものサント映画。

ただし、この脱出劇にはかなりのモンダイがある。サントの危機を察知した超能力者が遠方からの念力でサントの拘束を外すのだ。えええっ、途中から出てきてたけど、この人ってマジシャンじゃなかったっけ? いやいや、そんなことカンケーないのもサント映画でしょ。

メデタシメデタシで大団円となり、ラストではこのマジシャン氏のステージショウで閉幕。ちなみに今回もサントのマネージャー役で活躍(?)するカルリートスくん(カルロス・スアレス)が、ここでも場をさらう。彼はこのためだけの登場だったのかも(笑)

さて、サント映画名物である試合シーンは2試合が用意されているが、そのうち1試合はストーリーに組み込まれていて、試合としてはノーコンテスト(無効試合) 相手は誰だったかな、まぁいいや。

ただしもう1試合のほうでサントのタッグパートナーをつとめるのが、ハン・リー(Ham Lee)なのは注目に値する(試合にもちゃんと勝つ)

人気レスラー、ハン・リーの雄姿

ハン・リーは1932年生まれ。メキシコ生まれの中国人らしいが、かつてはハワイ生まれともいわれていた。

この映画の試合でもチョップを主武器としているし、リングネームからしても、ブルース・リーのイタダキに思えるが、じつは1954年デビューだから、ブルース・リーのブレイク作「燃えよドラゴン」よりもはるか以前から活躍していたことになる。偉い

この映画の時点で50歳くらいだったはずだからすでにけっこうなベテランだし、メキシコでは自分のジムを持つくらいだったそうだ。堂々とサント御大のタッグパートナーをつとめているのも当然だろう。

ついに未来日に終わったサントと違い、ハン・リーは1970年代に6回も来日している。初来日は1972年で国際プロレス、その後は新日本プロレスに登場していた。

していたんだが……初来日時にはザ・アベンジャーとして覆面レスラーに変身、そして新日本初登場の1973年にはなんと白覆面をつけてエル・サントを名乗ったのである。贋サントとは、なんと大胆不敵、あるいは比類なき図々しさか。さすがにメキシコでも顰蹙を買ったとかで、次の来日時にはザ・アベンジャーに回帰し、その後の3回は素顔のハン・リーとして来日している。

してみると、今回の映画では真贋のサントがタッグを組んでいたわけで、豪華というべきか、なんとも趣き深いものがある。マニアには見逃せない一戦なのかな。

ヘリコプターからボディアタック!(嘘)

最初に書いたように、この作品は1982年9月の公開。さてサントの出演リストには残る作品があと3作あるのだが、資料によるとこの「Santo contra el asesino de la televisión」が「サントの最後の主演作」だとしているものがあるのだ。サントの死去は1984年2月5日(66歳没)だから、時系列的にはうなずけないこともないが……

じつは残る3作のうち1作は以前にちょっと書いた(ような気がする)サントの息子エル・イホ・デル・サントの映画デビュー作なのでゲスト出演的なモノなのは容易に予想がつくが、のこる2作がどんな内容なのか、ほんとうに今回が最後のサント映画なのか、次回以降にご注目願いたい(冗談ですよ)

【前回】サント対国境の悪魔

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