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なぜ組織にはドキュメントが必要なのか - 透明性を担保しスケールしていくためのドキュメント文化の重要性

こんにちは、LayerXでPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)をしている稲田(@HirotoInada)です。

今回はLayerXの行動指針の1つである「Trustful Team」を体現するためのドキュメントの重要性、そして組織・ビジネスをスケールさせていく上でのドキュメント運用の注意点に関して書いていきます。

このnoteは「LayerXアドベントカレンダー2023春」の9日目の記事 です。
今回は、LayerXの行動指針の1つである「Trustful Team」をテーマにお送りします。

前回はkitaさんによる「Trustfulなチームであるための仕事に向き合う姿勢とは」でした。

前提:LayerXにおけるドキュメント文化と透明性

本題に入る前に、実際どのくらいLayerXにおいて情報が透明化されているのか・ドキュメントがどのような役割を果たしているのかを簡単に前提として記載します。

LayerXらしさを定義した”LayerX羅針盤”でもページを割いてしっかりと説明していますが、LayerXでは”情報の透明性・オープン性”を非常に重要視しています。

具体的には、他部署のミーティングの議事録はもちろん、経営会議の議事録や管理会計データまでオープンにされており、見たい人がいつでもみられる状態になっています。
経営会議の議事録も決定事項の通達だけでなく、会話ログのようなレベルで誰がどのようなことを言ったのか・どのような議論を経て結論に至ったのかが細かく書いてあるので、参加をしていないメンバーでも経営が考えていること・目線を共有できるのが良い点です。

なぜここまで情報の透明性・オープン性を重視しているのかに関しての詳細の思想・背景は代表の福島の以下のnoteに譲りますが、私個人が考える情報の透明性・オープン性の目的とは「会社経営・事業成長に貢献したい全ての社員が、同じ議論の土俵に立てるようにする」ことかなと思っています。

この辺は星野リゾート社長の星野さんの”経営会議には参加したい人は誰でも参加できるようにする”という取り組みに真意は似ているのかなと。
当然全員が全員、すべての情報をキャッチする必要はなく・またすべての情報に興味があるわけではないが、意志があれば誰でもいつでも情報を取りに行ける・議論に参加できる土壌を作るのが、情報の透明性の真髄なのかなと思います。

そんなLayerXの情報の透明性・オープン性を担保している媒体の1つがドキュメントであり、それを書き育てていくドキュメント文化が組織においては重要だと考えています。

なぜドキュメントは組織において重要なのか

では、具体的に組織においてドキュメントがどのような重要性を持つのかを書いていきます。
私が考える組織におけるドキュメントの役割・重要性は以下の4点です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。

①コミュニケーションコストを下げ意思決定のスピードを加速させる
②組織内の拡大再生産・仕組み化が働く
③セレンディピティーを呼び寄せる・車輪の再発明を防げる・プロアクティブに悩みを解決できる
④意思決定の質を上げる

①コミュニケーションコストを下げ意思決定のスピードを加速させる

ドキュメントは組織内のコミュニケーションコストを下げ、意思決定のスピードを加速させる。
ドキュメントの1つの役割は「会社経営・事業成長に貢献したい全ての社員が、同じ議論の土俵に立てるようにする」だと思うと前述しましたが、”良い”ドキュメントはコンテキストを含めた背景知識がない相手でもドキュメントを読むことで事前に一定水準以上まで同じ議論の土俵まで引き上げることができます。

これがドキュメントがない状態だと、同期コミュニケーションでイチから説明をする必要があり、コミュニケーションコストが嵩んでしまいます。(会議で招集されたものの事前説明で時間一杯になり何も決められなかった こんな経験あるのでは…)
ドキュメント内で背景・事前に調査した事項・検討事項(議論する点・決定するべき点)を記載し事前に共有をすることで、非同期でもコミュニケーションが一定進み、同期コミュニケーションでは決めるべき点を議論することにフルで時間を使えるようになります。

もう一点、ドキュメントには”証跡”という重要な役割があります。
言った・言わなかった論争をする時間は不毛でしかないです。ドキュメントの形式にそこまでこだわる必要はないという点は後ほど詳述しますが、人間の脳のストレージ・メモリに期待せずに一旦ドキュメントとして残しておくことで、後々振り返る際の時間が短縮され、結果として全体のコミュニケーションコストを下げ意思決定のスピードを加速させることに繋がります。

②組織内の知の拡大再生産・仕組み化が働く

特定の人物の経験や頭の中にあることを口伝していては、ノウハウが蓄積されるのは直接会話している相手のみで、組織における知の伝達・蓄積のスケーラビリティが乏しい状態になります。
特に、口伝だと受け取り手によって解釈・記憶度合いが様々になり得るので、知の拡大再生産が働きづらいです。

ドキュメントは文書として特定の情報を体系的にまとめ保存することで、組織内での知の拡大再生産・仕組み化を促進します。

これはマニュアルが非常に分かりやすい例ですね。
“マニュアル”(特定の業務の手順に限らず営業勝ちパターンなど業務に関する全般知識を対象とする)は特定の人間の業務知識を、一定原型を保ったまま受け取り手にインストールすることができるのが大きな特徴です。

“マニュアル”の有効性は業界や規模・職種を問わず有効であるのが一定証明されていると私は思っています。

例えば、無印良品・丸亀製麺では店舗でのいわゆるマニュアルを徹底的に作り込んでおり、その結果としてどの店舗に行っても一定水準以上・ブランドに沿った店舗運営ができています。
特に無印良品ではマニュアルを徹底した上で、各店舗ごとに客層などに合わせて接客や陳列・入荷商品をアレンジしており、ベースにはまずはマニュアルというこれを守れば必ず80点は取れるというノウハウが組織に存在し、各店舗そして従業員まで浸透・仕組み化がされています。

また、リクルートやキーエンスのような営業力ゴリゴリというイメージが強い会社でも”マニュアル”が大きな役割を持っており、各営業の勝ちパターンをドキュメント化し組織内で横展開することで、知の拡大再生産が働いています。

特に組織が大きくなってくるとドキュメントの”マニュアル”としての重要性の比重は大きくなり、これは1点目にあげたコミュニケーションコストを下げる点にも繋がってくるのかなと思います。(マニュアルがあれば逐一口頭で確認が必要なくなりますよね)

③セレンディピティーを呼び寄せる・車輪の再発明を防げる・プロアクティブに悩みを解決できる

ドキュメントが蓄積されそれがオープンな状態になると、組織内の各人が過去・現在どのようなことを考えているのか・取り組んでいるのか・悩んでいるのかが一定浮き彫りになり、これは”セレンディピティーを呼び寄せる”・”車輪の再発明を防げる”・”プロアクティブに悩みを解決できる” ことに繋がります。

まず、”セレンディピティーを呼び寄せる”ですが、他の人が書いたドキュメントから着想やヒントを得ることができるようになります。

次に、”車輪の再発明を防げる”に関して。既に誰かが検証・調査をした結果や特定の意思決定に至った背景をまとめておくことで、再び同じシチュエーションに遭遇した人が同じ作業を繰り返す可能性を減らすことができます。

最後に、”プロアクティブに悩みを解決できる”に関してですが、自分が考えていること・悩んでいることをオープンにしておくことで、その領域の知見がある人から部門の枠を超えてアドバイスや知見を提供してもらうことができるようになります。

このように、ドキュメントとして各人の頭の中や経験したことをアウトプットすることで、組織における知の探索作業を大きくショートカットすることができるようになります。

④意思決定の質を上げる

ドキュメントの作成は口頭で話すのと比較して非常に知的カロリーが高い作業です。
これは”良い”ドキュメントを作成するのには、情報の構造化・整理が必要になるからです。

しかしその特性故に、ドキュメント化は情報の練度を上げ、受け取り手への情報伝達の速度・質を向上させることで、結果として意思決定の質を高めることに繋がります。

注意点として、ブレインストーミングのような発想を広げるものに関しては、ドキュメントをカチッと作りすぎることで発想が固定化されてしまう懸念がある。
何かを決定することが目的ならドキュメント化は必須だと考えています。

ドキュメント運用の注意点

ここまでドキュメントが組織においてなぜ重要なのかに関して書いてきましたが、最後にドキュメント運用上の注意点にも触れます。

①ドキュメントの定義にこだわりすぎない
②ドキュメントは熱いうちに書く
③直接話した内容もドキュメント化する
④ドキュメント・情報の相互参照構造を構築する
⑤ドキュメントは書いて終わりではなく育てていくもの

①ドキュメントの定義にこだわりすぎない

ドキュメントと言うと、 Google DocsやNotionで書いたもの・一定以上の文量以上もの のように捉えがちであるが、目的によって”良い”ドキュメントの内容と形式は異なると考えています。

例えば、何か物事を決めるためのドキュメントなのであれば「事前の背景・現在の調査検討状況と結果・決定 / 検討するべき点」がまとまっていればいいですし、決定事項を伝えるドキュメントであれば「決定事項・ネクストアクション・議論経緯」と、目的に応じて内容は変わってきます。

同じ話で、ドキュメントの生成場所はSlackでの共有やSalesforce入力も含まれます。(フロー情報になってしまうので注意は必要ですが…)

大事なのは綺麗なドキュメントを形式に沿って書くことではなく、「必要とする相手に簡潔に情報を伝えられるようにすること・アクセスができるようにすること」なのかなと思います。
その点でドキュメントの画一的な定義にこだわりすぎるのは注意が必要です。

②ドキュメントは熱いうちに書く

ドキュメントは正直書くのはめちゃくちゃめんどくさいです。(実際このnoteの大枠も手打ちではなく音声入力で書いてます。)
また、会議などで何かが決まったらすぐに行動を移したいのも非常に分かります。

でも、将来「あれなんだっけなー」と思い出す手間やコミュニケーションが発生することを考えると、めんどくさいですが会議後の5分間で軽くでいいのでドキュメント化して、記憶が薄れないうちに関係者に共有する方が長期的にはいいと思うんです。

上記は会議での決定事項の話ですが、同じ話は頭の中で考えていることでも言えます。人の頭のメモリは自分が思っているほど優秀ではないので、忘れないうちに粗々でもいいからどこかで考えをアウトプットしておいて、後から肉付けしていくのがいいんじゃないかなと思います。

③直接話した内容もドキュメント化する

リモートワークが浸透している今、Slackでの会話からHuddleなどでの直接会話に切り替えた際に、そこでSlackのスレッドが切れているケース結構あるんじゃないかなと思います。

自分は口頭会話の内容も議事録的に元のスレッドに残すのを昔から強く意識してやっています。
これは、言った言わない論争を防ぐ目的もありますが、Slackしか見ていない人が後からコンテキストを把握できる・誤解しないようにするのも大きな理由です。

Slackの会話は多くの人が見れるからこそ、途中で会話が切れていると情報が追えなくなる、悪いケースではコンテキストの誤解も起きえるため、しっかりとログを残す。

めんどくさいけど積み重ねが効いてくる気がします。

④ドキュメント・情報の相互参照構造を構築する

ドキュメントは情報のハブであるべきであり、そこから関連する情報と相互参照構造を構築するのが重要です。

例えば、ドキュメント内には関連するSlackの会話ログを貼っておく、作成したドキュメントは関連するSlackのチャネルやスレッドに貼って周知しておくなど、情報をどこからでも辿れるようにしておくのがいいかなと思います。

ドキュメントを書いた本人は、ドキュメント内の各情報がどのような経緯で出てきたのか・どこで話していたのかが頭に入っていますが、ドキュメントは組織の不特定多数が見るものであるため、誰でも関連する情報を辿れるようにしておくのが必要です。

これも結構めんどくさいんですが、ドキュメント内にSlackのリンクを貼っておくだけでも全然情報を参照するパワーが変わってきます。

⑤ドキュメントは書いて終わりではなく育てていくもの

ドキュメントは書いて終わりではなく継続的にアップデートをしていくのが重要です。

時間経過によって変わり得る情報はドキュメント自体をアップデートしていかないと、誤った情報が組織内に伝達、まずいケースだとお客様や外部関係者に伝わってしまう可能性もあります。

ドキュメントのアップデートもめちゃくちゃめんどくさいのですが、例えばマニュアルの変更がある場合であれば1行だけでもいいから変更点をドキュメントの冒頭に記載しておくだけでも、上記のようなリスクを潰せるのかなと思います。

特に、組織に情報が溜まれば溜まるほど情報のソースの比重が外部から内部に寄っていきますが、この際に心がけるべき点は”情報を鵜呑みにしない”ことです。

当然ドキュメントがアップデートされる体制を作るのも重要ではあるのですが、それ以上に書き手ではない人も、ドキュメントの情報が合っているか・最新のものなのかどうかをリファレンスを取る・一次情報にあたり、必要に応じてドキュメントをアップデートする必要があります。
(組織の特定のメンバーにドキュメント作成が著しく寄っていると、それ以外のメンバーが思考なしに情報を受け取り横流ししがち。最悪の場合、古い情報・誤った情報がお客様に伝達されてしまう。全員ドキュメント文化がマジ大事)

情報を疑えという話ではなく、ドキュメントは書き手だけでなく組織全体で育てていくものであるという意識を持つのが重要だと思います。

最後に

以上、LayerXにおける「Trustful Team」を体現するためのドキュメントの重要性、そして組織・ビジネスをスケールさせていく上でのドキュメント運用の注意点に関して書いてきました。

いくら情報の透明性・オープン性を担保しても、情報そのものがしっかりとまとまっていなければ伝えるべき相手には何も伝わりません。
その点で、情報のオープン性とドキュメント文化はセットで担保・運用されるべきなのかなと思います。

ドキュメントの重要性や注意点は割と当たり前のことをつらつらと書いてきましたが、当たり前のことをどこまでやり切れるかが結局組織の実行力に繋がってくるのかなと。

ドキュメント作成まで含めて”凡事徹底”。
LayerXの「Trustful Team」を体現するために自分が強く心がけている点です。

このnoteは「LayerXアドベントカレンダー2023春」の9日目の記事 です。

次回は MDM Marunoさんにバトンパスします!🤝

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