夏目漱石「行人」より/一郎の実証主義
〔夏目漱石「行人」『夏目漱石全集7』所収(ちくま文庫,1988)に対し、一郎の実証主義という視点から光をあててみます〕
夏目漱石『夏目漱石全集7』(ちくま文庫,1988)
*作品紹介では「近代知識人の孤独と苦悩を描く」とされています。
1 長野一郎が抱く疑惑と彼の実証主義(1)疑惑
一郎は悩んでいる。疑っているからだ。彼の妻 直は弟の二郎に惚れているのではないか、というのです。しかし一郎は証拠はないと二郎に言う。恋文が出てきたとか接吻の現場を見たとかではない。「…実証か