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星野リゾートのマーケター牧場を作る①まずは事業の背景を知る

2017年4月に晴れて東京から北海道トマムに移住し、ファーマーに転身する事になりました。
それまでの経緯は【自己紹介】の投稿が詳しいので是非まだの方はご覧ください。

2017年春、買ったばかりのマンションを引き払い、真新しいスタッドレスタイヤに履き替えたマイカーに家族4人で乗り込み、大洗港からフェリーにて北の大地へ。
長女がちょうど小学校入学のタイミングだったので、土地に慣れる為にも少し早めの3月末の引っ越しでしたが、当時も2024年現在も4月のトマムはほぼ休館期間になります。(例年4月初旬~GW頃まで全館お休み)

「急いで出社しても誰もいないよー」とトマム人事の担当者に言われたので、仕事と仕事の合間のエアポケットの様なふんわりした(ストレスの無い)"穏やかな春休み"を家族で満喫しました。

迎えた2017年4月13日がトマム初出社でした。
緊張しながら、トマム目掛けて自家用車で向かいましたが山に近づき、目的地に近づく度に天気が悪くなり、着いた先では

東京で桜見てから来たんですけど、、、な景色

めっちゃ雪だし吹雪いてるし。。。
自宅のある下界(車で30分程)と山岳リゾートのトマムは気候がまるで違うのです。
プロジェクトの先行きを案ずる様な、、そんな天気に思えました。

着任し、いろいろな人と話をしていく中でファームプロジェクトに関してその時点で決まっている事は

・旧ゴルフ場エリア約100haを牧場にする事(名称も「ファームエリア」に変更する。)
・海野さんというパートナーがいる事

ざっくり、この2つだけでした。
牛ももちろんいないし、牛舎を建てる計画も、予算も組まれていない。
現地でまったくの白紙からのスタートである事を知る訳です。

星野リゾートで新たなプロジェクトがはじまる、と聞くとしっかり計画されていて、設備もばっちり、予算も潤沢、と世間では想像されるかもしれませんが、トマムファーム事業(後の「ファーム星野」)は全然そんな事ありませんでした。
多分、こんなにゼロベースな件も稀だと思いますが、基本的にスタッフの挑戦を歓迎し、過保護すぎない会社ではある、とは20年の勤務歴から間違いなく言えます。

<旧ゴルフ場について>
2016年8月まで普通にゴルフ場をとして営業していました。
いわゆるリゾート併設のゴルフ場で、ゴルフ場単独でのブランド力とか集客力はあまり無い状態でした。
当時のゴルフ場担当の皆様がそれこそ、爪に火を灯すような不断の努力によっては運営は継続されていましたが、2016年8月31日~9月2日にトマム周辺を襲う台風10号の影響でトマムゴルフ場も壊滅的なダメージを喰らいます。

そこでトマムの経営陣は、
「多額の投資を行いゴルフ場を復旧するのか?」
「それとも、違う用途でこの土地を再建するのか?」

のトレードオフを迫られます。

経営陣は後者を選んだ訳です。

その選択を後押しした背景には以下4つがあったと推測しています。


1、大前提

として、星野リゾートはその土地の特有の"文化"、"産業"や、"営み"などを取り入れ"集客"や"滞在満足"に効かせる事をポリシーにしている。

ここで触れるまでも無く、多くの所で語られている事だと思うのでここでは端折ります。
星野リゾートの公式HPを見たり、色々な記事をググってみてください。

マーケティング部門でキャリアを積んだ私も、星野リゾートでは何を始めるにも「この土地の持つ魅力とは」から考え始める事が習慣化されています。

2、ゴルフ場の抱える課題


トマムゴルフ場が単独で競争力が無かった事は前述の通りです。
リゾート全盛時代には、リゾートにゴルフ場が併設されている事はそれなりに価値があったのですが、時代は移りゆきます。
北海道道内にはそれだけで集客力のある、素敵なゴルフ場は多数あり、ゴルフ人口というパイ自体が小さくなる時代において多少の投資で太刀打ちできるか、と問われると"No"だった訳です。

著作者:bedneyimages/写真出典:Freepik
私自身ゴルフはしませんが、決してゴルフ否定派ではありません。
念のため。

また、ゴルフは基本的に1組4名以下で、8分間隔でスタートし、1ラウンド4時間程度掛かる、となると体験できる人数が自ずと限られるのです。
トマムにはザ・タワーとリゾナーレ・トマム合わせて数百室ある中でゴルフを楽しめる方は僅かと言う事になり、折角の空間は一部の人だけのものになってしまっていた訳です。
どうせなら、より多くの人がその楽しさを享受できる空間を創りたいと考えていたのです。

3、夏の集客エンジンを作りたかった


トマムと言えば多くの人のイメージは「スキーリゾート」です。
なんですが実質スキーシーズンは12月~3月の4か月だけなんです。
日本国内、世界中のスキーリゾートも多少の差はあれど似たり寄ったりで、
近年の暖冬傾向で、世界規模でスキーシーズンは年々短くなっています

つまりスキーリゾートも、大半の期間は雪が無い中で、お客様を集めて運営しなくてはいけないのです。
ほとんどのスキーリゾートが抱える問題は、雪の無い時期にいかに集客するか、になります。

夏のトマムには今や北海道の名所にひとつに数えられる「雲海テラス」というキラーコンテンツがあります。

ただ、競合他社でも雲海を見るような施設やサービスをするケースが増えており、コモディティー化しないよう「雲海テラス」は毎年進化を続けていますが、さらに夏のトマムを強くするための新たな夏の魅力を創造する必要に迫られていました。

4、もともとトマムは畜産適地であった


山あいの寒村であったトマムは元々農業適地とは言えない土地であった様です。
今でこそ観光資源でる雲海も、畑作農業を営む上では、気温上昇を妨げたり、日照時間が減ったり、マイナス要因の方が多いのです。
そんな土地でも、というか、そんな土地であったからこそトマムで畜産は定着します。
暑さが苦手な牛達にとって冷涼なトマムの地は適していたようです。
リゾート開発前の最盛期には700~1000頭近くが、今の星野リゾートトマム内、ちょうどファームエリアが位置する辺りで飼育されていたそうです。

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そんな①②③④がミックスされて、結果的に台風10号が背中を押す形になり、

「ゴルフ場は役目を終わらせて、原風景であるファーム(牧場)に戻そう。」

と意思決定された訳です。

「なるほど、、」と思い、雪解け直後の旧ゴルフ場に足を踏み入れるのですが、そこはファームや牧場とは程遠い「ザ・ゴルフ場」(所々、台風の傷跡在り)な訳で、「さあ、どうしたものか」と私のファーマー生活は静かにはじまりました。
2017年星野リゾート・トマムグリーンシーズン※オープンまであと2週間程度。
「ファームエリア」は無事オープンできるのでしょうか?

※スキーシーズンでは無い4-10月の営業期間の事

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最後まで読んでいただきありがとうございます。
ファーム星野の公式ブログである「A Farmer's Diary」では書ききれない、これまでの出来事や事件、その時々の思いなどを書き連ねたくてはじめたこの「note」なのですが、筆が進まずおりました。少し冬眠モードです。

業務上、更新が滞るといろいろな人にいろいろ言われる「A Farmer's Diary」はボチボチ更新しております。
トマム公式Instagramに掲載できるような素敵な写真も共有する様に、SNS担当者にプレッシャーを受けながら日々頑張っておりますので、そちらも是非ご覧ください。









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