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トラベルボイスで学ぶ観光経営学Vol.1「北海道ニセコのタクシー不足解消対策」で学ぶ

この記事は、コンサルタント/経営学者である私が大学の講義で学部生向けに実施している授業の中で実践しているものを一部紹介します。

学生たちに理論を教えても、実際に使いこなすのが難しいという声を良く聞きます。そこで、実際の観光に関するニュースを題材にして、ニュースの裏にある観光経営理論を探して復習しようという試みです。色々なニュースがある&学生や社会人も読みやすいということで、トラベルボイスさんの記事を取り上げます。

研究者の方はもちろん、企業研修などにもご活用いただけると嬉しいです。もし、ご活用されたらご感想などいただけるとモチベーションに繋がります。

なお、学部生向け&現実への適応ということで分かりやすさを優先しているため、アカデミックな視点ではお叱りを受けるような点もあるかもしれません。コメントなどいただけますと嬉しいです。

タクシー不足がやってきた

最近(2023年10月)では、なかなかタクシーがつかまらないという声をよく聞くようになりました。私も出張時にタクシーに乗ろうとしても全然ないという経験が以前よりも多くなった気がします。

ちなみに、駅前のタクシー乗り合い場所にタクシーが全くない&全然来ない時。アプリで呼ぼうとしても、駅前はタクシーアプリ除外エリアで、拾えるエリアまで、歩いているうちに駅前にタクシーが来るという、「ガッデム!!」と蝶野正洋なみに怒りがこみ上げるなんて体験をされた方は私だけではないでしょう。

このタクシー問題。特に観光地においては大きな問題になっています。特に地域ではタクシー運転手は高齢者が多く、コロナ渦のタイミングで多くの高齢者ドライバーが引退したという話を良く聞きます。そんなタクシー問題に関して、とても面白い試みがなされました。ただ、このニュースはタクシー問題なだけではなくて、観光地経営における重要概念を学ぶ素材にもなりそうです。

ということで、今回取り上げるトラベルボイスのニュースはこちらです。

ニュースの概要

ニュースの概要について見てみましょう。

北海道ハイヤー協会、倶知安町、ニセコ町およびGO社は、新たなタクシー活用法として「ニセコモデル」を立ち上げる。これは、冬季期間のインバウンド増加に伴うオーバーツーリズム対策として実施するもの。期間限定でタクシー車両・乗務員を他営業圏から派遣し、ラストワンマイルの足を確保する。

オーバーツーリズム対策で実施するとされています。先に述べたタクシー不足とは、少し違う現象がニセコでは起きているようですね。その理由についてもニュースは説明してくれています。

ニセコエリアでは、12月~3月の繁忙期間は移動需要が局地的に増加するため、観光客、地元住民ともにラストワンマイルの移動が困難となっている。一方、地元のタクシー会社は、ドライバー不足に加えて、採算性から閑散期に応じた車両数で稼働せざるを得ないのが現状だ。

「ニセコモデル」では、ニセコエリア限定で、タクシーの営業区域外旅客運送と遠隔点呼の仕組みを活用し、札幌など他エリアからタクシー車両と乗務員を応援隊として派遣する。乗務員の宿舎確保や滞在費補助は町が担い、車両はアプリ注文限定とする。

観光経営学を学ぶための背景

このニュースの意味を知るためには、タクシー業界の現状という背景を知る必要があります。ちなみに、タクシー業界の現在の状況については以下の記事に詳しく紹介されています。先日、非常勤先で学生たちに聞いてみましたが、そもそも学生の多くはタクシー業界の規制を知りません。なので、このニュースで学ぶためには前提知識が必要です。


第24回ディベート甲子園 中学論題
「日本はタクシーに関する規制を大幅に緩和すべきである。是か非か」
(閑話休題)ディベート甲子園とは、中高生による日本語ディベートの全国大会のことです。中学生がこの論題を半年間にわたってリサーチして、ディベートの試合をします。私も毎年審査員として参加してます。

今回の目的からすると、タクシー業界は規制が厳しく会社の一存で台数を含めて柔軟に変更ができないことが問題となっています。

以下からはこのニュースをケースにして観光地経営概念を実際のケースに適応させて説明します。学生向けの教材として使いたい方は、ぜひこの段階でご自身であれば、どう活用するのかを考えてみてください。



それでは、私だったらどう使うのかについて以下記載します。

今回の事例で学ぶ観光経営概念①「シーズナリティ―」

タクシー業界の規制が分かりました。多少なりとも経済学や経営学をやった皆さんであれば、タクシー規制における問題が見えたことでしょう。そうです。問題は「需要と供給」です。タクシー業界が柔軟に変更できないということは需要に対して供給をコントロールできないということを意味しています。需要は顧客が決めるものなので、供給側では常に予測しながら動くことになります。そのため、需要に柔軟に対応する供給力が問題となるわけです。海外ではシェアライドとしてUberが使えますが、これはITツールを使って変化する需要に対して供給を柔軟にさせる効果を持っているといえます。

さて、ここまでだと一般的な話なのですが、観光ではちょっと大きな特徴を持った需要と供給があります。それが「シーズナリティ―」です。もっとも、これは一般商材でもあるものです。例えば、チョコレートは2月に需要が増大します。バレンタインのせいです。ちなみに、イチゴは12月に増大します(理由は考えてみましょう)

このように季節の影響で需要が大きく変化する現象のことを「シーズナリティ―」といいます。観光の場合には、地域によってボラタリティ(ふれ幅)は異なりますが、ほぼあらゆる観光地で「シーズナリティ―」があり、観光経営の大きな課題になっています。

もちろん、今回のニセコにもあります。ニュースによれば

ニセコエリアでは、12月~3月の繁忙期間は移動需要が局地的に増加するため、観光客、地元住民ともにラストワンマイルの移動が困難

とのことですので、繁忙期は12月~3月。この時期に需要が爆発するようです。とまあ、ここまで時期が分かっているならその時期だけ増やせばいいじゃんと思うかもしれません。はい。ここで問題ですね。そう、タクシー業界は柔軟に変更できないのです。

そうなると、基本は1年間同じ体制できいくしかありません。でも、需要爆発しているのは12月~3月だけです。こうなると、タクシー業界としては需要爆発を基準にして体制を整えてしまったら、需要が無い時も固定費用(機材や運転手の給料)などを払い続けることになります。それはキツイ。

ということで、需要爆発が来ることを分かっていながらも、「気合で乗り切るぞー」みたいな感じにならざるを得ない。ということになっています。

このように観光地においては、シーズナリティ―問題のせいで投資しにくいという課題を抱えることがよくあります。

今回の事例で学ぶ観光経営概念②「ルールメイキング」

今回のニュースでは、こうしたシーズナリティ―の問題を解決しようという話だったわけですが、先のように法律の壁があって難しくなっています。普通ならここで「まあ、仕方ないか」となるところですが、ニセコがすごいのはここから。一言で言うと「既存法律の解釈運用で事実上のシェアライド可能な仕組みを実現させた」ということです。

実はタクシーに関して2022年に法律が緩和されました。それが「遠隔点呼」です。詳しくはこちらにあります。こうした新しい変化に着目して地域側から新しいルールの運用を提案して実現させたというのは、現場のご苦労を感じます。

近年では情報革命を背景にして、こうした法律のグレーゾーンになりえるようなサービスが誕生しています。有名どころではまさにUBERですね。既存の法体系の想定以上に世の中の変化が大きいため、新しいサービスに法律が追い付いていないわけです。そこで、諦めるのではなくて企業側が積極的に法律等に働きかける、いわば新しいルールを作るために動くことがおきています。弁護士の水野祐さんは『法のデザイン』という本の中で、ルールメイキングという概念として説明しています。

ルールメイキングというと立法のイメージが大きいと思いますが、今回のように既存法律の組合せによる解釈という新しいルールを提示するのもルールメイキングの1つだといえると思います。

観光地経営においては、自治と関係するような形でこうした既存の法律では何とも言えない状況であったり、規制条例であったりなど地域と観光の関係を法律で規定するようなことも多いと思います。ニセコの事例は地域側が積極的にこうしたルールメイキングにチャレンジしていくことで、自分たちが理想とする観光地に近づけることができるという一つの事例だと思います。

今回のニュースのまとめ

今回の記事で学んだ観光地経営概念は以下の2つです

①シーズナリティ―
②ルール・メイキング

上記2つの概念は他の観光地でも良くあるものだと思います。ぜひ、ご自身の地域に当てはめて考えてみてください。


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