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災害対応でマーケティングメールの配信を止めるためにMarketoでやったこと(備忘録)

こんにちは。マーケティング部でMOpsを担当しているShioyaです。

2024年もあっという間に5月。GWも終わってしまいましたね。この記事の下書きは1月にしていたはずですが、熟成させすぎてしまったようです。

時間が過ぎるのが年々早く感じるようになってきました。40歳を超えたせいでしょうか。加齢と共に今過ごしている時間が、今までの人生の経過時間と比べて相対的に短くなっているため、時間の経過をより年々早く感じるというジャネーの法則ってやつか…と言えるのでしょうが、きっとそれだけではないと思っています。

やりたいこと、やるべきことがたくさん有り過ぎて、時間が足りません。嫌々ながらやらなければならないことが多いというわけではなく、やりたいことのためにやるべきことが多いのです。40歳を過ぎてもそう思えるのはきっと幸せなことなんだろうと思います。

だからこそ余計に時間の経過を早く感じてしまうのだろうと。

さて、本題に入りましょう。

はじめに

2024年は痛ましい災害や事故から始まってしまいましたね。

奥能登エリアではまだ断水が続いているとのことですが、能登町では水道が全面復旧したというニュースがありました。時間はかかりましたし、その他の様々な問題は山積しているとのことですが、少しずつライフラインが復旧しているというのは、住民の皆様にとっては良いニュースなのだろうと思います。

前段が長くなりましたが、1月の災害発生時にはMarketoからのマーケティングメールの配信停止を行いました。その考え方や実際にMarketoで操作した内容を備忘として残しておこうと筆を執りました

もっと良い設定をされている企業も多数いらっしゃると思いつつ、コミュニティも含めてこの辺りの情報がそこまで無いため、ユースケースの一つとして、どういうことを考えて、何を行ったのかを公開したいと思います。

もちろん、本稿で書かれている方法がベストプラクティスではないはずです。もしより良い方法があればぜひお知らせください。

とりあえず3つのポイントでまとめておきます

どういうことを考えてその方法を選んだのかを書いていたら長くなってしまったので、とりあえずここだけ読んでもらえれば、何をすべきかの概要理解が可能です。

  1. 災害発生時には「BtoC、BtoBに限らず」、「エリア指定」もしくは「全エリア」でメール配信を止める。

  2. Marketoではエンゲージメントプログラムの「ケイデンスの停止」と、「マーケティング中断」をすることで各種メール配信を一時停止する。どちらも対象者を静的リストに追加しておき、復旧しやすくしておく。

  3. 災害発生日以降に生じたキャンペーントリガーとなり得るアクティビティに対しては通常通りの配信を行う。資料請求や新規ユーザーへのオンボーディングなど、災害発生以降に対象となるアクティビティが発生したユーザーは、被災エリア外とみなし送付する。

ぶっちゃけこれだけ覚えておけば、あとのやり方は本稿以外でもいくらでも見つかります。残りは実際にもう少し詳しく知りたいという方のみご覧ください。

Why / そもそもなぜ災害時にメール配信を止めるのか

※当たり前すぎることでもありますが、敢えて文字に起こしておくべきだと思い、書いています。

弊社のプロダクトに限らず、サービスやプロダクトでは何かしらのメールや通知が送られています。

メールマガジンやナーチャリングのためのマーケティングメール、プロダクト・サービス利用者向けのオンボーディングまたはイベント案内などのカスタマーサクセスメール、プロダクト内で設定されているプロダクト通知など、通知や受信設定を全てオフにしていない限り、1日に1回は何かしらの通知やメールを受け取っているはずです。

その中でも、特にマーケティングメールやプロダクトやサービスのカスタマーサクセス観点でのオンボーディングやTIPSなどのメールは、災害時には見る必要が無い情報がほとんどです。

※プロダクト内の通知については、プロダクトごとに特性があり、コラボレーションやコミュニケーションのためのプロダクトでは通知を止めてしまうことで場合によっては逆にマイナスの影響が出るものもあるかと思いますので、ここでは言及の対象から除外しています。

不要不急なメールが被災者の方に届くことで下記のような負荷やデメリットがあります。

  1. バッテリーの消費を早めてしまう

  2. 不要不急な情報にマインドリソースを割かれてしまう

  3. 配信者側のレピュテーションリスク

1.バッテリーの消費を早めてしまう


特に被災地で充電環境が無い/著しく少ない状況では、スマートフォン/携帯電話のバッテリーがなくなることは、助けを呼べない・情報を入手できなくなるなど、クリティカルな状況になってしまいます。

「BtoB商材だし、企業ドメインのメールがほとんどだから問題ないでしょ?」というご意見もあるかもしれません。

いいえ。個人スマホに送信されるBtoC向けのメールはもちろん、BtoBで送信先が会社ドメインのメールであっても同様に停止すべきです。

楽天モバイルの調査では、企業の2割以上がBYODで私用スマホ/携帯を利用しているようです。BtoBのメールであっても、個人のデバイスとは不可分な以上、配信を止めることは当然の配慮であると考えます。

2.不要不急な情報にマインドリソースを割かれてしまう


緊急かつ本当に今必要な情報だけが強く求めている中で、不要な情報が届くことは、極限状態にいる被災者の方々のマインドリソースを奪ってしまうことになります。

これを防ぐためにも、不要なメール送付はやめるべきです。

3.企業にとってもリスクがある

被災者の方々に負荷がかかることを避けるというのはもちろん、企業にとっても、レピュテーションリスクやスパム報告リスクなどを低減することにも繋がります。状況によってはネットワークリソースを消費してしまうことも考えられます。

災害時にメールを止めないことで迷惑をかけることはもちろん、企業にとってもリスクがあるので、配信を止めないという選択肢は無いと思っています。

実際の対応方針を決める

実際に配信を停止すべきだと決めるには、場合によっては社内での合意なども必要になるかもしれません。私は、前述の思想の下で「配信を停止すべき」と判断をし、その際の具体的なMarketoの対応方針や復旧方法を検討し、配信停止をした際のリスクの多寡と共に部長に承認を取りました。
正月真っ只中に社内チャットとXでDMを送り、対応への理解・賛同を求めました。本当にありがとうございます。

余談ですが、この辺りの申請・意思決定フローは事前に決めておいても良いと思っています。実際に、一定時間返事がなければ私の判断で停止を進めていたかもしれませんが、各自が判断できる権限やスキルセットを持つことと同じく、フローを整えて、正しいガバナンスの下に行動することも重要であり、求められると考えていたためです。コミュニケーションが一切取れない事態であれば、その限りではないかとは思いますが。

そういった前提があるということをお伝えしたうえで、実際に具体的にMarketoでどのような対応をするべきか、どう考えていったのかを残しておこうと思います。自分自身の備忘としてはもちろん、今後の後任担当者や、メールマーケティングを始めたばかりの方々の参考になれば幸いです。

  1. Who(Where) / どんな条件の方を配信停止とするべきか

  2. What / 何のメールを配信停止するべきなのか

  3. How / どのような設定で停止処理を行うべきか

  4. When / いつからいつまで配信停止をするのか

Who/What/How/When、5W1Hですね
※Whyは前段で記述していること、Whoの中にはWhereが含まれていることから、以下にはWho/What/How/Whenの4つを元に記載します。

Who(Where) / どんな条件の方を配信停止とするべきか

配信対象やエリアの設定

特定エリアにおける災害については、そのエリアにいる方のみ配信停止をするという設定をされる企業もいらっしゃるのではないでしょうか。

特にtoCのプロダクトやサービスにおいてはそのような設定も多いかと思います。toBであっても、契約者のエリアが明確なサービスや、ユーザーの所在エリアが明確になっている場合は、同様の設定をされることも多いはずです。

もしそれが可能な環境であれば、設定をして、災害被害の大きいエリアおよび近隣エリアを含めても良いでしょう。

しかし、現在の所属先ではサービスの特性上、契約者以外のエリア情報を基本的には保有していません。そのため、もしエリア指定をする場合、そのユーザー所属先企業の所在地や契約者住所などを仮のエリア情報とせざるを得ないため、正確な設定が難しいという特性があります。

また、今回の震災は1月1日に発生していることから、帰省をされている方も多く、所属企業のエリア情報だけではカバーできる範囲はかなり小さくなってしまう、という厄介な状況もあります。

そのため、今回は全てのエリアへのメール配信を停止することにしました。

お客様のアクティビティをトリガーに、アクティビティからの「日数」で配信されているプログラムも複数あり、個別に設定をするのは現実的ではないため、全エリアかつ、震災発生以前から稼働しているプログラムを全て停止することにしました。


What / 何のメールを配信停止するべきなのか

Marketo上では様々なタイプのメール施策が動いていることでしょう。弊社でも例外ではなく、エンゲージメントプログラムはもちろん、各種プログラムで組まれているステップメールなど、長くMarketoを利用している企業であれば、それだけプログラム/アセットが多数存在していると思います。

今回はMarketoで配信しているマーケティングメール/カスタマーサクセスメールなどを全て停止することとしました。

除外対象
なお。Marketo以外にも、商談獲得ツールのimmedio、個別商談/ウェビナー予約にCalendly、ウェビナーにZoomを利用しており、そちらからの配信も行われているケースもあります。

今回は特に正月に発生したということもあり、商談予約やセミナー予約についてのリマインドメールなどが送付されるのは先の話であり、喫緊の配信停止などの対応が必要な状況ではなかったため、こちらのメールについては対応せずにそのままとしています。

これは基本的に、何かのイベントの予約に対する案内メールであり、スポット配信であること、前述の通りエリア特定が難しいため、止めてしまった場合に被災地以外のお客様の体験を損ねるため、こちらの配信は許容とするのが良いかもしれません。



How / どのような設定で停止処理を行うべきか

エンゲージメントプログラムケイデンスの一時停止

資料DLなどをされた方に向けて、よりプロダクト理解をしてもらう、またはプロジェクト管理についての理解を深めていただくためのコンテンツをエンゲージメントプログラムで配信しています。

こちらは、各イベントやコンテンツDL後のステップメールプログラムを経たあとに中長期的に接点を持ってもらうための中長期の認知・想起のためのKeep In Touchのコンテンツとして用意しています。

このエンゲージメントプログラムについての説明は省きますが、メンバーへのメールの送付を一時停止することを「ケイデンスの一時停止」と言います。ケイデンスを一時停止することは、スマートキャンペーン(SC)の停止とは違い、フロー(エンゲージメントプログラムではストリーム)から削除されないため、容易にその続きのコンテンツの配信から再開することが可能になります。そのため、真っ先に対応をすべきです。

実際の設定画面はこんな感じです。グレーアウトしている部分にはENGプログラム名が入っています。ポイントは、ケイデンスを変更対象となった人を必ず静的リストに格納しておくことです。あとからアクティビティなどで抽出するよりも使いやすいと思います。

ケイデンス一時停止用スマートキャンペーンのスマートリスト
ケイデンス一時停止用スマートキャンペーンのフロー

なお、この処理以前にケイデンスが「一時停止」になっているメンバーは、「ケイデンスを一時停止にする」ためのフローを実行しても、「一時停止」のアクティビティが上書きされないことをログから確認しています。

つまり今回の指定した静的リストには格納されないため、復旧処理の際にリスト指定を正しくしておけば、以前に一時停止していたユーザーのケイデンスが再開されることはないので安心して使えます。

当たり前のようですが、念の為確認作業を行いました。仕様変更などもあるので、こういう検証は大事です。


その他プログラム・アセットからの配信の停止

一方で、各種メールプログラムやスマートキャンペーンのフローで配信されているメールについては、フローの一時停止というものはなく、各ステップごとに「待機」を入れるというのは現実的ではありません。

そのため、思い切って対象となるプログラムやリストのメンバーの「マーケティングを中断」します。

日常的に「マーケティングを中断」するフローを組んでいる場合にはもしかすると使い勝手は良くないかもしれません。ただ、そういう使い方をしているケースはあまりないのではないかと思いますので、その前提で書いています。

考え方としては、下記のような考え方で「マーケティングの中断」を選択しています。

​​ステップメールについては、プログラムごとに配信用のSCが設定されているものが多く、プログラム個別に対応しようと思うと対応がかなり複雑になる可能性が高いです。

  • 待機時間の延長:一度フローに入って「待機」にいるリード/ユーザーは、途中で待機時間が変更された場合でも当初の待機時間は変更されないため、送付を止めることができない。

  • フローからの削除:各プログラムのフローから削除した場合、そのフローに再度戻すために、別途スマートキャンペーンを組んだりする必要があり、数が多いと個別に確認も難しい。

  • スマートキャンペーンの停止:SCを停止した場合、フローのキューが完全に空になってしまう。フローからの削除と同じ状態になるため、再開する時に誰が何番目のフローまで進んだのかが把握しにくく、再開もしにくい。フローからの削除やSCの一時停止は対応方法としては、最終手段。

  • マーケティング中断:全てのMarketoメールが送付されなくなってしまうが、作業効率としてはこれが良さそう。

    • フローのキューに入っている状態でマーケティング中断フラグをオンにすると、フラグがオンになっている間は当該フローのステップはスキップされるが、フローからの削除はされず、フロー自体は進む。フラグが削除された後は、当該フローでステップが残っていれば、そのステップからフローの進行が進む。つまり「マーケティングを中断」している期間中の送信フローはスキップされてしまうため、シナリオ通りに送付されなくなるものの、その他の選択肢に比べて影響が少ない。

    • オペレーショナルメールは配信されるため、当該期間中にサービスに関わる重要な連絡をすることも可能。

このようなことを考えて、マーケティングの中断を選択しました。


マーケティング中断用のスマートリスト。まだ中断されていない人かつ、各種のメールプログラムの対象メンバーであることを条件としている。
マーケティング中断をする際のフロー。中断フラグを立てることと、静的リストに格納しておくことを忘れない。


When / いつからいつまで配信停止をするのか

最後に、いつからいつまで配信停止をするのかですが、これは災害規模によって検討すべき内容かと思います。

今回は、災害発生後、1月1日の夜に対応の検証を行い、同日23時ごろに部長に確認・提案をしています。

その後、翌日から停止処理を順次行い、ある程度避難所への移動や支援が始まった一週間を目処に再開をしました。この辺りは基準を決めておくと意思決定がとても楽になるだろうなと思っています。


最後に

こんな感じにつらつらと書いてしまいましたが、ここまで約6600文字。なかなかの長文になってしまいました。

現在は、Marketoを少し触ったことがあるメンバーであれば、前述の対応が可能になるようなマニュアルを残していますので、もし私が対応できない場合でも、意思決定さえ行うことができれば、配信の一時停止処理ができます。

今後の課題としては、Marketoに触ったことがないメンバーであっても対応ができるように、管理者または操作権限がどういう条件で誰に移譲されるべきなのか、より詳細なフローを作成することですね。

この辺りの対応準備をしておくことは、安定的な業務遂行の観点から、とても重要だと思っています。

「もっと良いものを準備しているよ」という方がいましたら、是非本当に心から公開して欲しいと思っています。私のこの方法は決してベストプラクティスではないと思いますが、できうる限りの手段を用いて設定をしていると思っています。こういった情報が、コミュニティ外でもオープンになっていくと、より多くの人に興味を持ってもらうチャンスになり、自分たちの業務を理解してもらえる機会につながっていくと考えています。

蛇足が長くなりましたが、本日はこんなところで。

4ヶ月遅れかつGWにも間に合いませんでしたが、とりあえず書いたことを褒めてあげたいです。読んでくでさった方もお疲れ様でした。

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