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ハードワールドコンクエスト 第二話【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


キャラ紹介

ベルク=メンデレス(16)アスマト帝国軍傭兵部隊の魔術師。
アセナ=アスマトアウル(15)アスマト帝国の皇女。
ヘレナ(16)トーリ村領主の娘。
ロイ(18)アスマト帝国軍の軍戒兵。
バジン(19)アスマト帝国軍傭兵部隊の魔術師。
レイラ(16)アスマト帝国軍傭兵部隊の魔術師。




本編


〇トーリ村の屋敷(ベルクの夢)

ヘレナが本を読んでおり、部屋の扉がノックされる。
ヘレナ「どうぞ」
ベルクが扉を開けて入ってくる。
ベルク「よっ。何読んでんの?」
ヘレナ「魔獣図鑑」
ヘレナがページに描かれた魔獣を見せ、ベルクが驚く。ページには四つ足のカエルのような生物が描かれている。
ベルク「何こいつ、デカ!」
ヘレナ「ソードイーターっていうの。皮膚に触れた金属を体内に吸収するから討伐が難しくて、アスマト軍に採用されてるんだって」
ベルク「へえ、すげえな」
ヘレナ「うん、すごいよね。でも戦争に使うぐらいだったら、世界中の武器を全部吸収させればいいのに。そしたら戦争なんか無くなるでしょ?」
ベルク「確かに。やっぱヘレナは賢いな」
ヘレナはそれを聞いて微笑む。
ヘレナ「ねえベルク。あんたは遠征なんか行かないでね。ずっと一緒にいたいから」

〇魔獣輸送列車・食料備蓄車両内部

アセナ「──ろ、起きろ。おいベルク、起きろ!」
アセナに体を揺らされてベルクは目を覚まし、寝転んでいた箱の上から起き上がる。
ベルクM「……流石に夢だったか」
ベルク「おはよ。今どこ?」
アセナ「シアロの駅だ。明日にはソンリとの国境を越える」
ベルク「マジかよ、いよいよだな!でもずっと列車の中だったから、体が鈍ってそうだ」
アセナ「私もそうだ。朝食を済ませたら手合わせしろ。振ってやらなきゃお互い剣がかわいそうだしな。それと、今日はもう一つやることがある」
ベルク「やること?」
アセナ「ああ。今日一日はこの街で補給部隊や衛生部隊が最終準備をする。その間に、傭兵部隊は隊のメンバーを確定するんだ。ここから先で悠長に決めている時間は無い」
ベルク「了解。どんなやつらがいるか楽しみだな」
アセナ「ああ。これから出会うやつらをよく覚えて、故郷のやつらに聞かせてやれ」

〇第一大陸北部・アスマト帝国領シアロ市街地(朝)

アセナとベルクは剣を打ち合っている。一瞬の隙にベルクはアセナの首筋に刃を向けるが、同時にアセナもベルクの首に刃を当てる。
アセナ「……なかなかやるじゃないか。お前と隊を組んでも問題は無さそうだ」
ベルク「そっちこそ。剣筋がしっかりしてるし、流石は皇女様だ」
アセナは少し周りを気にして剣を下ろす。ベルクも剣を下ろすと、アセナは彼に顔を近づける。
アセナ「皇女様はやめろ。バレたら困る。それに皇統と剣技は無関係だ」
ベルク「ごめん。でも、やっぱいい師匠が付くのかなって思って」
アセナは少し表情を緩め、剣を鞘に収める。
アセナ「そういうことか……正式な師はいなかったな。女の兵士なんて珍しい時代ではなくなったが、母は私に武術をやらせたがらなかった。でも、ムスタファ兄上が剣を教えてくれたんだ」
ベルク「ムスタファって、一番上の兄貴?第一歩兵団を率いてる」
アセナ「ああ。私が五歳のとき、既に兄上はここシアロの攻略戦に参加されていた。兄上とは腹違いだが、歳の離れた私を可愛がってくれてな。帰還後に戦利品のこの剣をくれて、こっそり剣術の稽古をつけてくれたんだ」
ベルク「そっか。ムスタファ様っていい人なんだな」
アセナ「ああ。兄上の時代になってもこの国は安泰だ」
ベルク「そうだな。よし、じゃあ仲間を集めに行こうぜ」
ロイ「お前らか!」
ベルクとアセナにロイが険しい顔で駆け寄る。
ロイ「市民から傭兵の同士討ちの連絡があった!直ちに連行する!」
ベルク「はあ!?何の話だよ!?」
アセナ「軍戒兵が何の用だ?まさか稽古と同士討ちの区別がつかないのか?」
ロイ「……稽古だと?」
アセナ「そうだ。明日にでも戦闘が始まるかもしれないのに、三日も列車の中だったんだぞ?体と剣技が鈍ってないか確認するのは当然だろ」
ベルク「……軍戒兵さん、あんたもしかして新人?」
ロイ「何だ傭兵!それがどうした!」
ベルク「やっぱり!?俺もこれが初めての遠征でさ、わかんねえことだらけで間違えちまうのはすげえよくわかる。でも、お互いちょっとずつ覚えて頑張ろうぜ!」
ロイ「な、なんだ傭兵……」
ロイの表情が和らぐが、すぐに元通りになる。
ロイ「き、貴様!そんな程度で気高き軍戒兵を誑かせるとでも思ったか!」
ベルク「んなことしてねえって!」
アセナM「ちょっと誑かされてただろ」
ロイ「目撃情報では、同士討ちしていたのは男女二人組だ!お前ら以外にそんなやつらがいるか!」
アセナ「いるだろ。もっと探せ」
ロイは黙り込む。
ベルク「……どしたの?」
ロイ「たった今、軍戒兵本部から連絡があった!それらしき二人組を発見したらしい!」
アセナM「念話魔術……いや、何らかの魔具だな」
ロイ「ただし、お前らが同士討ちしていたが口裏を合わせている可能性も否定できない!そこで!」
ベルクとアセナは顔を見合わせる。
アセナM「……おいこれって」
ベルクM「嫌な予感」
ロイ「そいつらとお前らで隊を組ませるからついて来い!怪しいやつらが固まっていれば監視しやすい!」

○シアロ住宅街

ベルクとアセナはロイに先導されて歩く。ロイは魔具による通信を受けながら進んでいる。
ベルク「そういえばさ、アセナの魔術は何?特殊な家だから、やっぱ遺伝?」
アセナ「私の家系にももちろん遺伝はあるが、正直言ってどこからの遺伝かはわからない部分が大きい。各地から嫁や婿をもらっているから、私の魔術だって始祖世代からの純粋な遺伝とは限らないだろう」
ロイ「私語を慎め!通信が聞こえん!」
ベルクは肩をすくめ、アセナはため息をつく。
ロイ「了解、すぐに向かいます。駅の北側ですね?」
ロイは二人に向き直る。
ロイ「緊急事態が起きた!貴様らはここで待機していろ!絶対だぞ!」
ロイが走り去り、ベルクは道端の箱に一人分スペースを空けて腰掛ける。
ベルク「何か忙しいやつだな、あの軍戒兵」
アセナ「ああ。そして未熟なやつだ。連行中の拘束も武器の没収も無い。まあこちらとしては嬉しいが」
アセナはベルクの正面に回り、顔を覗き込む。
アセナ「おいベルク、私は皇族として遠征を生で知るためにここにいる」
ベルク「……うん」
アセナ「そしてお前は、故郷の領主の娘に代わって世界を見るためにここにいる」
ベルク「うん……?」
アセナは口角を上げる。
アセナ「私達は、遠征での緊急事態とやらを見ておくべきだと思わないか?」
ベルクは唖然としていたが、やがてニヤリと笑う。

○シアロ駅北側・商店街

石造りの街並みで額に術紋が浮かんだ大型魔獣──ソードイーターが暴れており、それを軍戒兵達が取り囲んでいる。魔獣が長い舌を伸ばして攻撃し、軍戒兵は剣で防ごうとするが刃の部分を吸収される。魔獣はさらに舌を横薙ぎに動かし、軍戒兵を吹っ飛ばす。唯一ジャンプで攻撃をかわしたロイは、剣の鞘で魔獣の頭を殴る。魔獣は呻き、前足でロイを弾き飛ばす。ロイは背中から壁にぶつかる。
ロイM「魔獣部隊の管理下にあるのではないのか!?」
魔獣は舌をまっすぐ伸ばしてロイの鳩尾を狙い、ロイは鞘でいなそうとするが舌で絡めとられる。そのまま鞘を放り捨てられたロイに魔獣の舌が迫る。
ベルク「加速アクセル!」
高速移動したベルクがロイを抱えて回避し、アセナの隣に滑り込む。
ベルク「大丈夫か?」
ロイ「貴様ら!待機と言っただろ!」
ベルク「ごめん、罰なら後で受ける。今はあいつを何とかさせてくれ!」
アセナは魔獣の額を見つめている。
アセナ「……なるほど、敵地はすぐそこだな」
ベルク「どういうこと?」
アセナ「ヤツの額に術紋が浮かんでいる。あれは魔獣従術の紋だが、同じ魔術でも流派によって紋様に違いがあるだろ?ヤツに浮かんでいるのはソンリ流の術紋だ。敵の方から仕掛けてきた」
ベルク「マジかよ!でも今は」
アセナ「ああ。お前の言う通り、ヤツを倒すぞ」
剣を抜きかけるアセナをベルクが手で制する。
ベルク「前に本で見たけど、あいつは金属を吸収するから剣が効かないらしい。でも頭から背中にかけての衝撃に弱いって」
アセナ「そうか。なら少しヤツを足止めしてくれ。私の魔術でヤツを倒す」
ベルク「……そういや、何の魔術かまだ聞いてなかった。でも、自信はあるんだろ?」
アセナ「当然だ」
ベルクは力強く笑う。
ベルク「じゃあ任せた」
ベルクは駆け出し、アセナは剣を抜いて魔力を込め始める。アセナの剣が淡く光る。魔獣はアセナの剣に目をやるが、ベルクが剣を抜いて注意を逸らす。
ベルク「あっちは兄貴からのプレゼントだからな!俺の安物で我慢しろ!」
ベルクは舌での攻撃を加速や減速を繰り返してかわし、魔獣を囲むように動き回る。
ベルク「アセナ!」
アセナ「任せろ!光明まじ──」
アセナが剣を掲げ魔術を放とうとした寸前、魔獣がベルクに跳びかかろうとする。
アセナM「まずい!」
ロイ「いいから撃て!」
ロイが魔獣の脚にしがみついて動きを封じている。
ロイ「何が『何とかさせろ』だ!これは気高き軍戒兵の責務だぞ!」
ベルクとアセナは口角を上げる。
アセナ「光明魔術」
魔獣の頭上に術紋が現れる。
アセナ「天刑!」
術紋から光線が発射され、魔獣の背中を撃ち抜く。額から術紋が消え、魔獣は倒れる。ベルクとアセナは尻餅をついたロイに近づき、手を差し伸べる。
ロイ「貴様らの助力、感謝する!」
ベルク「ああ、すごかったぜあんた!」
アセナ「こちらも助かった。礼を言う」
ロイは二人の手を取って立ち上がる。
レイラ「あら、こちらは少し気品のある方々のようですわね」
三人が声の主を見ると、フリル付きの服を着たレイラとパンツ一丁に剣を背負ったバジンが佇んでいる。
バジン「お前らが隊の仲間か!俺についてこい!」


〈つづく〉

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