樽見弘紀 / Hiro Tarumi

1959年、福岡出身。元テレビの台本作家。現在、大学教員、会社役員など。ここでは40代…

樽見弘紀 / Hiro Tarumi

1959年、福岡出身。元テレビの台本作家。現在、大学教員、会社役員など。ここでは40代で発覚した緑内障に起因する「まぶしさ」や「見えにくさ」と折り合う日々の生活の面白さ、大変さを綴る。

最近の記事

真鍮お察しあれ

子どもの頃から真鍮(しんちゅう)に独特の鈍い輝きがなんとも好きだった。もっといえば、「真鍮」という言葉の響きそのものがいまもお気に入り。 小6の、なにかの宿題の作文を「教室の真ちゅうの取手を回すと……」と書き出しては、言葉の醸し出す世界観に一人で悦に入っていたが、そもそもあの当時の木造校舎の教室のドアノブが正真正銘の真鍮——すなわち、銅と亜鉛の合金——だったのかどうか……いまとなっては疑わしい。 長じて大人になってからも僕の真鍮好きはなんら揺らぐことはなかった。真鍮のデス

    • サンドリアのサンドイッチが買えなくて

      地下鉄南北線をさっぽろ駅で降りて北大に向かうには、JR札幌駅の西コンコースを突っ切るに限る。すると、多くの人々が行き交う西口改札辺りでも、ひときわ目を引く人垣がある。サンドリアの自動販売機周り。たった一台のサンドイッチの自販機前に、昼夜を問わず長蛇の行列ができるのだ。その静謐も従順な羊のような群れは、事情を知らない通行人の目には奇異に映るらしく、誰もがいったんは足を止めるのだった。 「たかがサンドイッチごときのために……」 とあなどることなかれ。そもそもは札幌市内の路面店

      • 路傍の夏みかん

        朝の時間や夕食後、テレビを点けない、がすっかり定着した我が家では、ちょっとしたことを訊こうにも意識して大きく、はっきりとした発声でないと妻は知らんぷり。いえいえ、お互いまだ耳が遠くなるには早すぎる。大概は、妻は妻で、僕は僕で、それぞれのiPhoneとイヤホンでお気に入りのYouTubeを視聴しているせいだ。 で、けっこうな頻度で妻は眼科のお医者さんのチャンネルを観ているらしい。有り難いことに僕の緑内障の改善に資する、ちょっとでも耳寄りな情報はないものか、とアンテナを高くして

        • ハミルトンホールに集うコロンビア大生はいまもジョニ・ミッチェルを歌うのだろうか(なら、ユーミンは誰が?)

          先月30日、ニューヨーク・コロンビア大学のハミルトンホールに警察隊が突入。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への武力攻撃に抗議する学生およそ300人が逮捕された、とテレビ報道等。 期せずして、この日「4月30日」は、1968年、コロンビア大学当局の要請によって出動した州兵や警官らによって、ベトナム戦争に激しく抗う学生らが排除されたのと同じ日。学生たちが立てこもったのも、同じハミルトンホールであった。 この56年前の出来事をモチーフに映画「いちご白書」{原題: The

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          毎日ちゃんとお店を開けるということ

          先週水曜日は札幌・円山公園駅近くのスペイン料理屋で名物のフィデウア(パスタ版のパエリア)に舌鼓を打ちつつ、赤ワインを(僕にしては)痛飲した。旨かった。 スペイン人の画家のお父さんは疾うの昔に亡くなられているが、店内に南欧の雰囲気が満ち満ちているのは、他でもない、壁を埋め尽くす「お父さん」の油絵の数々……に描かれた飄々としたラテンな人物たちのせい。 残念ながら、いまはもう改修されてフツーな感じになってしまっているが、その昔、お店のトイレは四方八方がマットなピンクに塗り込めら

          毎日ちゃんとお店を開けるということ

          ヒトは些少は詐称する(または、小池百合子さんはどう生きるか)

          新学期の初日、前期・隔週で授業を持っている北大に来ている。ついこないだまでは雪に埋もれたその広大なキャンパスも根雪は9割方消えているが、今朝はまた、急に冷え込んだ。東京から着て来た,見た目重視のチェスターコートでは、まだちょっと早過ぎた感は否めない。 さて、ホッカイロ大卒……じゃなくて、「カイロ大卒」の東京都知事が「おい、小池!」とまた叩かれている。月刊文藝春秋が、小池さんの学歴詐称疑惑を暴くべく、「自分は都知事の学歴詐称工作に加担してしまったかもしれない」とする、元側近の

          ヒトは些少は詐称する(または、小池百合子さんはどう生きるか)

          シニア割られるのは嬉しくはあるけれど

          スタジオジブリの「君たちはどう生きるか」を観てきた。入場料はシニア割で1300円。一般料金の2000円からすると35%引きということになる。これは、ステータスを得て間もないJRの長距離料金の3割引き制度(「ジパング倶楽部」)と似たり寄ったりの割引率。いずれも子ども料金のように半額とはいかないが、さりとて1割、2割では魅力や訴求力に欠ける、ということか。 でも、そもそもなぜシニアにはシニア料金が適用されるのだろう、と考えた。 誰でも真っ先に思いつくのは、シニアは概して経済弱

          シニア割られるのは嬉しくはあるけれど

          鈴木健二さん亡くなる

          元NHKアナウンサーの鈴木健二さんが3月29日、福岡市内の病院で老衰のため亡くなった。享年95歳(2024/4/3 JIJI.COM他)。 鈴木健二さんは、20代の頃、台本作家の末席に加えていただいたNHK「クイズ面白ゼミナール」の「主任教授」(司会)であり、1988年に僕らが結婚した際は、いまはなき乃木坂のフレンチレストラン「シェ・ピエール」での結婚パーティでのメイン・スピーカーとして駆けつけてもいただいた。 もっとも、輝かしい鈴木さんの放送人としてのキャリアにスタッフ

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          薪ストーブ・マジックにご用心

          北海道美唄(びばい)市の美術館「安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄」に来ている(3/25)。午後からの、今年度最後の理事会に出席するためだ。 札幌市内なら道路は凍結もだいぶ緩んできていて、黒々としたアスファルトを覗かせているが、この辺りが溶け切るにはいま少し時間がかかりそう。それでも、ブロンズの「妙夢(みょうむ)」が遠くからも望めるくらいには積雪も浅くはなっている。春はすぐそこ。 この時期、カフェアルテのかぼちゃのスープが超絶旨い。鹿肉のパニーニも一緒に小腹を満たしたが

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          小倉久寛さんにやっと会えた話

          先の日曜日、南青山のバルームで音楽・朗読劇「星の王子さま」を観てきました。 「王子」は俳優の小倉久寛さん、「飛行士」は元宝塚の水夏希さん。ピアノの演奏に合わせ、お二人で歌った20数曲のうちの何曲かを、いまもふと思い出しては口ずさんだりしています。あ、もちろん、歌詞もメロディーもなんちゃってですけれど。 小倉さんとは、僕がまだテレビの台本作家だった40年近くも前からの知り合いです。その頃、代々木のNHKで、司会者としての小倉さん・天宮良さんと一緒に、とある音楽番組を2年ほど

          小倉久寛さんにやっと会えた話

          ポルシェ乗りかインデックス乗りか

          土曜日のお昼、北海学園大学で10数年前に受け持ったゼミ生のウオッチャン(旧姓ウオツさん)が夫のケンタさんと1歳半になる長男のキイチくんを連れて三鷹の我が家に遊びに来た。 これは、どうでもいいことなのだが、「ケンタ」と「キイチ」の語感がどうにも親子逆のような気がしてならない。僕も妻もついついご主人に「キイチさん」、長男に「ケンタくん」と呼びかけてしまいそうになる……というか、実際、何度か呼びかけた。 もちろん、ケンタくん……じゃなくて、キイチくんはもう1歳半なので、ウオッチ

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          くずきりは有り難く、くず湯は忘れ難い

          熱海駅から歩いてすぐの中村屋でくずきりをいただく。中村屋さんの客となるのはこれが3回目。もちろんくずきりの本場感というか、正統性は関西(奈良や京都)にあるとは思うが、ここのも京都の鍵善さんのに負けないくらい旨い。 これまでの人生、くずきりそのものがテーマの旅や店巡りはただの一度もしたことはないが、旅先や住まいの近くでぶらり入った店のお品書きに「くずきり」とあれば、注文するに躊躇はない。それほどに、僕はくずきりにくびっきりなのである。 ただ、問題はちゃんとしたくずきりを供す

          くずきりは有り難く、くず湯は忘れ難い

          パックンの「節約筋を鍛えよ」に激しく共感

          ReHacQ(YouTube)で後藤達也さんとパックン(パトリック・ハーランさん)の対談を観た。新NISAスタートの時節柄、基本、インデックスファンド投資の話であって、これはこれでとても勉強になったが、なんといっても、パックンの「節約筋を鍛えよ」にはツボったし、大いに腑に落ちた。 なるほど、そもそも筋トレ全般に興味も習慣もなかったが、ましてや節約筋は一切ケアを怠って来たし、存在そのものもまるで意識して来なかった。 7歳で両親の離婚に遭遇、母子家庭となったパックンは、いくら

          パックンの「節約筋を鍛えよ」に激しく共感

          3人目の和子さんが株ジョだった話

          こないだ妻とふと「そういえば……」と盛り上がったのだが、僕の人生、大事な局面局面でなぜか「和子さん」という名の女性が必ずや現れる。そんな救世主のような和子さんは、いまのところ3人。最初に出現した和子さんは、他ならぬ自身の母なので、ここでは別格扱いとして、いずれ、またの機会にそのbig mamaぶりについてnoteしたい。 さて、いっとう最近、僕の前に現れた和子さんは、僕を株式投資の世界にいざなってくれた和子さん。株のセンセーの和子さんは、ぱっと見、年齢不詳の癒し系独身女子で

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          お隣りさんのライオンを襲ったチン事

          札幌は円山動物園の真裏に住んでいる。動物園と我が家を隔てるものはひとむらの林しかない。ここに住まいを構えたばかりの6、7年前の夏のある夜、なんとは知れぬ獣の遠吠えがひとつ大きく聴こえたかと思うと、これをあたかも犬笛にして、種々さまざまな動物が一斉に哭き出したのには驚いた。襲ってくるはずもないのだが、網戸一枚ではマズいとばかり、慌てて窓という窓をピシャリと閉めたのだった。 さて、お隣りの動物園の昨日・今日のビッグニュースはといえば、なんといっても1歳のライオン「クレイ」が、こ

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          痩せはするけど強くお勧めはしないダイエット法3選

          いまそこにある危機 緑内障を悪くしてからビミョーに困っていることは少なくない。なかでも、とんと体重計に乗らなくなったのは考えものだ。もちろん、乗ろうと思えば乗れる。ただ、体重計の上で直立し、目線だけ下にくれてもデジタル表示の計測値がよく読めないのである。いっそ膝小僧を抱えてヤンキー座りすれば見えるだろうが、その格好だけは——とりわけ、風呂上がりのパンイチ姿は——家人のみならず、鏡に映った自分にも見られたくはない。 結果、少なくともこの3年ほど体重を計れていないでいるのだが

          痩せはするけど強くお勧めはしないダイエット法3選