「さて、死んで来るか。命乞いする蜘蛛を割り」ヒスイの毎週ショートショートnote
「私を差し出せば御命が助かりましょう。ぜひに、ぜひに」
彼女は完璧な曲線を作り、つつましくうずくまっていた。
ほ、と彼女の肩がふるえたように見えた。
松風の音が聞こえる。
無音の室内に、煮えがつく音が広がる。
水一杓で湯の煮えがいなされる。俺の揺れも、いなされる。
茶室の中が一瞬だけ静まりかえり、ふたたび湯が沸きはじめる。
「おまえを命乞いには使わん、『平蜘蛛の釜』よ」
茶筅を振る。茶が練りあがる。
虚空で、俺は俺を殺そうとしている男に茶を差し出す。
織田信長。裏切り