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P06_大きな設定、小さな表現│ 『東京彗星』オンラインパンフレット

「1年後、東京に彗星が落ちる」
と発表されたら、この国はどうなってしまうのか。

この大きな設定を、
小さな表現の積み重ねでどう表現しているか
という話です。

主人公を10歳の少年と、
20歳の兄に設定したこの映画ですが、

基本的に主人公まわり以外の、
この国がどうなるのかという大きな情報は
オープニングタイトルにほぼ詰め込んでいます。

まずは映像を観てもらったほうがはやいかも。
オープニングタイトルの一部がこちらです。

こんな感じでこのあとも東京彗星にまつわるニュース映像や音声が
たたみかけるように編集
されています。

個々の表現は小さなビジュアルですが、
それらを集積させることで大きな設定を表現
しています。

***

映像は大きなものを表現しようとすればするほど
お金も時間も手間暇もかかります。


それに対して、セリフはいくらでも大きなことが言えます。

まずは、ニュースシーンで読み上げる原稿から。

以下はニュース映像とアナウンサーの声で構成される、
『東京彗星』のオープニング映像の脚本段階での文です。
(ちょっと誤字ありますが)

画像1

画像2

そして以下が、ニュースキャスター役の
石田浩子さん、西村真二さんに読んでもらうために
つくった原稿の一部。

いろいろなリサーチとニュース文言の研究をして
僕がつくった原稿に対して、
実際にニュースにかかわっている友人に
細かく赤を入れてもらいました。

画像3

実際に読んでもらうときの原稿は
このように文字が大きめに印刷されるものなので、

画像4

原稿は73ページにおよびました。

すべてのニュース原稿を読んでもらった音声を
細かく編集して音楽にのせることで、
セリフでベースの流れをつくり
それぞれの情報を表現する
小さな映像表現を積み重ねる。

大きな設定を小さな表現でおこなっていいます。

それらの小さな表現の中から13項目を紹介します。

①官房長官の会見
②緊急警報放送
③被害想定の新聞記事
④特別災害緊急事態
⑤避難ラッシュ
⑥人がいなくなっていく東京
⑦首都移転
⑧彗星ニュースを見ている/SNSに書き込んでいる人々
⑨地価暴落
⑩カミカゼマンション
⑪東京に残る人々
⑫学童疎開
⑬その他映像化していない設定

それぞれ解説していきます。

①官房長官の会見

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これも官房長官役のさえばとむさんに
フル原稿を読んでいただいたうえで、
ほんの一瞬を切り取って
使っています。

セリフは例の「ただちに影響はない」のアイロニーです。
小野官房長官の名前は、
僕の先輩でこの作品をつくるためにいろいろと面倒を見てくれた
小野プロデューサーの名前を借りました。

②緊急警報放送

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これは『機動警察パトレイバー2 The Movie』ですね。
妙に明るいジングル音を入れて、逆に不安を煽っています。
画像と音だけで大きな事態であることを表現しています。


③被害想定の新聞記事

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リファレンスを元に友人のデザイナーにつくってもらいました。
ベースにしたのは「東京にミサイルが直撃したら」という実際の新聞記事。

彗星は東京を襲う災害のメタファーなので、
そこにはもちろん西のほうから飛んでくるミサイルのことも含まれます。
ゆえに、想定される被害の規模は明確に、
核ミサイルが着弾したときのスケールとしています。

画像の秋葉原と日暮里がつながっていないのは
参考にした新聞記事の解像度が低くて
つながってないように見えちゃってたからです。
…しまった。


④特別災害緊急事態

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新聞記事の見出し部分を重ねるという古典的手法ですが、
"特別災害緊急事態"という言葉の新聞っぽさを考えると
これがベストと判断しました。

背景の渋谷は、
制作準備中の2016年のハロウィンの日に
人が殺到して混乱しているスクランブル交差点

iphoneで撮っておいたものです。


⑤避難ラッシュ

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脚本執筆中の2017年1月3日

この日は地方からのUターンラッシュが
各地で起こる
ことがわかっていました。

それを狙って、東京駅へ行って改札をiphoneで撮れば、
避難していく人たちのショットの出来上がり
です。

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また、高速道路のUターン渋滞も狙って、
新宿からタクシーに乗り神奈川方面へ向かい対向車線の渋滞を撮影
し、
ニューステロップをつくってのせました。

実際は上り車線のUターン渋滞なのですが、
岩手を含め東北へ避難するという文脈が
映画内でできているので、下りの渋滞に見える
…はず。


⑥人がいなくなっていく東京

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東京からいちばん人がいなくなるのは正月だろうということで、
これもまた2017年の正月休みにあちこちで撮影しました。

そこに、ニュース映像撮影時にキャスター役の
石田さん、西村さんが赤線を入れた原稿をスキャンして重ねることで、
錯綜する情報の感じをプラスするとともに、
複雑に重なる音声情報の視覚的補完もおこなっています。


⑦首都移転

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ちなみにエヴァの"第2新東京市"です。


⑧彗星ニュースを見ている/SNSに書き込んでいる人々

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公園でポケモンGOをやりに集まっている人々を撮影した映像に、
個別に考えたSNSへの書き込み原稿をアニメーションしてもらい、
重ねています。

こうすると"彗星にまつわるニュースを見ていたり、
SNS活動をしている人"に見えます。

SNSの言葉は、疎開ニュース映像と同じ考え方
英語字幕では追いつかないのがわかっていたので、
あらかじめ英訳して日本語と一緒に
英語もアニメーション
してもらいました。

小さい言葉を乱れ打ちすることで
全国規模の大きな出来事に見せています。


⑨地価暴落

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1年後に東京が壊滅するとわかったら、
地価や不動産相場は暴落するはずです。

反対に、移住先の各地方都市では高騰するでしょう。

この設定は主人公たちにも関係してくるので、
オープニングで図を使ってニュース映像として表現しています。


⑩カミカゼマンション

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東京の地価が暴落したうえで、
まとまった災害見舞金が出る。

数千万円したマンションが、数十万円まで下がると思われます。

逃げる気のない人のなかには、
もしかしたらそれまで手が届かなかった、
暴落した高級マンションを買って
そこで東京を見下ろしながら
最後をむかえようとする人もいる
かもしれません。

不動産取引や法律上、現実味のない設定かもしれませんが、
このような貧富の逆転は、被災地と都心の立場の逆転とともに
この映画をつらぬくテーマ
でもあります。


⑪東京に残る人々

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カミカゼマンションに住む人たちと同じことが、
集団規模でも起こるかもしれません。

高級老人ホームに住んでいた経済的に豊かな老人たちは、
さっさと地方に避難する
でしょう。

がら空きとなったその高級老人ホームには、
それまで苦しい生活をしていて、このさき生きる気力を失った
貧しい若者が、乗っ取るように集まって生活
することに
なるかもしれません。

この老人ホームも、物語の中で重要な舞台となります。


⑫学童疎開

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この物語の核をなす設定です。
経済的に自立した家庭なら、見舞金で避難、移住ができるでしょう。
しかしさまざまな理由で自力避難が困難な子供たちもいるはずです。

この物語は、そんな学童疎開で兄と離れることになった弟が主人公です。

⑬その他映像化していない設定


・政府が高騰する関東地方の物価凍結を宣言
・各地方の避難、移住誘致合戦の加熱
・彗星の発見者の命名事態→自殺

とくに最後の"彗星の発見者の命名事態→自殺"という設定は、
ほんとは表現したかったものです。
コンテまでは描いてました。

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彗星に自分の名前がつくことは名誉なことなのに
それが確実に災害になることがわかったら
とたんにそれは不名誉なこと
に変わります。

自分の名前で未曾有の災害が語れられるのは
相当なストレスだと思います。

そして発見者が自殺してしまったので、
政府としては認知向上と避難促進のためもあり、
やむなく呼称を「東京彗星」に再設定する

という設定でした。

しかしこの設定は
"日本がどうなるのか"という本筋と少し外れたこと
なので、
トゥーマッチと考え最終的には描かないことにしました。

***

ざっと紹介すると、こんな感じです。

このような設定は、いちいち映像で説明していくと
あっというまに時間をとってしまうので、
主人公まわりの物語に集中してもらうために
オープニングや合間のニュース映像に
コンパクトにまとめて表現
しています。

しかしちょっと考えただけでもこれだけ浮かんで来るわけで、
ひとつひとつ掘って物語にからめていくことで、
2時間の長編ができる準備はできています。

人々がパニックを起こして逃げ回る、
崩壊した渋谷や銀座などの
大きな表現を使わずとも、
小さな表現を積み重ねることで、
大きな設定を表現できる。

ビジュアルと意味の圧縮効率が良い表現は、ある。

予算はあるにこしたことはないですが、
250億円かけたハリウッド映画と闘う日本映画をつくるには、
脚本だけではなくて、ビジュアルストーリーテリングとして、
こういう戦い方もあるんじゃないかと思っています。

予算規模に合わせて話を小さくする必要はないんじゃないか。

チャンスと、タイミング、そして出資者が揃えば、
僕はいつでもGOできます。

まずはパイロット版としても機能するようにつくった、
短編版『東京彗星』はVimeoとU-NEXTにて全編配信中です。



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また映画つくりたいですなぁ。夢の途中です。