樽見弘紀 / Hiro Tarumi

1959年、福岡出身。元テレビの台本作家。現在、大学教員、会社役員など。ここでは40代…

樽見弘紀 / Hiro Tarumi

1959年、福岡出身。元テレビの台本作家。現在、大学教員、会社役員など。ここでは40代で発覚した緑内障に起因する「まぶしさ」や「見えにくさ」と折り合う日々の生活の面白さ、大変さを綴る。

記事一覧

水に落ちた長谷川岳は休み休み打て

長谷川岳さんと直接言葉を交わしたのは数回しかない。彼がまだ参議院議員に初当選する前の札幌でのことで、すでに北大は卒業しておられたから、ご自身が立ち上げた札幌のYO…

フランク・ロイド・ライト3世の未完の邸宅

スマホのGoogleスケジュールを高速スクロールすると、ちょうど10年前の今日、米国カリフォルニア州サンタモニカで開催された、とある会議の空き時間を縫って、高級住宅地と…

吉田キミコ画のある風景④: 赤帽さんの助手席に乗って

青梅の個展では、その絵は「非売」となっていました。何年も前から、何点かある近い将来の購入希望リスト中の一枚として、キミコさんのご好意で額縁の上辺に小さな予約済の…

卒ロン(バイバイ、住宅ローン)

JR横須賀線を逗子駅で下車。駅前ロータリーの2番乗り場からバスに乗り換えて葉山芸術祭に行ってきた。神奈川県・葉山町に暮らす人々が作品や居住スペースなど、持てる「ア…

真鍮お察しあれ

子どもの頃から真鍮(しんちゅう)に独特の鈍い輝きがなんとも好きだった。もっといえば、「真鍮」という言葉の響きそのものがいまもお気に入り。 小6の、なにかの宿題の…

サンドリアのサンドイッチが買えなくて

地下鉄南北線をさっぽろ駅で降りて北大に向かうには、JR札幌駅の西コンコースを突っ切るに限る。すると、多くの人々が行き交う西口改札辺りでも、ひときわ目を引く人垣があ…

路傍の夏みかん

朝の時間や夕食後、テレビを点けない、がすっかり定着した我が家では、ちょっとしたことを訊こうにも意識して大きく、はっきりとした発声でないと妻は知らんぷり。いえいえ…

ハミルトンホールに集うコロンビア大生はいまもジョニ・ミッチェルを歌うのだろうか(なら、ユーミンは誰が?)

先月30日、ニューヨーク・コロンビア大学のハミルトンホールに警察隊が突入。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への武力攻撃に抗議する学生およそ300人が逮捕され…

毎日ちゃんとお店を開けるということ

先週水曜日は札幌・円山公園駅近くのスペイン料理屋で名物のフィデウア(パスタ版のパエリア)に舌鼓を打ちつつ、赤ワインを(僕にしては)痛飲した。旨かった。 スペイン…

ヒトは些少は詐称する(または、小池百合子さんはどう生きるか)

新学期の初日、前期・隔週で授業を持っている北大に来ている。ついこないだまでは雪に埋もれたその広大なキャンパスも根雪は9割方消えているが、今朝はまた、急に冷え込ん…

シニア割られるのは嬉しくはあるけれど

スタジオジブリの「君たちはどう生きるか」を観てきた。入場料はシニア割で1300円。一般料金の2000円からすると35%引きということになる。これは、ステータスを得て間もな…

鈴木健二さん亡くなる

元NHKアナウンサーの鈴木健二さんが3月29日、福岡市内の病院で老衰のため亡くなった。享年95歳(2024/4/3 JIJI.COM他)。 鈴木健二さんは、20代の頃、台本作家の末席に加…

薪ストーブ・マジックにご用心

北海道美唄(びばい)市の美術館「安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄」に来ている(3/25)。午後からの、今年度最後の理事会に出席するためだ。 札幌市内なら道路は凍…

小倉久寛さんにやっと会えた話

先の日曜日、南青山のバルームで音楽・朗読劇「星の王子さま」を観てきました。 「王子」は俳優の小倉久寛さん、「飛行士」は元宝塚の水夏希さん。ピアノの演奏に合わせ、…

ポルシェ乗りかインデックス乗りか

土曜日のお昼、北海学園大学で10数年前に受け持ったゼミ生のウオッチャン(旧姓ウオツさん)が夫のケンタさんと1歳半になる長男のキイチくんを連れて三鷹の我が家に遊びに…

くずきりは有り難く、くず湯は忘れ難い

熱海駅から歩いてすぐの中村屋でくずきりをいただく。中村屋さんの客となるのはこれが3回目。もちろんくずきりの本場感というか、正統性は関西(奈良や京都)にあるとは思…

水に落ちた長谷川岳は休み休み打て

水に落ちた長谷川岳は休み休み打て

長谷川岳さんと直接言葉を交わしたのは数回しかない。彼がまだ参議院議員に初当選する前の札幌でのことで、すでに北大は卒業しておられたから、ご自身が立ち上げた札幌のYOSAKOIソーラン祭りで専任的な役割を担われていた頃かと思う。「数回」のなかでも、非常勤先の北星学園大学のキャンパスで偶然鉢合わせになったときのことだけなぜかいまも鮮明に覚えている。あの頃は、長谷川さんも僕を僕と少しは認識されていたと思う

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フランク・ロイド・ライト3世の未完の邸宅

フランク・ロイド・ライト3世の未完の邸宅

スマホのGoogleスケジュールを高速スクロールすると、ちょうど10年前の今日、米国カリフォルニア州サンタモニカで開催された、とある会議の空き時間を縫って、高級住宅地として名高いマリブに、建築界の巨匠フランク・ロイド・ライト(1867-1959)のお孫さんを訪ねたことが記されている。で、同じスマホで、今度は写真アプリを立ち上げて、同日の記録を確認すれば、確かに、そのときのライト夫妻や、自身も建築家

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吉田キミコ画のある風景④: 赤帽さんの助手席に乗って

吉田キミコ画のある風景④: 赤帽さんの助手席に乗って

青梅の個展では、その絵は「非売」となっていました。何年も前から、何点かある近い将来の購入希望リスト中の一枚として、キミコさんのご好意で額縁の上辺に小さな予約済の紙片を貼っていただいていたのです。

人形を抱く少女はキミコ画に独特の朱赤の服が印象的です。その、いわばキミコ・バーミリオンにも増して、絵を収めるケーシング自体がレリーフとしての高い完成度を誇り、しかも、絵そのものと一体化しているのがなんと

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卒ロン(バイバイ、住宅ローン)

卒ロン(バイバイ、住宅ローン)

JR横須賀線を逗子駅で下車。駅前ロータリーの2番乗り場からバスに乗り換えて葉山芸術祭に行ってきた。神奈川県・葉山町に暮らす人々が作品や居住スペースなど、持てる「アートな資源」を一斉に公開する年に1度の機会。四半世紀前に初めて訪ねて以来、毎年この時期がやって来るとなんだか心踊る(といいながらも、芸術祭会期中に葉山を訪問できたのはこれがやっとの3回目)。

長かったコロナ禍下でも、芸術祭はやり方を工夫

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真鍮お察しあれ

真鍮お察しあれ

子どもの頃から真鍮(しんちゅう)に独特の鈍い輝きがなんとも好きだった。もっといえば、「真鍮」という言葉の響きそのものがいまもお気に入り。

小6の、なにかの宿題の作文を「教室の真ちゅうの取手を回すと……」と書き出しては、言葉の醸し出す世界観に一人で悦に入っていたが、そもそもあの当時の木造校舎の教室のドアノブが正真正銘の真鍮——すなわち、銅と亜鉛の合金——だったのかどうか……いまとなっては疑わしい。

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サンドリアのサンドイッチが買えなくて

サンドリアのサンドイッチが買えなくて

地下鉄南北線をさっぽろ駅で降りて北大に向かうには、JR札幌駅の西コンコースを突っ切るに限る。すると、多くの人々が行き交う西口改札辺りでも、ひときわ目を引く人垣がある。サンドリアの自動販売機周り。たった一台のサンドイッチの自販機前に、昼夜を問わず長蛇の行列ができるのだ。その静謐も従順な羊のような群れは、事情を知らない通行人の目には奇異に映るらしく、誰もがいったんは足を止めるのだった。

「たかがサン

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路傍の夏みかん

路傍の夏みかん

朝の時間や夕食後、テレビを点けない、がすっかり定着した我が家では、ちょっとしたことを訊こうにも意識して大きく、はっきりとした発声でないと妻は知らんぷり。いえいえ、お互いまだ耳が遠くなるには早すぎる。大概は、妻は妻で、僕は僕で、それぞれのiPhoneとイヤホンでお気に入りのYouTubeを視聴しているせいだ。

で、けっこうな頻度で妻は眼科のお医者さんのチャンネルを観ているらしい。有り難いことに僕の

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ハミルトンホールに集うコロンビア大生はいまもジョニ・ミッチェルを歌うのだろうか(なら、ユーミンは誰が?)

ハミルトンホールに集うコロンビア大生はいまもジョニ・ミッチェルを歌うのだろうか(なら、ユーミンは誰が?)

先月30日、ニューヨーク・コロンビア大学のハミルトンホールに警察隊が突入。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への武力攻撃に抗議する学生およそ300人が逮捕された、とテレビ報道等。

期せずして、この日「4月30日」は、1968年、コロンビア大学当局の要請によって出動した州兵や警官らによって、ベトナム戦争に激しく抗う学生らが排除されたのと同じ日。学生たちが立てこもったのも、同じハミルトンホール

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毎日ちゃんとお店を開けるということ

毎日ちゃんとお店を開けるということ

先週水曜日は札幌・円山公園駅近くのスペイン料理屋で名物のフィデウア(パスタ版のパエリア)に舌鼓を打ちつつ、赤ワインを(僕にしては)痛飲した。旨かった。

スペイン人の画家のお父さんは疾うの昔に亡くなられているが、店内に南欧の雰囲気が満ち満ちているのは、他でもない、壁を埋め尽くす「お父さん」の油絵の数々……に描かれた飄々としたラテンな人物たちのせい。

残念ながら、いまはもう改修されてフツーな感じに

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ヒトは些少は詐称する(または、小池百合子さんはどう生きるか)

ヒトは些少は詐称する(または、小池百合子さんはどう生きるか)

新学期の初日、前期・隔週で授業を持っている北大に来ている。ついこないだまでは雪に埋もれたその広大なキャンパスも根雪は9割方消えているが、今朝はまた、急に冷え込んだ。東京から着て来た,見た目重視のチェスターコートでは、まだちょっと早過ぎた感は否めない。

さて、ホッカイロ大卒……じゃなくて、「カイロ大卒」の東京都知事が「おい、小池!」とまた叩かれている。月刊文藝春秋が、小池さんの学歴詐称疑惑を暴くべ

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シニア割られるのは嬉しくはあるけれど

シニア割られるのは嬉しくはあるけれど

スタジオジブリの「君たちはどう生きるか」を観てきた。入場料はシニア割で1300円。一般料金の2000円からすると35%引きということになる。これは、ステータスを得て間もないJRの長距離料金の3割引き制度(「ジパング倶楽部」)と似たり寄ったりの割引率。いずれも子ども料金のように半額とはいかないが、さりとて1割、2割では魅力や訴求力に欠ける、ということか。

でも、そもそもなぜシニアにはシニア料金が適

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鈴木健二さん亡くなる

鈴木健二さん亡くなる

元NHKアナウンサーの鈴木健二さんが3月29日、福岡市内の病院で老衰のため亡くなった。享年95歳(2024/4/3 JIJI.COM他)。

鈴木健二さんは、20代の頃、台本作家の末席に加えていただいたNHK「クイズ面白ゼミナール」の「主任教授」(司会)であり、1988年に僕らが結婚した際は、いまはなき乃木坂のフレンチレストラン「シェ・ピエール」での結婚パーティでのメイン・スピーカーとして駆けつけ

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薪ストーブ・マジックにご用心

薪ストーブ・マジックにご用心

北海道美唄(びばい)市の美術館「安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄」に来ている(3/25)。午後からの、今年度最後の理事会に出席するためだ。

札幌市内なら道路は凍結もだいぶ緩んできていて、黒々としたアスファルトを覗かせているが、この辺りが溶け切るにはいま少し時間がかかりそう。それでも、ブロンズの「妙夢(みょうむ)」が遠くからも望めるくらいには積雪も浅くはなっている。春はすぐそこ。

この時期、

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小倉久寛さんにやっと会えた話

小倉久寛さんにやっと会えた話

先の日曜日、南青山のバルームで音楽・朗読劇「星の王子さま」を観てきました。

「王子」は俳優の小倉久寛さん、「飛行士」は元宝塚の水夏希さん。ピアノの演奏に合わせ、お二人で歌った20数曲のうちの何曲かを、いまもふと思い出しては口ずさんだりしています。あ、もちろん、歌詞もメロディーもなんちゃってですけれど。

小倉さんとは、僕がまだテレビの台本作家だった40年近くも前からの知り合いです。その頃、代々木

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ポルシェ乗りかインデックス乗りか

ポルシェ乗りかインデックス乗りか

土曜日のお昼、北海学園大学で10数年前に受け持ったゼミ生のウオッチャン(旧姓ウオツさん)が夫のケンタさんと1歳半になる長男のキイチくんを連れて三鷹の我が家に遊びに来た。

これは、どうでもいいことなのだが、「ケンタ」と「キイチ」の語感がどうにも親子逆のような気がしてならない。僕も妻もついついご主人に「キイチさん」、長男に「ケンタくん」と呼びかけてしまいそうになる……というか、実際、何度か呼びかけた

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くずきりは有り難く、くず湯は忘れ難い

くずきりは有り難く、くず湯は忘れ難い

熱海駅から歩いてすぐの中村屋でくずきりをいただく。中村屋さんの客となるのはこれが3回目。もちろんくずきりの本場感というか、正統性は関西(奈良や京都)にあるとは思うが、ここのも京都の鍵善さんのに負けないくらい旨い。

これまでの人生、くずきりそのものがテーマの旅や店巡りはただの一度もしたことはないが、旅先や住まいの近くでぶらり入った店のお品書きに「くずきり」とあれば、注文するに躊躇はない。それほどに

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