シリーズ「暦は詠う」
久しぶりに京都の実家に寄った。
束の間ではあったが、京都らしい蒸し暑さが感じられた。
体感もすっかり夏になってきた。
衣替えもどうして良いやら。
2階の窓を開け、風を通し涼んでいると、鳴き声が聞こえた。
「ぶおーん ぶおーん」
規則正しく、しかもハッキリとしている。
中尾彬さんを思わせるような低音イケボの正体は…
そう、ガマガエルだ。
わが家の近くには小さな川が流れているので、きっとそこに住んでいる。
わりと近いと思われる。
引っ越してきた時から毎年聞いてきた鳴き声だが、幸いにもご対面は避けられている。
このまま風物詩として奏でるだけの登場で頂きたいものだ。
暦を見ると、なんと、
七十二候 初候「蛙始めて鳴く」ではないか。
今年は5月5日(日)〜5月9日(木)がこれに当たる。
自然はすごいな。
季節をちゃんと知っている。
いやいや、私も負けていない。
くしゃみと鼻水、そしてしょぼしょぼの目で花粉を察知し、外出時はティッシュの箱ごともしくはパックごと一緒に移動しているではないか。
しかも春と秋に。
この時期独特の肌のカサつきにも対処しながら、水中眼鏡のようなメガネで出かける。
10年後20年後の未来は、どんな防護に身を包んでいるのだろうか。
さあ、話はカエルに戻る。
この時期からは田んぼの近くや畦道は気をつけなければならない。
特に私の田舎は、懐かしい瓦屋根の家と田んぼ、そして山、海と、自然がいっぱい。
車のバックドアを開けながら荷下ろし、積み込みをしていようものなら、アマガエルが乗り込んでくるのだ。
昨年を思い出す。
私はカエルが苦手だ。
あの青々とした艶やかで柔らかそうな体でどこまでも飛距離を伸ばし、追いかけられ、どこに飛び付いて来られるのか予測不能なことを思うと叫ばずにはいられない。
そんな私の車の、バックドアのちょうど閉まり口のところに、左右対称に2匹のアマガエルがキョロキョロ目を動かし手足をちょこちょこ動かしているのを見た時には、気が気ではなかった。
一人ではどうしようもなく、心の声がダダ漏れの悲鳴に、ご近所の方が助けてくれた。
車の中にもいないか一緒に確認をしてくれた。
有り難かった。
田舎にはなんでもいるものだ。
私もそれは分かっている。
しかし田舎は好きで、爬虫類や虫は苦手なのだ。
田んぼをくねくねと素早く進むヘビを見た時は、田んぼは昼間でも人がいない時に徒歩でうろうろするもんじゃないと後悔しながら、ヘビに気を遣い歩く道を選んだ。
また、人がいる昼間でも、耕運機の後ろを付いて行くサギ達の大きさに震え、気が付かれないように歩いていくも、サギ達が羽を広げて次々と私の近くに舞い降りてきた時の恐怖は、日傘だけが頼りで、とにかくサギ達の関心が耕運機の後ろから掘り出されるご馳走だけに注がれることを祈るばかりだった。
イノシシやシカ、サル、タヌキ、イタチも怖い。
生き物達はみんな季節通りの仕事をしているのに、いちいち悲鳴をあげ怖がる私では、やはりサファリパーク並みに車で移動をするしかないのだ。
この時期は軽トラでなくて良い。オープンカーなどもっての外だ。
さて、今年も用心しながら、畑に行って親戚のばあちゃん達とのガールズトークを楽しもう。
カエルや虫は、ばあちゃん達がいれば無敵である。
そう決意した私に父からの電話。
体調が心配された京都の叔父の様子を知らせてくれた。
「元気でやっとる、なんや漫画のTシャツ着とるで」
そう言って送ってくれた写真の叔父は、「ど根性ガエル」の「ピョン吉」Tシャツを着てケロッとしていた。
<写真・文 ©︎2024 いけだひろこ>
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