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山口市の「日常」とは何か ~ニューヨークタイムズ2024年に行くべき52か所選定を受けて~

山口市が「ニューヨークタイムズ 2024年に訪れるべき52ヵ所」に選ばれたことが話題を呼んでいます。


昨年は「盛岡市」が注目を浴びる


昨年は盛岡市が同様のリストに選出され、注目を集めました。選出から3ヶ月後の4月には、盛岡市は既にインバウンド特需で賑わい、最終的には前年度の3倍にあたる18万人の来訪者を迎え入れました。コロナ禍の影響を考慮に入れても、この増加は注目に値します。

盛岡市の魅力や選定理由については、下記の詳細な記事が存在しました。盛岡市は「東京から新幹線でアクセスしやすく、歩きやすい街」と評価され、その街並み、建築物、城跡公園、珈琲店などの様々なスポットが高く評価されたようです。

岩手県の対応

岩手県は、盛岡市の選出を受けて同年秋に国の支援事業を活用した観光キャンペーンを期間限定で開催したようです。この一大特需に行政も乗りださずにはいられないとのことで、官民一体で盛り上げが行われたようです。

2023年1月、ニューヨーク・タイムズ紙の「2023年に行くべき52か所」にロンドンに次ぎ盛岡市が紹介されました。
 県では、この好機により多くの外国人観光客を呼び込み観光の活性化等につなげていくため、国の「観光再始動事業」を活用し、盛岡市と、3つの世界文化遺産を会場に、9月から10月にかけて期間限定の特別なイベントを実施します。

岩手県HP「2023年に行くべき盛岡・岩手宝探しの旅」 令和5年9月22日

また、盛岡市も昨年1月のニューヨークタイムズの選定を受け、観光客向け、市内関連産業向け双方に、インバウンドに関する情報発信を強化していたようです。

本題:なぜ山口市が選ばれたのか


では、なぜ山口市が選ばれたのか。

実は、昨年盛岡市をニューヨークタイムズに推薦したCraig Mod(クレイグ・モド)氏が、同様に山口市をニューヨークタイムズに推薦されたそうです。

推薦内容について、ひろっぴー様がnote記事にまとめてくださっていました。彼の言葉を借りれば「大都市でない小さな都市の中で、素晴らしいライフスタイルが味わえる街」が山口が評価された点となっているようです。

推薦者本人のコメントを読む

私も実際に推薦者ご本人が公表した推薦理由を読んでみました。

萩往還、瑠璃光寺、陶芸窯や珈琲店・カフェ、おでんや鍋を提供するカウンター型店舗、湯田温泉、YCAM、中原中也記念館、祇園祭。。。

この文章の中で挙げられている内容は、どれも山口市民にとって馴染み深く、派手な観光スポットではなく、むしろ山口市民の生活そのものが押し出されているように感じました。

山口の”日常”とは

山口市の魅力は、その日常にあるようです。近年インバウンド観光において体験型観光が重要視されていますが、今回の推薦理由を踏まえると体験型よりもさらに日常に寄り添った、山口市の日常や市民のコミュニティ、日々の営みが観光の鍵を握っていると感じました。

となると、山口の日常とは何でしょう?

山口市の象徴といえば、まずは私が浮かんだのは瑠璃光寺、ザビエル記念聖堂の鐘の音、SL山口号の汽笛…でした。これらは山口市の歴史的な背景と現代が共存するシンボルと感じます。

また、中心商店街一の坂川パークロード周辺の街並みは、「特に用事がなくても、帰省するたびに歩きたくなる」そんな魅力があります。カフェ個人経営の飲食店が多く、散策するたびに新しい発見が待っています。

そして夜になると、湯田温泉の賑わいも見逃せません。連れて賑わいを増す湯田温泉の街並み…。足湯に浸かり、旧9号線沿いや錦川通りを散策し、裏路地にある居酒屋で一息つくのも、山口市ならではの楽しみです。

さらに山口市は、室町時代に大内文化の中心地として栄え、江戸後期から明治初期にかけては維新胎動の地として日本の歴史に名を残しました。市内に点在する史跡や名所は、一見すると身近な石碑のように映りますが、これらを結びつけると、山口市の歴史の物語が姿を現します。このストーリー性が、山口市の日常に溶け込んだ魅力の一つです。

一方で、山口の非日常としても祭り文化も、逆説的ですが山口の日常を成す重要な側面の一つと感じます。白狐祭りちょうちん祭り祇園祭などは、いずれも山口市の歴史と伝統を感じる瞬間です。また、近年では湯田温泉酒祭りも個人的には注目のイベントです。山口市の祭り文化は、訪れる人々にとって、山口市の「非日常」ながらも身近な文化体験となりそうです。

これらの魅力を気取らず、ありのままに伝えることで、来訪者に山口ならではの体験を提供することができるのではないでしょうか。

ちょっとした余談

少し話は逸れますが、推薦者クレイグ氏の記事で紹介された萩往還は、私にとっても懐かしい思い出が詰まっています。高校時代「萩往還を歩く会」なる学校の恒例行事を企画し参加していました。萩から山口までの道のりを1日がかりで歩きましたが、途中地点の佐々並の街並みに出会った時の安心感は今でも鮮明に覚えています。普段見慣れた木造家屋が、不思議と温かみと安心感を与えてくれた瞬間でした。

このような何気ないけれど心地よい「安心感」こそが山口の隠れた魅力なのかもしれない…本記事を書きながら、そのように妙に納得してしまいました。

今から何ができるか

推薦者の視点を踏まえると、山口市の観光を推進するにあたり重要なのは、観光地を新たに開発することではなく、現在の日常をいかにそのまま、来訪者の方に感じてもらえるかが肝要です。

例えば、現在改修中の瑠璃光寺五重塔について、当初は「惜しい、今だと本来の姿を見せられない!」と感じました。しかしよく考えてみれば、この改修作業自体が「山口の今」を表しています。この改修は市民の寄付によって成り立っており、定期的な改修が行われることで技術の継承や景観維持が可能となっています。少し大袈裟かもしれませんが、改修中の瑠璃光寺五重塔は単に修復中の歴史的建造物ではなく、市民の協力と共に成り立つ、生きた文化遺産としての役割を果たしているのです。

山口の今をいかに、等身大に、表現するか

このような山口市の歴史と文化、そして今に至るストーリーを訪問者にどう伝えるかは、私たちの創造力と表現力にかかっていると感じました。この「山口の今」を、生き生きとした形で伝えることこそ、私たちに出来ることではないかと感じました。

私自身も、山口の日常をいかに表現し、その魅力を伝えることが出来るか、自分にできることは何かを少し考えてみようと思いました。

山口県全体に目を向けて…

これまで敢えて山口市の中心市街部に筆を向けて書き起こしていましたが、山口には中心市街部だけでなく市全体、さらには県全体にわたって魅力的なスポットが多数存在しています。

角島、元乃隅神社、別府弁天池、常磐公園、秋吉台・秋芳洞、萩の街並み、ホルンフェルス、防府天満宮、周南コンビナート群、錦帯橋…挙げればきりがないほど価値ある観光地が広がっています。そして、観光地だけではなく、今回山口市が注目されたように、これらの地域にもそれぞれの特色を持った日常が息づいています。

これらの情報も一体的に発信することで「また来たくなる山口」「何回訪れても新しい発見がある山口」を形成できるのではないでしょうか。今回山口市がクローズアップされたのは素晴らしいことですが、山口県全体の多様な魅力も同時に注目されることを願いたいと思います。

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