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「きらきら風車は、姉の愛情の風に乗っていた」ヒスイのシロクマ文芸部

風車がキラキラまわっていた。
うちの実家に。

……シュールだ。シュールすぎる風景だ。
なんでキウイフルーツ棚で、メタルチックな風車がクルクルしてるんだ?

思わずじーっと見ていたら、姉がため息をついた。

「あのね、ハトが来るのよ」
「へえ?」

一瞬、姉がどうかしたのか、と不安になったが、話はすぐにわかった。

「ハトがね、うちの庭に来るの。
 でね、ハトって、いちど『お気に入りの場所』って決めたら、絶対に出ていかないんですって。
 で、パパがハト除けを買ってきたのよ」
「ハト除け。あのキラキラ風車が?」
「そう」
「効果あるの? あのキラキラでハトがびっくりして、逃げるとか?」

姉はしばらく黙っていた。
まわりに誰もいないのを確認してから静かに言った。

「きかない」
「きかない?」
「ぜんぜんきかない」
「じゃあ、はずせばいいじゃない。何で置いてあるの」
「……パパが買ってきたから」

ふっと、姉と私の間に沈黙が落ちた。
ややこしい沈黙じゃない。
シンプルに、『意味が分かんないよ、お姉ちゃん?』という沈黙だ。

「あんたさ、今日は晩ごはん食べてくでしょ」
「う、うん」

姉は急に話題を変えた。
めずらしい。この人はいつも、論理的に物事を話す人だ。
常にゴールから逆算して、会話を始める。
こんなふうにいきなり別次元の話を始めるのは珍しい。
っていうか、非常事態かも。

コッチが身構えているのに、姉は淡々と、

「今夜はビーフストロガノフなの。たくさん作ったから、ケロちゃんにも持って帰ってね」
「……ありがとう?」
「だからね、あんたの友だちに、『腕のいいハト除け業者』がいるってことにしてね」
「はあ??」
「でね、夕食の席で、あの風車について聞くのよ。
パパが『アレはハト除けの風車で』って言いだすから、そこであんたが『あっ、あたしの知り合いにいいハト除け業者がいるよ』って言うの、わかった?」
「わかった……けど、あたし、『ハト除け業者』なんか知らないよ」

「あんたは知らなくていいの。私が知ってるから」
「じゃあ、お姉ちゃんが直接、お義兄さんに言えばいいじゃん。
なにそれ、わけわかんない」

はあ、と姉はわざとらしくため息をついた。
アホな妹に、よぶんな時間を割きたくないって感じ。

「あの風車は、パパが買ってきたの。わざわざ。『こいつは絶対ハトに効く』って言い張って。
あんなもんは気休めにもならないけど、パパがそう言っている以上、置いておくしかないでしょう。

私がハト除け業者を手配したら、パパのプライドはズタズタ。
男の人のプライドって、女が考える以上に繊細なんだから」
「……めんどくさい」
「結婚生活ってのは、面倒が積み重なってできているもんなのよ」

姉は立ち上がって、キッチンへ行った。
ビーフストロガノフの仕込みを始めるんだろう。
私は庭のキラキラ風車を見る。

お義兄さんのプライドが、姉の配慮に包まれてキラキラと回っていた。

初夏の風。
姉の愛情。

ああややこしい。
けど。
なんだか幸せなややこしさだなと思った。

キラキラキラ。

【了】

本日は 小牧幸助さんの #シロクマ文芸部  に参加しています。


今日のお話はほぼ事実です。
書いたことが姉にバレたら、ちょっとヤバいです(笑)

お姉ちゃんがnoteを読んでいないことを祈ります(笑)
ちなみに、実家のキウイフルーツ棚に刺さっていたのは
まじでこんなやつ。

キラキラしてました(笑)。キレイでした。
が、姉に言わすと『役に立たん!!!!』だそうです(笑)

本日もヤスさんの #66ライラン  に参加しております

いちおうヒスイは、まだ、マガジンに参加できている。
だから連日投稿している、ということだが。
あと何日で66日目になるのか、わからない(笑)

ゴールが分からずに走っているランナー。
けっこうやばい(笑)
だが、またあした(笑)


ヒスイの シロクマ文芸部参加作はここで読めます!
ヘッダーは はそやm画伯から借りっぱなしです。ありがとう(笑)


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