もりぐち

作家|連載小説『もりぐち人生劇場』毎週金曜日21時配信中|Kindli出版 ライトノベ…

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作家|連載小説『もりぐち人生劇場』毎週金曜日21時配信中|Kindli出版 ライトノベル『いつかの夏休み』amazonで発売中→http://amzn.to/3Rxu2JK|Twitter→https://twitter.com/hiroki_kansei

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連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第30話『努力の行方』

ガタン 僕は自販機からコーラを取り出す。 手にはひんやりとした感覚。 プシュッと蓋を開けて体内へと流し込み、ギラギラと降り注ぐ太陽が僕の肌を焼いた。 炭酸の爽快さが身体に染み渡り、この感じが何だかとても心地よい。 ……自然と笑みが溢れる。 この瞬間、僕は今の自分の状態を知った。 そうか…… ——僕は今、楽しんでる。 巨大な入道雲が青空にアクセントを加え、蝉の鳴き声はどんどん活発になり、もわっとした風は僕の体をひゅるりと通り過ぎる。 夏が世界を彩っていた。

    • 連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第29話『クソガキの夏休み』

      「本間に優勝したいんやな?」 外から聞こえてくる蝉の鳴き声に混じりながら、ヨシユキさんの声が響く。 僕たちはそれぞれ「はい」と声に出して、自分の気持ちを再確認した。 そう、決めたんだ。絶対に大会で優勝するって。 だから僕たちは今ここにいる。だから僕たちはエンジニアであるヨシユキさんから音楽を教わる。 いつもの音楽スタジオ。時刻は朝の10時。 客席にはクソガキ4人とヨシユキさんしかいない。というのもまだ店がオープンしたばかりで全く予約も入っていなかったからだ。 これ

      • 連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第28話『再出発』

        世界は全力で夏だった。 ギラギラと太陽が降り注ぎ、蝉の鳴き声が毎年恒例のBGMのように流れ、入道雲はどこまでも誇らしげに浮かんでいた。 8月7日。 夏休み真っ只中。 高校生は日々の学校から解放され、好きなことを思う存分に楽しむ期間。ツレと遊んだり、恋人と楽しんだり、青春を謳歌する。 そんな中、僕たちクソガキはというと。 ——音楽スタジオにいた。 もうほぼ毎日いるかもしれない。と言うのも、今はそんな余裕のある状況じゃなかったからだ。ティーンズ奈良県大会までもう三週間

        • 連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第27話『仲間を求めて』

          クソガキのドラム「クオリ」が脱退した。 それは本当に衝撃で。 それは本当に悲しくて。 それは本当に悔しくて。 けど残された僕たちには受け止めるという選択しか出来なかった。 しばらくみんな落ち込んでいたけど、いつまでも立ち止まっちゃいけないって事で珍しくタツタが「よし、ミーティングしよ!」と声を上げる。 そして後日、ダイスケの家でクソガキ緊急ミーティングが行われた。 僕たちはコンビニで買った酒を飲みながら本音で話し合う。 「……」 「……」 「……」 しかし、沈

        連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第30話『努力の行方』

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第26話『別れ』

          「……」 「……」 「……」 「……」 僕もダイスケもタツタもそして……クオリも。 誰も口を開こうとしない。 部室の中に沈黙が訪れる。 まるで永遠に続くような時間。 外から聞こえる蝉の鳴き声がこの沈黙を埋めていた。 僕はゆっくりと静寂を切り裂く。 「……辞めるってホンマなん?」 「……うん」 視線を下げながらクオリはそう言った。 「なんでなん?」 「親に……反対された」 クオリはふーっと大きな息を吐いて話す。 「……ほら、俺らも高二やろ?進路の事とかそろ

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第26話『別れ』

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第25話『高校生活』

          ガタンゴトン 2両編成のワンマン電車が僕を運んでいく。 通学する時はいつもこの電車に乗る。 駅に着けばドアが開くのは1両目だけ。 1本乗り過ごすと次にやってくるのは1時間後だ。 最初は不満だった。 「不便すぎるだろ」とか「ダッセ」とかそんな事ばかり思ってた。 けど、いつの間にかこんな通学にも慣れている自分自身に驚く。 二つ折りのケータイを眺めて電車に揺られる。 窓からギラギラと光が差し込む。 いつの間にか少し汗をかいていたのを、頭上にある扇風機が気持ち程度に冷

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第25話『高校生活』

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第24話『戦友たちの宴』

          「「「「乾杯ー!!!!」」」」 飲み会でのお決まりの挨拶。 大人達はビール片手にグラスをコツンと当てたりするが、高校生である僕たちは……こっそりと……ひっそりと……未成年だということがバレないように……いや、もはやそんな配慮は完全になくなり盛大にグラスをコツンと当ててビールをたしなむ。 そして全力で盛り上がっていた。 ライブの打ち上げ。 場所はネバーランドの近くにある小さな居酒屋。 以前からクソガキのメンバーでよく来ていたのだが、今日はいつもとかなりが顔ぶれ違う。

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第24話『戦友たちの宴』

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第23話『最高の景色』

          誇れるものなんてなかった。 本当は自信がなくて。本当は空っぽで。 まるでそれを隠すように強がって。見栄を張って。人に噛み付いた。 僕は結局……自分が嫌いだったんだ。           ◆◆◆ ——扉が開かれた。 クオリが飛び出し。 タツタが飛び出し。 イトウが飛び出し。 僕も全力で扉の向こうの世界へ飛び出した。 眩しすぎる照明と耳を打つような歓声。そして僕は自分の目を疑う。 会場には大勢の人がいた。 ……こんなにも人がいるなんて思いもしなかった。

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第23話『最高の景色』

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第22話『扉の向こうへ』

          僕たちは待機していた。 分厚い扉の前。 奥からは場内のBGMがうっすらと聞こえる。 会場には既に観客がいるに違いない。 果たしてどれだけの人数がいるのか。 そんな事も今の時点では全く分からない事がさらに僕たちの緊張に拍車をかける。 ——スタオベのライブを見てから1ヶ月後。 クソガキは今ネバーランドの控室にいる。 イトウはギターとエフェクターボードを持ち。 タツタもベースとエフェクターボードを持ち。 クオリはドラムステックとペダルを持ち。 僕はブルースハープ

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第22話『扉の向こうへ』

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第21話『軽音楽部』

          「どうしよか……」 部室の机の上にはチケットの束。 そこにはクソガキの名前が書かれている。 ネバーランドからチケットがイトウの家に届き、ようやく自分達もバンドとして認められたような気がして僕は嬉しかった。 しかし、何やら空気が重い。 「……ぶっちゃけどう?」 イトウの問いかけに対し、 「いやー……」 「まぁー……」 「せやなー……」 と、タツタとクオリと僕はそれぞれに、首を傾げたり頬を掻きながらお茶を濁す。 「おいおい、もっと自信持って行こうやー」 とイト

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第21話『軽音楽部』

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第20話『ものづくり』

          「準備出来たから中入ろか」 ヨシユキさんが扉を開けて声をかけてくれる。 僕たちは客席で最終確認の為に楽器を出して練習していたが、 「「「「はい」」」」 と気合いを入れるように返事をして中へと入っていく。 クソガキは今まさに人生初のレコーディングをしようとしていた。 ——自分たちのCDを作る。 そんなことは有名なバンドにしか出来ないと思っていた。けど僕たちのような高校生にも挑戦することが出来る。そしてその経験が演奏力アップの近道だとスタオベのカネムラさんに教えて貰

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第20話『ものづくり』

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第19話『出会い』

          高校二年生。 ネバーランドでのライブを控えている中で、僕はいつの間にか学年が一つレベルアップしていた。 一年の時よりは少しばかりイキリンピック病がマシになっていたので、新しいクラスでも何となくクラスメイトと話が出来るぐらいには回復していた。 けどそれぐらい。 これと言って学校生活に何か大きな変化があった訳じゃない。 僕は完全に意識が外に向いていた。 いや、僕だけじゃない。 他のクソガキのメンバーも「スタオベのライブ」にかなり触発されその結果。 ——音楽スタジオに

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第19話『出会い』

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第18話『少年たちの決意』

          赤。 青。 緑。 黄。 音に合わせて照明が輝きステージの上を彩る。 そこには英雄たちがいた。 ——ベースのユウさん。 髪は金髪でイケメン。前髪は少し長め。その甘いマスクから女性ファンも多い。 何より観客を釘付けにしていたのはそのステージング(ステージ上での見せ方)だった。 ベースを弾きながら回転したり、ジャンプしたり、ネックを逸らして音のタインミングで振り下ろしたり。 ステージの上を華麗に舞っていた。 ——ギターのヨウイチさん 身長が高めでスタイルがい

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第18話『少年たちの決意』

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第17話『憧れ』

          まるで異世界のようで。 映画か何かのワンシーンのようで。 全てが一つになっていくような不思議な感覚で。 僕たちはただただその空気に。 目の前の光景に。 圧倒されていたんだ。           ◆◆◆ 「え?これ全員客なん?」 「凄いな……」 僕とイトウは見事にテンパっていた。 エレベーターが開いた瞬間。目の前には人の壁。壁。壁。壁。 もうぎゅうぎゅうになっていて、自分達のスペースを確保するのに悪戦苦闘していた。 クオリとタツタも、 「あー人多すぎて

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第17話『憧れ』

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第16話『バンドマン』

          「おぉぉぉー!」 「すっげぇー!」 「これはやばいなー!」 「めっちゃテンション上がるー!」 僕たちは全力で吠えた。 初めてのスタジオ練習。 そして今、これまた初オリジナル曲「片想い」を演奏し終えたところだ。 二つの初めてを一度に経験する僕たち。そりゃこうなる。 「それにしても設備が本間に凄いよな。当たり前やけど部室と全然違うわ」 イトウがギターアンプのメモリを調整しながらそう言った。 「確かに、ドラムセットもめっちゃ音良いな」 「ベーアン(ベースアンプ)もデカ

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第16話『バンドマン』

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第15話『新しい場所へ』

          「スタジオに行くぞー!」 と、言って部室を飛び出す高校生四人組。 それは我らが青春パンクバンドクソガキだ。僕たちはまるで遠足に行く前の小学生のようにワクワクしていた。 ライブハウスに出演するという目標は立てた。 しかし、いつもと変わらず部室での練習を続けるのも何か違うなぁと言う事になり、じゃあ音楽スタジオに行こうという流れになった訳だ。 初ライブを終えバンド名が決まり、初めてのオリジナル曲も完成した事でクソガキの意識も少しずつ高くなっていた。 ——音楽スタジオ

          連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第15話『新しい場所へ』