よく分かる「ハウスオブグッチ」@スタイリストが解説
やっと行けました、ハウスオブグッチ。
去年から楽しみにしていたけれど、結論から言うと大変楽しめた映画でした。
業界関係者だったり話を知っているとより楽しめる仕掛けは多いのですが、そうでない方のためにもちょっとファッション的な視点を補足しつつ解説してみようかなと思います。(一応事実に基づいているので調べれば分かってしまう故、多少のネタバレも含みます)
まずは、主な登場人物と人間関係を整理しておきますね。(作中でのキャラクターに準じます)
若いイケメンや売り出し中の新人女優がほぼ出てこないおじさま中心の重厚なキャスト。個人的にはドメニコが割とポイントになっていたのが驚きで。彼は業界の主要人物として現在も活躍しているのですが、まさかハウスオブグッチでもキーマンのひとりとしてフォーカスされるとは。
また当時の状況でいうと、まさにイタリア式ファミリービジネスの全盛期でした。グッチ、ヴェルサーチ、ミッソーニ、、イタリアは今でも最小単位の代々家族経営スタイルの企業が多いのですが、ファッションも一族で経営やデザインを行い代替わりしていくというのが一般的だったのです。
しかし、家族内での汚職の多発や甘い財務管理、マウリツィオが殺害された2年後にはジャンニ・ヴェルサーチ殺害事件が起きるなど主要人物が急逝した際の問題など負の側面が表に出るようになり、ファミリービジネスが転換期を迎えることになった時代でもあったと言えます。
もうひとつ補足として。概ね実話に基づいた作りになっているものの、映画化するにあたって脚色されたり省かれている部分もあったかなと。有名は話としては
・パトリツィアの父は実父ではなく再婚相手。母も貧しい育ちから運輸業界の大物を射止め暮らしが一変したことがパトリツィアの人格形成にも大きな影響を与えたと言われる
・パオロは「パオロ・グッチ(PG)」という廉価版のブランドを勝手に始めことで父の怒りを買って会社から追放された。(グッチの商標権侵害で問題になったのは独立した後)作中では無能扱いされているが、60〜70年代にデザイン部門を支えた人物とのポジティブな評価もある
・パトリツィアは自分がデザインしたコレクションを発表したが、派手で趣味が悪く全く売れなかった
あたりが映画では意図的にカットされていたようです。話を分かりやすくするためであったりキャラクターがブレないようにするため、またパトリツィアなど存命中の人物もいるため配慮があったのかなと思いますが。マウリツィオも奥さんの言いなりのボンボンみたいな感じですが、アルド追放後のグッチを立て直した優秀な経営者だったとの評もあります。
内容については、鑑賞する前には”もう少しドキュメンタリータッチの内容なのかな”と思っていました。パトリツィアの横暴ぶりとかグッチ家の内紛とかをシリアスに描くのかなと。でも蓋を開けてみたらエンターテイメントとして楽しめる作品になっていた。そこはさすが巨匠リドリースコット監督。もう84歳とは驚きです。
あまり凄惨でシリアスな内容にしてしまうとハリウッド作品としては娯楽性に欠ける。ただ派手な演出はそぐわないということで、キャストの力が最大限に活用された作りになっているなと。特にアルド役のアルパチーノ、パオロ役のジャレッドレトの親子のシーンは上質なコントのよう。エプロン掛けて一緒に皿洗いからの株を売った話のシーンは声を出して笑ってしまいました。ジャレッドレトは普段のイケメンぶりから落ち武者スタイルの落差が凄い。
撮影時には容貌が変わりすぎて、最初アルパチーノから無視されたそうです。どうやったらこうなれるのか。役者魂ですね。これは必見です。
そして何と言ってもレディーガガの演技が素晴らしいの一言。グラマラスな野心家から社長夫人として上り詰めていく様子、そして一転して捨てられた女として哀しく復讐に向かう姿、、もう歌手ではなく女優の看板を掲げていくに十分、今後を安泰にする演技だったと思います。
ガガは今作でキーとなった衣装についても積極的に関与していたようで
元々舞台衣装で話題をさらったり見え方・見せ方についてはこだわりと確かな目がある方ですからね。その時のパトリツィアの状態を表すために効果的な衣装を選んでいたと思います。ゲレンデで夫に手を出す女性を牽制する際の真っ赤なスキーウェアなどは印象強かったなぁ。言い方も遠回しで怖かったけど。
で、その衣装ですよ。特筆すべきは。
当時のグッチのイメージをしっかり再現している。トムフォード就任前は割と地味でしたからね。そんな地味だけど重みのあるクラシックな雰囲気をグッチのアーカイブの協力を得たほか、かなりのアイテムは新たに制作して作品を盛り立てています。容姿も極限まで似せているのは高ポイント。アナウインターやその側近まで激似なのは笑いました。
そしてそれぞれのキャラクターが衣装でアイコニックに表現されている。
マウリツィオの青年期はまだ野暮ったく適当なサイズ感だけど、グループで実権を握っていく過程で髪型含めスマートリッチなスタイルへ変わっていったり、芸術家肌のロドルフォはシックで重厚な色使いに、商才に長けたアルドはニューヨーカーのようなパリッとしたスタイル、センスを自負するパオロは派手な色のダブルのスーツを着て、追放後はこれまた派手なブルゾンを着たり。落ちぶれてすまん的な。
やっぱり衣装が「しっくりくる」ことによって観客もすんなり物語に入れるし、説得力や存在感は大きく変わります。これって劇作だけでなく我々の日常生活でも一緒だと思っていて。「こういう人です」「こういうことポジションです」というのがハッキリ伝わることで印象や説得力はかなり変動します。
今年から「ドラマの登場人物のような存在感を得るスタイリング術」というのを掲げていこうと思っているので、改めてその影響力の大きさを感じましたね。これを伝えていかねばならないな、と。
ブランドの制作過程とかショーとか、そういったファッション要素には乏しいけれど、この手の作品でありがちなスキャンダラスな面だけでなく、グッチ家の面々の心の動きや人間らしさにもフォーカスした内容はドラマとしても楽しめるはず。事前に概要を予習していくのもいいかも知れません。もう少しパトリツィアの本心がどこにあったのか描いてほしかった部分はあるけども。ちなみに日本のとある意外な?地名も出てきますよ。
そして、現在のグッチにはグッチ家の人間はひとりも居ませんが、トムフォードによってブランドが刷新されたように、2015年に就任したアレッサンドロ・ミケーレによってグッチは再びファッションの最前線に返り咲いています。
「常にファッションの最前線でありたい」というDNAは、たとえグッチ家が去ってしまってもブランドにはしっかりと刻み込まれているのだなと感じましたね。
そういえば、寝かせてあるグッチのジャケットがあったっけ。久々に着ようかなぁ。
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個人の方や企業様より、スタイリングを含めた見せ方やブランディングのご相談を日々承っています。「タイタンの学校(校長・太田光代)」でのファッション講師などスピーカーとしての活動も。何かお手伝い出来ることがあるかも知れません。専門家としてのコメントや執筆なども、まずはフォームからご相談or60分zoomや対面でお話ししてみませんか?メールでのお問い合わせも歓迎です。
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オーダーメイドスタイリスト 神崎裕介
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