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1ヶ月、Zoomを利用してオンライン授業をしてみて思うこと。

最初の休校措置が取られる直前に、前勤務校で教科担任をしていた中学3年生の授業の際に、「本来卒業式後実施される特別講習会が、休校措置により出来なくなるけれども、それを理由に学びをなくすことはしたくないと思っている。だから僕は“Zoom”と言う遠隔会議システムを使って授業をしたい。みんなの学びを絶対に止めないよ。ヨロシクね。」と宣言をしました。宣言後の1ヶ月間、日曜を除くほぼ毎日実施してきたオンライン授業の進め方と、そこから見えてきたこと、そして今一種のブームのように実施されているオンライン授業について思うことをつらつらと書いていきたいと思います。

1.オンライン授業前の授業方法①

オンライン授業の進め方の前に、教科担当をしていた中学3年生の普段の授業の方法についてまずは触れたいと思います。

僕の普段の授業は、生徒たちの予習をベースとしています。前回の授業の終わりに、次回授業で進む範囲を口頭で伝えます。そして、同じ内容をGoogle Classroomでも告知をし、予習をするように促します。

実際の授業の中では、時間で区切りながら理解しているかの確認をしてもらうため、“学び合い”のスタイルを利用して、生徒たちにお互いの解答を確認してもらいます。その際に予習で疑問に感じた部分は、生徒たちで相談してもらいながら、解決してもらいます。

授業における声の掛け方は次の通りです。

「では、教科書◯◯ページの練習◎◎まで理解できているかを、今から15分で確認してください。理解できた人は黒板に自分の名前を書いてください。わからないところがある人は、黒板に名前を書いた人に質問をして解決しましょう。黒板に名前を書いた人はそれで終わりにせずに、わからない人に積極的に声をかけるようにしましょう。」

この声がけは、西川純著『すぐわかる!できる!アクティブ・ラーニング:新しい授業の方法がこの1冊でわかる!』を参考にさせていただきました。

生徒たちが問題に取り組んでいる間、僕は机間巡視をします。僕の方から積極的に教えることはしませんが、質問されればヒントは出すようにしました。ただし、解き方を全部解説することはありません。「その方向でいいと思うよ」とか「何か他の視点はないかな?」くらいの声がけです。僕が机間巡視で重要視していたのは、生徒がどこで躓き、どこで一番悩むか、逆にどこは簡単に乗り越えているかを見ておきます。

もし時間内に時終わらなければ、もう少し時間をとります。その際には、「●●君、△△さんもわからなそうにしてたよ。」と声がけのお手伝いをするようにしていました。

全員が無事に名前を書くことができたら、学習支援ツール“ロイロノート”に自分が作成した解答を提出してもらいます。それぞれの解答が自由に見られるように“解答共有”の設定をし、お互いの解答を最終確認してもらいます。

以上の流れを繰り返し、授業が進行していきます。

全体の理解が早い時は、無理に先には進めません。類題演習を取り入れるなどして、理解を深める時間にしていました。もし時間内に指定範囲が終わらない時は、次の授業に持ち越します。実際にそのような進め方をしても学習範囲が終わらないことはありませんでした。もしかしたら生徒たちに無言のプレッシャーみたいなものを感じさせていたのかもしれませんが、自分たちなりに授業の進行状況は気にしていたようで、終わらなかった場合は、次の授業で挽回しようと頑張ってくれていました。本当にありがたい限りです。

ここでもしかしたら疑問に思う方もいるかもしれません。「机間巡視で得た情報はどこで生かしているの?」

僕の大事な仕事は実は、授業後にあります。生徒たちが躓いていたところについての解説動画の作成です。

世の中には問題解説動画がアプリやYouTubeに沢山存在しています。中には本当に素晴らしい出来のものがあり、「これを使って勉強すればいくらでも力がつくじゃん!」と感心すらしてしまいます。

では、そのような素晴らしいコンテンツと僕の授業の違いをどう出せばいいのか?そう考えた時に、「目の前にいる生徒たちが躓いたところをわかりやすく解説する」コンテンツを作ろう!と思い、作成することにしました。

中には、「だったら授業中にその解説をすればいいじゃないか」と言う方もいるかもしれません。しかし、クラス全員が躓いているわけではありません。中には完璧に理解している生徒もいます。そのような生徒に解説を聞いてもらうことは逆に退屈させることになると考え、十分に理解できていないと感じている生徒だけが復習の際に確認できるものを作ろうと思い、解説動画を作成し、Google Driveに保存、URLをGoogle Classroom にアップすることにしました。

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2.オンライン授業前の授業方法②

各節や章のまとめの授業では、生徒たちをいくつかのグループに分け、問題解説動画を作成してもらいました。これまで自分たちで学び合いをしてきたことを、動画という形でアウトプットしてもらい、定着を図ると同時に、ICT活用の一環として動画作成による様々な学びと気づきを得て欲しいという狙いがありました。

動画作成については、僕自身がGEG(Google Educators Group)Fukushima のリーダーをしていることもあり、たまたまYouTube Space Tokyo で開催された動画作成に関するワークショップに参加する機会を得られたことで学んだ基本的知識を3回の授業を使って生徒達に伝え、あとは自分たちでいろいろ調べてもらいました。

各グループで作成してもらった動画を授業内で鑑賞し、生徒たちとわかりやすさや面白さ、動画作成・編集に関する技術力などについて振り返りをしていきます。僕たち大人には理解できていない生徒同士の“ツボ”みたいなものを発見することができるので、僕自身が制作する動画解説の参考にもなりました。

動画のレベルは日を追うごとに急激に上がっていき、とても僕が追いつけるものでないところまできました。もしかしたら、生徒の成長を妨げる要因の一つは大人にあるのかもしれないと痛感させられる機会にもなりました。

3.オンライン授業の進め方①

だいぶ前置きが長くなりましたが、ここからがオンライン授業の実践方法です。僕がオンライン授業を始める前に考えたことは、以下の5点です。

① 普段の授業と同じような“学び合い”の形で授業を展開する。        ② とは言え、オフラインとオンラインでは根本的な状況がなるので、その違いを受け入れた上で、オンラインでもできることとオンラインでしかできないこと、さらには再びオフラインに戻った時に、オンラインの良さがこれからも利用できる授業デザインであること。                       ③ 集中力を切らせない仕掛けを作ること。                 ④ 学習以外の気づきが生徒たちの中で生まれる仕掛けを作ること。      ⑤ 僕も生徒も楽しい時間を過ごせること。

 授業で活用したのは、遠隔会議システム“Zoom”です。ZoomのURLをGoogle Classroom に貼り付けて、時間になったら、生徒たちに入室してもらいます。授業の一番最初にしたのは、「今日何してた?」と安否確認をしながら、1日の行動を尋ねました。因みに授業時間の設定は20:00スタートにしました。理由は2つ。1つ目は、開始希望時間をGoogle form でアンケートを取った際に、希望が一番多かったこと。2つ目は、夜の方がその日1日の活動をリアルに伝えてもらえるので、気になることが出たらアドバイス的なことも話せること。以上の理由からの時間設定です。

1日の行動を尋ねると、いろいろなことを聞くことができます。友人同士で一緒のゲームをしていたりとか、自分たちでオンライン勉強会を開催していたこととか、1日中好きな韓流スターの映画を見ていたとか...普段できないことを自分たちで考えながら活動していたのが見えてきました。運動不足解消のために、Zoomを繋ぎながら、お互いが近くを散歩し、実況中継みたいなことをしていたら通信量が半端じゃないことに気づき、写真の送り合いに切り替えたなど、失敗から学ぶことも出てきました。

その中でも特に良かったと思う話は、ある生徒が「授業前に家族以外の誰とも話さなかった」と発言したことを別の生徒が心配に思い、翌日オンラインで勉強会をしようと声をかけたことがきっかけでオンライン自習室が生まれたことです。

全員の安否確認が終わったところで学習に入ります。授業内容は普段同様、前回授業時に伝えておいた授業進度範囲をGoogle Classroom にも告知をし、予習しておいてもらいます。そして、予習時に生じた疑問は生徒たちの“学び合い”の中で解決してもらいます。ただし、理解した人が理解していない人のところに教えに行くということはオンライン上ではできません。そこで、Zoom にある機能“ブレイクアウトセッション”を利用することにしました。1セッション4〜5人になるように設定します。自動設定でセッションは振り分けます。時間は問題ごとに設定し、“学び合い”を始めてもらいます。声がけの例は以下の通りです。

「では、教科書◯◯ページの練習◎◎まで理解できているかを、今から15分で確認してください。各グループで話し合いながら、必ず全員が理解できるようにしましょう。もしグループ内でわからないところがありましたら、定期的に僕が顔を出しますので質問してください。」

声がけの通り、定期的に各セッションに顔を出します。ただしその際に僕の方から「何か質問ある?」とは尋ねません。あくまでもできるだけ自力で解決してくれることが目標です。また、顔出ししている最中に生徒たちのやりとりにできるだけ耳を傾けるにしました。これも普段同様、復習動画作成のためのポイントを知るためです。

時間になったら自動的にメインセッションに戻ってきます。メインセッションでは、“ロイロノート”に解答を提出してもらい、他の人たちの解答も見られるように、“解答共有”に設定します。ここで普段とは違う仕掛けにしたのは、全員が提出が終わった後に、生徒を一人指名して、“画面共有”機能を使い、解答の解説を行いました。生徒の解説が終わった後に補足説明を僕が加えて、その問題については終了です。

この流れを繰り返し、学習範囲が終了した時点で授業が終了となります。

授業後、生徒たちの躓いた部分を必要に応じて復習動画を作成し、Google Drive に保存、URLをGoogle Classroom で共有します。


4.オンライン授業の進め方②

休校期間目に行っていた、節や章のまとめの問題についての動画作成を、オンライン授業でも実現したいと考えていました。グループ内の役割分担から始め、準備した情報や動画をGoogle Drive などを利用しながら集約し、動画編集をする。完全リモートで完成することが可能かというチャレンジです。

結果から言うと、何も問題なくチャレンジは成功しました。各グループとも様々な制約がある中で、想像を遥かに超えるクオリティの動画を完成してくれました。ここまで来ると、僕のアドバイスなんて何も必要がありません。

完成した動画をGoogle Drive にアップしてもらい、授業内で観賞会をすることにしました。1問見終わるごとに、生徒たちにリフレクションしてもらい、感想を共有していきました。

5.オンライン授業の進め方③

普段の授業ではなかなかできないことをオンライン授業で叶えられることも可能です。僕が実際に行ったことをいくつか書いていきます。

先ずは、オンライン授業参観です。普段どのような授業が行われているか気になっている方は多いと思います。そこで、自宅で生徒たちが授業を受けているのだから、家族が授業に入り込むことを良しとしました。保護者だけでなく、兄弟・姉妹、イトコが参観してきました。

次は授業開放です。他の学校の先生や教育関係者、さらには教育に興味のある一般の方など本当に様々な方が覗きにきてくれました。生徒たちも「また誰か見にきてる」くらいの感覚しかなく、普段どおりの授業を進めていたところがまた面白かったです。

さらに、探究授業。教科担任をしているクラスでしたので、普段の授業で数学以外を教える機会はありませんでしたが、僕が授業中にする雑談に、生徒たちは結構興味を持ってくれていたので、「SDGsについて考える」と題して探究授業をしてみました。題材は落合陽一著『2030年の世界地図帳』。授業までに読み進めてもらうページを指定し、“ブレークアウトセッション”で何人かと対話をしてもらい、メインセッションに戻って対話の中で生まれた考えを“チャット”機能にそれぞれに書き込んでもらいながら、感想を共有する。さらにその感想の中から興味が持てたことを、次の“ブレークアウトセッション”で深めていく。これを繰り返していくという試みをしました。中学校3年生から、“同性婚”や“地方再生”などの言葉が飛び交ってくれたことは、驚きであると同時に、逞しさも感じました。

最後に、特別講演授業。期間中に2名の特別講師を招き、生徒たちに話をしてもらいながら対話もしました。一人目は、ホリエモンが立ち上げた通信制サポート校“ゼロ高”の運営をしている内藤賢司さん。昨年12月に知り合い、僕にサポート校設立の話をしてくれ、人生の転機をもたらしてくれた方です。内藤さんには「イケてる大人とイケてない大人の見分け方」と題して、社会にいる大人について話してもらった後、生徒たちの質問にガチで答えてもらいました。生徒たちも普段接している学校の先生方からは聞けない話が聞けて、とても刺激を受けたようです。「もっと話したかった」という声がたくさん上がりました。

二人目は、渋谷区議会議員をされている神薗麻智子さん。ベネッセの小村俊平さんから紹介されて、渋谷区の公教育の話などをさせていただき、今後の僕自身の活動にも影響をもたらしてくれた方です。神薗さんには「コロナから見る地方議会とは?地方議員の仕事とは?」と題して、地方自治の役割などについて、コロナ対策などの面から話してもらいました。パートナー婚を条例で認めた区でもあり、前述の探究学習内でも出ていた“同性婚”との絡みもあり、生徒たちは熱心に耳を傾けていました。地元の町議会との違いも考えていたようです。

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6.オンライン授業をしてみて見えたこと

最後に、1ヶ月間オンライン授業をして見えたことをまとめたいと思います。

1点目は、普段の授業の振り返り。様々な学校に所属する先生たちから「オンライン授業って、実は普段実施してきた授業の質が問われている。佐藤先生の授業を真似ようとしてもできない人は結構いると思う」と言われました。その理由を尋ねると、「一方通行の講義型の授業をしている先生にはあまりにもハードルが高い。普段から“学び合い”をしている先生じゃないと成立しないと思う」という答えが返ってきました。

「確かに」と感じる部分もあります。実際、授業をした生徒たちは2年間付き合いがあり、僕がどのような授業を展開しているか十分に理解してくれています。つまり、僕の授業は生徒たちも含め、あらゆる“特殊”な条件が複雑に結びついたことによってできている授業です。したがって再現性が高いかというと、疑問であることは間違いありません。実際、僕の心の中にも「誰かに真似してほしい」という想いはほとんどなく、「目の前にいる生徒たちと面白い時間を共有したい」という気持ちが大きかったので、再現性は全く考えていませんでした。ですから、「僕のようにやれば誰でもオンライン授業ができる」なんて傲慢な押し付けは一切ありません。ただ、僕も前述の西川純先生の“学び合い”の方法は参考にしましたし、もし「詳しく話が聞きたい」という方がいればお話しする用意はあります。

2点目は、目標の設定。オンライン授業を通じてどんな目標を達成したいかということです。僕は“目次3”に書いた5個の目標を設定しました。その5個の目標のいずれも達成できたと思っています。コロナによる休校期間が明け、普段の学校生活になったとしても工夫次第で、探究授業は面白く行えますし、外部の方との繋がりも持つことが可能です。ここで一つ言いたいのが、「オンライン授業をすること」が目標ではなかったことということです。

3点目は、学校の存在価値の再定義。オンラインで授業が成立することで、これまで当たり前だと思っていたことに、疑問を持つことになった生徒たちも出てきました。「1時間以上もかけて通学しなくても、高い質の授業が受けられる」「リアルに会わなくても、友達とは繋がっていられる」みたいな感想が実際に出てきました。その一方で、「廊下ですれ違ったときに何気なく先輩や後輩・他のクラスの友達と話せていたことが、実はとても幸せだった」「友達に触れられるってすごく安心感が生まれると気づいた」という気づきも生まれています。つまり、これまで明らかになっていなかったことが様々な面で可視化されたということです。

にも関わらず、学校側がafter コロナで描いている学校の姿が、元のままの姿だとしたら...生徒たちの感覚は明らかに変化しています。学校側が変化していなければ、生徒たちはもっと窮屈に感じてしまうかもしれません。

4点目は、休校前には顕在化していなかった生徒の新たな面の顕在化というのもあります。休校以前はあまり目立たなかった生徒が、オンラインになったことにより、出せなかった自分を出せるようになり、発言する機会が増えたり、自分から率先して役割を引き受けたりということが出てきました。ということは、これまで行っていた評価の見直しも考える必要が出てきているということです。少し触れづらいことではありますが、オンラインをうまく利用することにより、不登校になってしまっている学習権の確保という流れにもつながるかもしれません。

7.最後に伝えたいこと

最近のニュースやメディアの記事でもオンライン授業について、たくさん取り上げられるようになりました。また、Facebook などのSNSにもオンライン授業の様子などを投稿したり、YouTubeに動画投稿をするのもたくさん目にするようになりました。

コロナを1つのきっかけとし、これまでの授業方法などのアップデートを考え、実際に取り組んでいることはとてもいいことだと思います。何よりもそれが生徒たちのためになるのであれば、それに越したことはないと思っています。

ただ、最近目的が変わってきている危機感も抱いています。少しきつい言葉になってしまいますが、「その投稿、自己満足になっていませんか?」と問いたいと思うことがあります。

確かに、コロナの影響でこれだけ自粛ムードが高まり、たくさんのことを我慢している状況だと思います。ですから、どこかしらに充実感を得たい気持ちがわからないわけではありません。そういう意味で、“リア充”感満載の投稿をしたくなる気持ちもわかります。そして、実際に楽しそうな光景は他の人にも伝播し、新しい活動へも繋がります。

ただ、その一方で、今の満足感もままモチベーションを維持し続けられるのかが心配ですし、自分の活動の検証がしっかりなされているかも少し疑問に思います。つまり、with コロナ→after コロナの展望を描けているのかが心配です。せっかく生まれた学びに対するアップデートを止めないためにも、ちょっとだけ冷静になって、自分の活動が社会に貢献できる姿を描いてほしいなと感じています。

なんてちょっと偉そうな感じで言ってしまいましたが、生徒たちを思う先生方の熱い気持ちには、本当に敬服しています。これからも一緒に学びのアップデートに携われると幸いです。

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