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小説『引越物語』④ケンタに行こう!

わたしは凪

趣味は書くこと、映画鑑賞、作家のサイン会に行くこと………

ここまで書いて、読み返してみる。 

わたしって、こんなペラッペラ人間なんだ。

書き出す程の特徴もない上、長所短所も思いつかない。



この小説を共作中の友人が本当に狙っていたのは、集英社の長編小説のコンテストで優勝することだった。

何度もトライしたものの彼女の作品は選ばれなかったそうだ。

短編ならなんとかなるし自費出版して自分で世の中に手売りすると決意した友人は、何故かわたしを巻き込んだ。

集英社の短編小説のコンテストの選考が終わると、毎年ネット上に選考者=プロの座談会という名のダメ出し大会が公開される。

こんな目に遭う前は、それを読むことがとても面白かったことを思い出す。

とりあえず、登場人物について簡単に手書きで書き出すのが良いとかなんとか書いてた気がするな…。


わたしが今も勤めている会社を寿退職した友人から、「ご無沙汰しております。如何お過ごしでしょうか。」と改まった丁寧なメールが来たのは……。

そう二年前のバレンタインデーの日だった!!

「短編小説を自費出版するから凪も書いてよ^^」という無茶苦茶な依頼に、わたしは飲んでいたソイラテを吹いてしまった。

「そんなもん書いたことがないから無理無理(笑)ランチならいつでもいいよ♪」とわたしが返信したら、翌日にはうちの前で手を振っていた。

フットワーク軽すぎ…。



背後で鉛筆の芯がシャクシャクといい音を立てている。

義妹の菜摘は絵を描くことに没頭して、その肌は高校生のように紅潮し微笑みを浮かべている。


ガシャグシャ

「ぽーーん!あっち行けー!」
わたしは友人との共作に嫌気がさしていた。

「ナイッシュー!!」

あのね、ナイスなんかじゃないんよ…と、心の中で菜摘に八つ当たりをする。

「おねえちゃん、ごはん作る元気ないろぉ?今夜は二人やき、ケンタッキーにしようよ」

菜摘は今日もご機嫌だ。


ゴミ箱には大量の書き捨てられた紙。

あー!!!!

せめて、わたしだけの作品ページを作って欲しかった。

友人とのリレー形式の小説では、手枷足枷で走れない。登場人物の言動に整合性をとるのに精一杯になる。

小説になるような特別なエピソードを持たない平凡な主婦わたしが、わざわざ書く意味を見いだせずにいた。

ひたすら、友人が作り上げたキャラクター達ならどうするだろうと四六時中考え、友人が書いてメールしてきた文章を何度も何度も読み返す日々。

「凪は凪自身のことを日記のつもりで自由に書いてね!」と友人は簡単に言うが、平凡な主婦がセミプロの書く小説に登場したところで背景にすらならない。

わたしが書いたこれ
ぜーんぜん面白くない
読みたくない

ギュッギュッと握りしめていると、紙ってこんなに痛いのだなと久しぶりの感覚に驚く。

だいたいさ…
書くのってさ…

怖いことだよ

突き当たるのはこれだもん


わたしはナニモノ?

書かされているうちに、気がついてしまった。

自分の家のことなのに、わたしは殆ど存在していなかったのである。



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