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【DDL/MF】相次ぐ米国IPO、中国生鮮食品ECのディスラプターなるか?

熾烈な競争を繰り広げる中国の生鮮食品EC市場。

生鮮食品市場はそもそもが圧倒的な市場規模であるにも関わらず、生鮮食品は「鮮度」が重要であり、冷凍・冷蔵などの倉庫が必要となるため保管コストが高いうえに、物流コストもかかることからECとの相性が悪く、アメリカをはじめとする先進国においてEC化率が低い領域ではありますが、中国では今ホットな分野の1つとなっています。

「巣ごもり需要」によるEC利用が増える中、2020年に大手ECの京東(Jindong)をはじめ、サービスEC大手の美団(Meituan)、ソーシャルECの拼多多(Pinduoduo)、ライドシェア大手(Didi)などの数多くの中国テック企業がこぞって生鮮食品ECに参入しました。

またソフトバンクGが出資する中国の生鮮食品EC「叮咚買菜(Dingdong Maicai)」とテンセントが出資する「每日優鮮(MissFresh)」が2021年6月9日の同日にIPO申請し、生鮮食品EC「1番目」の上場を競い合うなど競争に拍車がかかっています。

今回は新たに上場した「叮咚買菜(Dingdong Maicai)」と「每日優鮮(MissFresh)」の目論見書を通して中国の生鮮食品EC市場を解説したいと思います。

1. 中国の生鮮食品・日用品市場の概要

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中国の生鮮食品・日用品市場は中国の成長とともに1人あたりの可処分所得の増加や都市化に伴い、2020年の11.9兆元(約200兆円)から2025年にかけてCAGR6.5%で15.2兆元(約260兆円)まで拡大すると見込まれています。

しかしながら生鮮食品・日用品の販路別の内訳を見てみると依然としてスーパーが35.6%、生鮮市場が25.9%と未だに多くの実店舗が占める割合が高くなっています。

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都市の規模別の市場規模並びに販路別の内訳を見てみても都市の規模にかかわらずスーパーや生鮮市場などの従来型の実店舗が70%以上を占めています。

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そのような状況の中でも生鮮食品・日用品EC市場は2020年の生鮮食品・日用品EC市場規模2.4兆元(約41兆円)から2025年にかけてCAGR23.6%で成長し7.1兆元(約120兆円)にまで拡大することが見込まれています。

2025年のEC化率でみると45.5%と予測されており、今後5年で生鮮食品分野のECが急速に浸透する見通しとなっています。

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その成長を牽引すると期待されているのが前置倉庫型EC(後述します)やコミュニティ型の共同購入EC(後述します)などで従来型のECでは課題となっていた消費期限の短さと言った「鮮度」や品質のばらつき、物流コストの問題をクリアにする(と思われている)新しい流通のモデルです。

今回IPOを申請した2社はいずれも前置倉庫型のECに分類され、商品品質や配送時間の短さにおいて特長的な流通のモデル(上図の右上)となっています。

2.新しい流通モデル「前置倉庫」

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新しい流通モデル「前置倉庫」を解説するにあたり、まずは中国の「社区・小区」(コミュニティ)という概念を理解する必要あります。

日本では1960年~70年の高度経済成長期に地方から都市部に多くの労働者が移り住むことに合わせて多くの団地が建設されていましたが、中国でも同様に都市部には日本の団地のように1つのエリアに何棟ものマンションがたちならび、マンションの敷地内にスーパーやコンビニなど生活するうえで必要なインフラが整った住宅エリアが数多くあります。

この住宅エリアまたはその一帯を「社区・小区」(コミュニティ)と呼び、多くの人々が生活する場所を指すことが多いのですが、前置倉庫型のECはこのエリア付近に冷凍・冷蔵施設が完備された小型の倉庫(前置倉庫)を設置し、アプリで消費者からの注文を受けてから最短で30~60分以内に配送するサービスを展開いています。

【イラストのフロー】
① サプライヤーから一括で生鮮食品等の仕入
② 中心倉庫に納品された商品の選別や加工
③ 中国各地の前置き倉庫に出荷
④ アプリから消費者が商品を注文
⑤ 消費者の近隣の「前置倉庫」から宅配

少し違うかもしれないですが、日本でも小規模商圏に店舗型の倉庫を作りお酒を1本から配達してくれるカクヤスがありますが、カクヤスの八百屋版のようなイメージに近いかもしれません。

3.新しい流通モデル「コミュニティの共同購入型」

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また「前置倉庫型EC」と並び期待されている新しい流通モデルの1つとして、ソーシャルEC大手「拼多多(Pinduoduo)」傘下の「多多買菜(Duoduomaicai)」、サービスEC大手「美団(Meituan)」傘下の「美団優選(Meituan Select)」、ライドシェア大手「滴滴出行(DiDi Chuxing)」傘下の「橙心優選(Chengxin Youxuan)」など大手テック企業が挙って参入するコミュニティの共同購入型ECがあります。

コミュニティの共同購入型のECは、① 同じエリアの住民を集めたWechat(日本でいうLINE)グループを作り、グループリーダーが商品情報をシェアし、② 注文をまとめてから発注したら③プラットフォームを経由してサプライヤーに発注されたら、④まとめてグループリーダーに商品が送られてくるので⑤あとはオフラインでグループリーダーが自分のコミュニティの消費者に届けることで低価格で購入できるサービスです。

地方では住宅の密度が都市部と比べて低いため、一般的なECでは物流コストが高くなるため、共同購入型のECモデルではグループリーダーの存在により大幅に物流コストを抑えることができるようになります。

「前置倉庫型」や「コミュニティの共同購入型」に共通しているのは、中間流通(卸や仲買人等)を排除し、サプライヤーや生産者から直接消費者に配送することやデータ解析によりロスを削減することで価格を抑えつつ、物流を工夫することで配送時間を短くし消費者の支持を得ていることです。

4.叮咚買菜(Dingdong Maicai)【DDL】

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ではソフトバンクGも出資する前置倉庫型ECのDDLを見ていきましょう。

DDLは2014年の創業当初こそ叮咚小区の名称で地域コミュニティ向けの生活情報サービスを提供するサービスを展開していましたが、2017年に叮咚買菜に改名し、生鮮食品ECに業態を転換し現在のビジネスに至っています。

2021年1Qの月間購入ユーザー数690万人、平均購入回数6.7回、2020年12月期のGMVはRMB13.0bil (約2,200億円)と2018年からの年換算成長率319.2%と急激に成長しています。

5.毎日優鮮(Missfresh)【MF】

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一方で同じく前置倉庫型のMFは2014年に設立、年間の購入ユーザー数は1,100万人、2020年12月期のGMVはRMB7.6bil(約1,300億円)と2018年からのCAGRは26.9%となっていますが、2019年12月期と比較すると2%しか成長しておらず、規模よりも収益性の改善を重視しているようです。

6.  前置倉庫型ECは生鮮食品EC市場で勝てるのか?

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生鮮食品EC市場はまさにこれからの市場であるため、どのモデルがマーケットを獲得するかは未だ未知数ではありますが、その市場規模の大きさからしてどのモデルであってもそれなりの恩恵が見込まれると思います。

この分野に参入している大手ECは利用者を獲得するため巨額の投資を行い、赤字を深堀してでもGMV成長を追求していく方針を鮮明に打ち出しているのでしばらくは群雄割拠の時代が続きそうです。

そのため投資という観点でみた場合には生鮮食品市場という巨大なマーケットにおいて、

① 前置倉庫型のECであろうがコミュニティの共同購入型のECであろうが、まだ全体の市場からすればまだ極小であること(逆に言えば伸びしろが高い)

② 未だに投資フェーズであること(つまり資本力勝負)

③ PDDや美団のようにGMVの拡大が続いている限りは、赤字が拡大しても投資家から許容されていること

を鑑みるに、個人的には規模(トップラインもしくはGMV)の成長に陰りを見せ始めたところは避けた方が良いと思います。

7.上場後の株価の動向

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PDDや美団(meituan)については別途記事を書いているので(そちらを参照下さい)今回先行して6月25日に上場を果たしたMFについて取り上げます。MFの株価は公開初日に公開価格から26%下落し、その後も下げ基調が続き6月末時点で時価総額は約US$2.0Bil(約2,200億円)となっており、中国においてはホットな分野であるにも関わらず、GMVの伸びが失速していることやDDLの上場を控えていること、大手との熾烈な競争環境において投資しにくいといった側面がでてきてしまっているようです。

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一方でDingdong Maicaiは6月29日に公開価格23.5ドルを上回って推移しており7月1日の時価総額はUS$7.6Bil(約8,400億円)となっています。

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8.  最後に

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