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【台湾の面白い建物】高雄港旅運中心

この建物のことが気になり出したのは、2018年のことです。高雄の臨海地区には多くの新しい施設が建設されています。高雄展覧館、高雄の流行音楽中心、高雄市図書館總館など。それらの中でも特に異彩を放って工事中だった建物が、この"高雄港旅運中心"です。高雄港の新しいクルーズ船用ターミナルです。

工事中から、この複雑な形状は明らかだったので、鉄骨の架構が出来上がった状態でも、その特殊な外観はとても人目を引くものでした。そして、その後高雄の臨海地区に行く度に様子を見に行っていたのですが、2023年になっても完成していませんでした。鉄骨工事が終わってからの外装工事が、とても大変だったものと想像されます。

2024年になり、ようやくこの建物が完成したとニュースが流れたので見に行ってきました。
出来上がったものを見て改めて驚きました。これだけ三次元的にうねうねした建物を施工するのは大変だったでしょう。説明に三次元BIMを駆使して設計施工されたとありましたが、そうでないとこの形は実現しなかったでしょう。

建築家とランドスケープデザイナー

この建物の設計者はReister + Umemotoとクレジットされています。Reisterがアーキテクトで、Umemotoがランドスケープデザイナーです。Umemotoは梅本でしょうね。日本出身のデザイナーだそうです。
台湾側のローカルアーキテクトは宗邁建築師事務所です。公共建築にとても実績のある事務所です。

外観

この建物の外観に対する僕の第一印象は、まるで"オットセイ"の様だというものでした。低層部と高層部を一体的な曲面のヴォリュームで構成していること、その各部の断面形状がコーナーを丸くした曲面になっていることから、僕にはオットセイが首を伸ばして海岸に立っている様な姿に見えました。
設計のコンセプトには、高雄港における海上からのゲートとして相応しい特徴ある形を模索したとありました。この様な抽象的な意図をもってデザインされたようです。

この曲面を多用するデザインは、建物本体だけではなく、ランドスケープや車路スロープなどにも徹底されています。水平な面は床面のみなのではないかと思われるほどに、曲面にこだわって建物が計画されています。

インテリア

外観は想像していた通りでしたが、内部にもとても劇的なインテリア空間があるのには驚きました。外から見えた不思議なガラスの開口は、内部では大胆なハイサイドライトになっています。想像の斜め上をいく空間構成に、とても感心しました。
このスペースはクルーズ船で出発する時の出国ゲートです。飛行場とは違ったとても高さのある空間から、内部に吸い込まれていく感じが、とても高揚感を与えます。これは他の場所では見たことのない空間体験でした。

ルーフテラス

このクルーズターミナルの空間的な特徴は、低層部の上にあるルーフテラスにもあります。この場所には室内を介さず、外部のエレベーターで直接上がることができ、施設がオープンしているか否かに関わらず利用できる様になっています。(夜間は管理上閉じられている様です。)
クルーズ船ターミナルなので、この高さは船の甲板と同じくらいの高さになっており、船が出航する際には、この場所で見送りができる様にという配慮なのでしょう。桟橋のレベルから上を見上げるのとは異なったお別れの風景を演出できます。船の姿をよく見れることも特徴ですね。

問題点

この様に内部・外部・ルーフテラスとも特徴のある素晴らしいデザインのターミナルなのですが、動線の作り方などにいくつか問題があると考えられるので記しておきます。

一つは、MRTのある1階から2階の出発ロビーまでの動線がとても分かりにくいこと。サインもはっきりとは分からなかったし、空間としても何処に向かったら入り口になるのだろうと、分かりづらい作りでした。
結局のところ、あるエレベーターを使えば2階に上がれたのですが、そのエレベーターまでの動線はとてもわかりにくかったです。
2階に上がるとその理由がわかりました。このクルーズ船ターミナルは、車で2階に直接アプローチすることをメインの動線と考えている様なのです。それは基本的に大型バスでたくさんの人が乗り降りするという想定なのでしょう。僕の様に徒歩でMRTで来るなどというお客さんは、実際あまりいないのかもしれません。
とは言え、その様な徒歩の客の動線もキッチリ配慮した方が良いのではないかと思いました。

もう一つは、この日クルーズ船が到着していたので、沢山の乗客が降りていたのですが、彼らは建物の外にあるテントで、手続きをしていたことです。それがどの様な手続きだかは分かりませんが、高雄のとても暑い気候の中、屋外で行列をしながら待っている様子は、高級なクルーズ船に比して、とてもそぐわないイメージがありました。
屋内にその様な手続きスペースを設けて、クーラーの効いた環境の中、お客さんを待たせるべきなのではないかと思いました。

これらがこの施設の問題と認識されているのかどうかは分かりません。仮に問題だとすると、それはプログラム作成時の問題だと考えられます。その様なことは設計要件として示されていなかった。その為にこの様な計画になっているのだと思います。

外観

低層部と高層部が一体となっている建物の構成。
東側立面。こちらから見ると高層棟が直接立ち上がっているように見えます。
ヴォリュームが曲面であるだけでなく、カーテンウォールも斜め方向に設けられています。
この外装工事の難易度はとても高いでしょう。
タワーと低層部の接合部分。立面が捻れて重なっています。
タワーと低層部の外装の対比。
この様な立面のイメージはどこから来たのでしょう。不思議な未来的な印象です。

ルーフテラス

ルーフテラスに登ると、この様なガラス面が現れます。
外から見てもその用途は分かりませんでした。
ルーフテラスに張り出したヴォリュームの処理。
ルーフテラスから室内への入口。
この室内はまだ完成していないようでした。
建物とクルーズ船のヴォリュームがちょうど良い感じです。

一階周り

2階のメインエントランスへのスロープ。
高さを稼ぐためにこの様にうねっているのでしょう。
1階の車寄せ空間。柱の形が工夫されています。
1階から見た低層棟とスロープの様子。
1階の車路と2階への車路が交錯しています。

インテリア

クルーズ船の出発ロビーです。
とても変化があって昂揚感に溢れるデザインです。
この様にハイサイドライトの方向に向かって進むという、
合理的な空間構成になっています。
とても複雑な曲面の構成になっています。

外壁ディテール

この建物は鉄骨造でしたので、何らかの外装材で止水処理をした後に、この様な曲面パネルを表面材として取り付けいているようです。この様なディテールは台北の表演藝術中心でも見ましたが、どのような材料なのかはまだ分かりません。



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