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6章:大道芸の現場術

 『大道芸は準備が9割』です。
 その演技が盛り上がるかどうかは、現場で決まるわけではありません。
 数10時間も数100時間もかけて、演目を構成して練習を繰り返してきた準備期間によって成功は確約されることです。
 現場でやることと言えば、練習通りにその演技を30分間ほど再生するだけの、とても小さくて簡単なことだけなのです。

 しかし。
 そうは言うものの、現場を疎かにしてしまっては、せっかくの9割の準備が台無しになってしまうこともあり得ます。
 これはたとえ話ですが、ラーメン店が、店を構えて食器や具材の調達ルートを確保し、麺の自家製法レシピを考案して毎日製造し、アルバイトを雇ってシフトを組み、3日かけてスープを煮込むという準備をしたにもかかわらず、現場で麺のゆで時間を1分間違っただけで、それまでの膨大な準備が台無しになってしまうことがあるのは、誰にでも想像できることでしょう。
 大道芸も同じで、いくら準備をしたところで、それを一発で覆してしまうような失敗があり得るのは、いつも現場のことなのです。

 特に、観客集めの失敗は、誰にでも経験のあることでしょう。
 30分のショーを完璧にできるように準備したとしても、観客が1人も立ち止まってくれなければ、ショーをスタートさせることも難しいものです。
 こういうことを踏まえると、大道芸の現場術は、観客の管理に集約されると言えるでしょう。
 いかにたくさんの通行人に気付いてもらうか、いかに長い時間お客さんを釘付けにできるか、いかに多くの観客を楽しませることができるのか。
 これが、現場で考えたり実行したりするべきことです。

 また、もうひとつ、現場で重要なことは、自分の芸に対するフィードバックを得ることです。
 せっかく集まった観客が離脱してしまうのは、観客にとってその芸が魅力的ではないからです。
 しかし、ここでは、芸が魅力的でないことを問題視するよりも、観客の離脱という行動によってフィードバックを得ることができるという利点を重要視します。
 観客がどこで離脱するのか、細かく観察してこそ、自分のルーティーンのどこに問題があるのかを知ることができるのです。

 さて、大道芸において、観客の管理がどれほど重要な考え方であるか、次の式で説明します。

 観客の新規参入数-観客の離脱数=最後に残った観客数

 やって来た観客の全員が、最後まで残って見てくれるとは限りません。
 興味を失えば離脱しますし、そうでなくとも、急ぎの用事があれば離脱することでしょう。
 演目終了後に拍手をくれるのも、投げ銭を入れてくれるのも、最後に残っているお客さんなのですから、『最後に残った観客数』を最大化することが、意義にも利益にも繋がりますし、演者のモチベーションにも繋がるはずです。

 上の式を見ても明白なとおり、『最後に残った観客数』を最大化するためには、『観客の新規参入数』を最大化しつつ、『観客の離脱数』を最小化する必要があります。
 そのことを踏まえ、この章では、新規参入数を確保する方法、離脱数を減らす方法、フィードバックを得る方法について解説していきます。


新規参入数を確保する

 大道芸で新規参入数を確保するためには、通行人の足を止めさせて、近くまで引き付けなくてはいけません。

 ある程度観客が集まって、大きな集団となってしまえば、それを目掛けてどんどん観客は増えていく傾向がありますので、最も難しいのは、1人目の観客を捕まえることです。
 そのため、はじめから数人の友人を観客として座らせておくという『サクラ方式』がまず思い浮かぶものですが、毎日友人に協力してもらうのは実情難しいことです。
 ですので、ここではそのようなサクラがいなくてもよい現実的な方法を紹介します。
 それぞれ『ナンパ方式』『頭に?方式』と僕は名付けています。

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