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年上のひと(シナリオ)

人物
田中トシ(20)スポーツジムのインストラクター
渡辺リカ(41)ヘアメイクデザイナー
河田マコト(22)田中の同僚
デビッド・グレイ(45)リカの元夫

スポーツジム・ゼブラ・外観(夜)
同・中(夜)

   満員のスタジオ内で、ボクササイズの
   レッスンが行われている。
   インストラクター用のステージで
   飛び跳ねる田中トシ(20)。

田中「ジャブ、ジャブ、クロス、アッパー!」

   軽快な洋楽に合わせて、左右に
   動き回り、パンチを繰り出す田中を見て
   会員たちも楽しそうに体を動かす。

   その人々を見渡す田中の視線の先には
   渡辺リカ(41)の姿がある。

田中の声「あ、今日もいる!
   きれいな人だなぁ・・・」

   キレのいい動きでボクササイズを続ける
   リカは、田中の方を見ていない。

スポーツジム・中(夜)
   マシンジムの片隅で、田中と
   河田マコト(22)がふざけ合っている。
   と、リカが、すっと通り過ぎる。

田中「あ、あの人!」

河田「誰?」

田中「よくボクササイズに来てるんだ。
   キレイだと思わない?」

河田「・・・確かに。
   結構、年上だろうけど」

   リカ、ストレッチスペースで、
   柔軟体操を始める。

河田「チャンスじゃん、
   話しかけてみろよ」

   河田に背中を押され、
   リカに近づく田中。

田中「あ、あの、こんばんは」

   リカ、顔を上げて微笑む。

田中「あの、よく来られてるんですか?」

リカ「時々ね。君のボクササイズ出てるよ」

田中「ありがとうございます!」

   深々と頭を下げる田中に、
   リカはおかしそうに笑うが
   話が続かない。

   と、その時、常連の女の子たちの声。

女の会員「トシく~ん!」

   田中、まごまごとリカに頭を下げると、
   呼ばれた方へ向かう。

繁華街(夜)
   クリスマスのイルミネーションが
   ちらほら目につく夜の街。
   
   男友達と飲み屋を出たところの田中。

   その近くの店で、仲間たちと
   手を振って別れるリカの姿。

田中「ごめん、オレ、帰るわ」

   友達にそう言い残して、
   急いでリカの後を追う田中。

駅前・広場(夜)
   リカに追いつき、声をかける田中。

田中「あ、あの、すみません!」

   驚いて振り返るリカ、
   少々酔っぱらっている。

リカ「あれ? ジムの子?」

田中「はい、田中トシと言います」

リカ「田中トシ・・・そんな名前だっけ」

   ここで田中、思い切って言う。

田中「あ、あの、もしよければ、
  お茶でもしませんか?」

   リカ、一瞬ポカンとして、
   それから時計を見る。

リカ「・・・いいけど・・・?」

   飛び上がって喜ぶ田中、
   それを見て、吹き出すリカ。


駅前・MGカフェ・外観(夜)
同・中(夜)

   コーヒーを飲む田中とリカ。

田中「あの・・・ジムには、いつも、どうも」

   リカ、面白そうに笑う。

リカ「君、学生バイトなんでしょ?」

田中「あ、はい、でも自分のレッスンに
  来てもらえるのは、とても嬉しいので」

リカ「君ね、普段はそうでもないんだけど、
  あのレッスンの時はすごいね」

田中「え? 何がですか?

リカ「パワーというか、オーラというか。
  別人みたい」

田中「普段はそんなにイケてないですか?」

リカ「まぁねぇ、あのレッスン見ちゃうと、
  それ以外の時は普通の子だな、と思って」

  田中、ちょっと不貞腐れて

田中「・・・ヒドイです」

リカ「いいじゃん、どこでも全然輝けない
  人が多い中、君は間違いなくあのレッスンでは
  輝いているんだから」

  田中、モジモジして、

田中「あの・・・お名前聞いていいですか」

リカ「渡辺だけど」

田中「下のお名前は?」

  リカ、怪訝そうに

リカ「リカ、よ」
  
  田中、再び、モジモジして

田中「リカさんこそ、輝いています。
  いつも、なんてきれいな人だろうって」

リカ「・・・酔ってる?」

田中「いえ、殆ど素面です」

リカ「じゃ、口説いてる?」

田中「はい、あわよくば、と」

   声を立てて笑うリカ。

リカ「坊や、いくつ?」

田中「・・・20です」

リカ「ふーん」

   妖艶な笑みを浮かべるリカ。


マンション レ・ジェンヌ・外観(夜)

同・リカの寝室・中(朝)

   寝返りを打って、目をさまし、
      隣りに寝ている田中を見て
    ギョッとするリカ。

リカ「飼えない仔犬を拾うなっつーの・・・」


同・リカのマンション・前(夜)

    オートロックドアの前にある
    ベンチに腰かけている田中。

    買い物袋をぶら下げて 
    仕事から帰ってきたリカ、驚く。

リカ「コラ、何でここにいるのよ」

田中「リカさんを待っていたんです」

リカ「メールとかできないわけ?」

田中「・・・今朝、聞く前に
  追い出されたから・・・」

    ああ、とうなずくリカ。

    田中、少年っぽい、可愛らしい
    顔で、さみし気にうつむく。

リカ「・・・君、カノジョいないわけ?」

田中「・・・え?」

リカ「いるの、いないの?」

田中「いません」

リカ「ふーん」

田中「・・・ふーん、って?」

リカ「もうすぐクリスマスなのに
  可哀そうだな、と思って」

    田中、キョトンとしている。

リカ「クリスマスまでなら、
  付き合ってあげてもいいわよ」

    一瞬舞い上がるが、次に
    首をかしげる田中。

田中「クリスマスまでって・・・。
  その後は?」

リカ「後はなし。
  期限付きなら、遊んであげる」

    田中、複雑だな、喜びを
    隠しきれない。


バー・アルカディ・外観(夜)

同・中(夜)

    華やかなパーティで、
    リカの仲間たちに圧倒されている
    田中。
    そこへ、デビッド・グレイ(45)が
    やってくる。

グレイ「やぁ、君がリカの新しい仔犬かい」

    田中、驚いて、グレイを見る。

グレイ「僕は、リカの別れた亭主。
   画家をやってるんだ、よろしく」

    田中、呆然とする。

グレイ「リカは、こういうパーティに
   よく、君のような子を同伴する。
  僕への当てつけかな?」

田中「・・・うぬぼれじゃないですか?」

グレイ「ほぉ」

    面白そうに笑うグレイ。

グレイ「お祭り行事の後は、きっと
   恒例のお別れが待っているよ、
  仔犬ちゃん」


マンション レ・ジェンヌ(夜)

同・リカの部屋・居間・中(夜)

    笑い転げるリカ。

リカ「へーぇ、デビッドのヤツ、
   そーんなこと言ったんだぁ」

田中「いつもこんな付き合い方してるの?」

リカ「期限付きってこと?」

    田中、うなずく。

    リカ、ちょっとしんみりと、

リカ「トシは、ずっと続くものが
   あるって思ってる?」

トシ「どういうこと?」

リカ「どんなことだって、終わりはある。
   なら、先に決めておいた方が
  気が楽じゃん」

田中「どうして、そんな・・・」

リカ「そんな風に考えるのかって?」

    田中、うなずく。

リカ「そうね、どうしてかしら」

    田中、不可解そうに首をかしげる。

リカ「たぶん、今の君にはわかんないよ」

    田中、思わず、リカの手を握る。

リカ「クリスマスまでね。
  それが終わったら、ジムでも
  知らんカオするのよ」

田中「・・・わかんないよ、全然」

リカ「わからないほうがいいのよ」

    田中、リカを抱きしめる。


同・リカの部屋・居間・中(夜)

    明かりを消した部屋で、
    クリスマスケーキのろうそくを
    見つめるリカと田中。

    リカ、田中の手を握ると
    ろうそくの火を吹き消す。

リカ「明日の朝は、そっと出ていくのよ」

    暗闇の中で、イヤイヤと
    首を振る田中。

    リカ、田中の頬にキスする。

リカ「いい子だから・・・ハイ、は?」

    田中、リカの涙に気付き、
    抱きしめる。

田中「・・・はい」

             了





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