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4章:大道芸の規模、方向性の考え方

 3章では、よく演じられる大道芸を紹介しました。
 どの演技を演じようかと、自分なりの大道芸のイメージも固まってきたことと思います。

 しかし、3章でも少し説明しましたが、現実的には演じる難易度も違えば、演じられる場所の制限も違います。
 そういうわけで、大道芸人たちは演目を無作為に選んで演じているわけではなく、自分に課された制限に基づいて演目を選んだり、自分の考え方に合った演目を選んだりしているのです。
 たとえば、車を持っていないから電車で移動できる荷物の範囲でできる演技構成にするとか、ひとりではなくてチームでやるので規模を大きくせざるを得ないとか、人それぞれの様々な制限があります。
 また、大道芸を通じてどのような芸人像を目指すのかという考え方によっても、演技構成は変わってくるでしょう。

 この章では、そういった、ネタ選びの根底となる考え方について解説をしていきます。


大道芸の規模の設定

 どのような規模の大道芸があるのか、ここでは規模ごとに解説します。
 便宜上、大規模、中規模、小規模と分類しますが、マジシャンにわかりやすい言い方をすると、大規模大道芸とは、イリュージョンのサイズ感です。チームを組んだサーカス芸などがあるでしょう。
 中規模とは、サロンやステージマジックのサイズ感で、ローラーボーラーやラダーなどの高さを活かした芸があります。
 小規模とは、クロースアップから小さめのサロンマジックのサイズで、高さを出さなくてもできるような芸です。とは言え、小さなサロンにでも、詰め込めば50人や100人の観客は入りますから、そのくらいの観客数は小規模の部類でしょう。


大規模
 大規模大道芸の特徴は、きちんと集客できている前提ではありますが、投げ銭がとても多いことです。
 一度の演技で10万円以上の投げ銭が入ることもあるでしょう。
 規模が大きいというよりも、観客数が多いことが、投げ銭が増えるための条件となります。

 演技時間は長いです。1時間以上の演技であることが多いように見受けられます。
 持ち運びの荷物は、とても多いです。電車移動では運べないほどの荷物量になりますので、車移動が必須条件となるでしょう。
 規模が大きいことが仇となり、できる場所が限られるというのも大規模大道芸の特徴です。駅前でゲリラでやる、というようなことができず、イベントで呼ばれたり、きちんとした会場を設定して演じるような芸になります。
ゲリラでやりたい場合は、規模を落として構成する必要があります。

 このような、それぞれの特徴は、因果関係を持って連動しています。
 規模が大きくて、いつでもどこでもできるわけではなく、しかも道具の運搬にも労力や費用をかけているので、採算を考えると投げ銭を多く稼ぐ必要があり、多くの集客が必要になるので、必然的に演技時間も長くせざるを得ない、ということです。
 逆に、高額の投げ銭を得られなければ、成り立たせることができない規模でもあります。

 加えて、投げ銭が多かったとしても、それだけで単純に喜べないところもあります。
 たとえば5人組でダンスやアクロバットなどの芸をして10万円の投げ銭を得たとしても、大道具や音響のレンタル費や運搬費、トラックのレンタル費、会場費などの経費が5万円かかってしまえば、手取りが5万円になってしまい、それを5人で分割すれば、1人の収入は1万円にしかなりません。1万円という収入なら、小規模な芸でも十分に手の届く額です。
 まして、投げ銭が5万円以下であれば赤字となり、収入を得るどころか手出しをする必要が出てきます。
 1演目の投げ銭の金額にばかり目を奪われるわけにもいかない、経営的な難しさもあるのが、大規模大道芸であると言えるでしょう。

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