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亡き母を偲んで。【詩作品】迎え火〜詩集『柔らかい檻』収録作品

お盆。亡き母を偲んで。

【迎え火】

灯籠が静かに小名木川に浮かび

小舟に乗った僧侶の読経が低く漂う

幾重にも揺らめく淡い光を見つめるうちに

ふと脳裏に母の新盆が蘇った

       *

一昨年の秋、湯船に浸かったまま突然逝ってしまった母

初めての迎え火はぎこちなく

何も纏わず身一つで 今生を終えてしまった母のために

カタログ雑誌から切り抜いた服やメガネも

麻がらと一緒に真新しい炮烙皿へ


マンションの玄関口 火を焚いた瞬間

遠慮がちに開けたドアの隙間から 待ちかねたように

真っ直ぐな一筋の道となって 宵闇の空へ立ち上っていった


「黄泉の国とは煙で繋がっているのよ」

そんな母の言葉を思い出しながら

線香を上げ祭壇に手を合わせる

ふとお供えを見やると

ついさっきなみなみと淹れたばかりのお茶が

湯呑み茶碗半分にまで減っている

茶碗のふち一杯だったのに… 


「嗚呼、きっと会いに来てくれたんだね」               

大好きだった玄米茶

湯気をそっと啜っていったのだろう

知らぬ間に痕跡を残していった母

名残惜しいのか 送り火はなかなか点かなかった            

       *                 
今年も母を乗せた灯籠が

小名木川をゆっくり流れていく

堪えきれない想いがはらはらと落ちて水面に小さな波紋を描いては消えていった


*詩集『柔らかい檻』収録作品


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