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【街】郡上にジンを飲みに行く

SNSで見かけた情報。
それは年に数日しか営業していないある蒸留所の告知だった。

【 11月営業日 】
11月19日(土) 13時 ~ 20時30分 LO. 
今年最後の営業です。皆様お待ちしております!
※ 蒸留所は非常に寒いです。暖房はありません。体調万全&完全防寒服装(特に足元)でお越しください。


「ヨシ! 飲みに行こう。郡上まで」


ということでやって来た岐阜県郡上市。


「郡上」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは郡上おどり。毎年夏に32夜開催される伝統的な盆踊りである。特にお盆の時期に早朝まで踊り続ける徹夜踊りは有名だ。


また付近を流れる長良川は鮎釣りの名所としても知られ、”ヤナ”では夏から初秋にかけて美味しい鮎のフルコースを楽しむこともできる。


ただし今回は晩秋。残念ながらどちらもシーズンではなかった。


郡上のもう一つの特徴は"水の町"であること。冬には豪雪となる飛騨山地に囲まれているため、長良川や吉田川を始め多くの清流が流れている。


江戸時代には防火を目的とした水路が町中に張り巡らされた。


現在の水路は遊歩道が整備され観光地化されているが、それでも水が綺麗であることに変わりはない。


水路の所々には清流や湧水を引き込んだ水舟(みずぶね)と呼ばれる水槽が設けられ、上流部は飲み水に、中流部は野菜洗い用に、下流部は食器洗い用にと使い分けるシステムになっている。


名水百選の第一号に選ばれた宗祇水も水舟の一つ。


ただし水道が整備された現在では、水舟は生活用水としてはあまり使われていないようだ。


水の町らしさは他にも見られる。例えばこの家の前の側溝。

何の変哲もない側溝のように見えるが、覗いてみれば鯉が泳いでいる。

これは「エイ箱」と呼ばれ、水路の水を軒下へ引込んで自家用の小さな水槽に通し、再び水路へ戻す仕組みになっている。今でも町のあちこちにあり、エイ箱で友釣り用の鮎や鯉などを育てている家もある。


そんな水の町では、普通の井戸でさえ趣があるように見えてくるから不思議だ。


街並みも美しい。山と川に囲まれ、切妻平入の統一された様式を持つ町家が建ち並ぶ景観は、伝統的建造物群保存地区にも選定されている。


散策するだけでも充分に楽しい町なのだ。


とは言え、喉も乾いてきたので、そろそろ目的の蒸留所に向かおう。

今回訪れたアルケミエ辰巳蒸留所は、中心部から20分程歩いた町外れにある。民家はあるものの、人気ひとけのない道を歩いていると「本当にこんなところに蒸留所があるのだろうか?」と思ってしまう。


ほどなく突き当たりに町工場のような蒸留所があった。実際この建物、かつてはシルクスクリーン印刷機械の部品工場だったらしい。(シルクスクリーン印刷は郡上の地場産業でもある)


辰巳蒸留所は2017年に辰巳祥平さんが立ち上げ、ジンやアブサン(薬草を原料としたリキュール)をつくっている。お酒好きな人にはよく知られた蒸留所だ。


ここで作られたスピリッツは、全国のリカーショップで販売されている。しかし出荷される数量が少ないため、店舗も本数も限られている。


蒸留所にはBar「酒場あぶしん」も併設されているが、普段スピリッツづくりは辰巳さんお一人で行っているため、Barとしての営業は不定期である。


Barは、時々しかオープンしないことが勿体無いくらいお洒落で雰囲気のある内装だった。壁は辰巳さんのアイデアにより、多くの人の手によりシルクスクリーンで塗装されている。


化学薬品瓶のような形状のボトルも特徴。
さて、今回はどのジンを飲もうか?


迷ったあげく、頂いたのはキンモクセイのジン。スピリッツらしさの中でほんのりと甘い香りもして、とても美味しい。少々寒いが、屋外のドラム缶テーブルでゆっくり味わいながら飲んだ。書かれている「アルケミエ(Alchemiae)」とはラテン語で「錬金術師たち」という意味らしい。


二杯目はどうするか? 飲もうと思えばまだイケるし他のジンも飲んでみたいが、トイレも近くなってしまうので(帰りのバスが困る!)、一杯だけでサクッと帰るとしよう。


帰り道、もう一度川沿いを歩いてみた。
「蒸留所をつくるにあたって、どうしてこの山間の町を選んだのだろう?」と疑問が湧いたが、考えてみれば、郡上は最高の場所とも言える。なぜなら酒造りには綺麗な水が欠かせないが、郡上は山から湧き出る良質な水が豊富に流れているからだ。またジンには香りの元となるボタニカル(ハーブやスパイス)が必要になるが、郡上は多様なボタニカルが育つ豊かな自然に囲まれているのだから。


次回の郡上は、辰巳蒸留所はもちろん、郡上おどり、鮎と三拍子揃ったシーズンに訪れてみよう。


ちなみに現地では一杯しか飲まなかったが、今回のnoteを書くにあたり、限定販売されていたボトルをチビチビ飲みながら書いている。


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