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不思議の国のピュー様 |『ドント・ウォーリー・ダーリン』


※ネタバレあり


大好きなフローレンス・ピュー様主演の『ドント・ウォーリー・ダーリン』を見た。

笑うピュー様、踊るピュー様、不安なピュー様、叫ぶピュー様、立ち向かうピュー様、走るピュー様……
ピュー様はずっと素敵だった。他の作品でも不穏な状況に置かれがちな彼女だけど、いつでもブレない強さがある。 声にしても身体にしても、重心低めな感じが美しいなと思う。


そんなピュー様が出ている作品は無条件に信頼してしまうところがあるのだけど、『ドント・ウォーリー・ダーリン』は見終わったあと正直「ん?」と思ってしまった。


あらすじはこんな感じ

完璧な生活が保証された街で、アリスは愛する夫ジャックと平穏な日々を送っていた。
そんなある日、隣人が赤い服の男達に連れ去られるのを目撃する。
それ以降、彼女の周りで頻繁に不気味な出来事が起きるようになる。
次第に精神が乱れ、周囲からもおかしくなったと心配されるアリスだったが、あることをきっかけにこの街に疑問を持ち始めるー。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』公式サイトより


自分たちの住む街に疑問を持ち始めたアリス(フローレンス・ピュー)は、ついにこの世界が、仮想空間に組み立てられたニセモノの世界であることを突き止める。同じコミュニティで、何不自由なく幸せそうに暮らしている「完璧な妻」たちは皆、夫によって現実世界の記憶を消され洗脳されている状態。いわば女性たちが現実世界から仮想空間の世界へ誘拐され、監禁されているような状態なのだった。


仮想空間へ連れていかれる前、現実世界でのアリスは外科医として毎日忙しく働いていた。一方で、共に暮らすパートナーのジャック(ハリー・スタイルズ)は無職で家に籠っている。時間はあるのに家事すら手伝いもしない。それにもかかわらず毎日仕事で疲れて自分に構ってくれないアリスに、不満と焦燥感をいだき、嫉妬のようなものを募らせるばかりだった。そのような男性たち…不当に女性に地位を奪われたと思い込んでいるジャックのような男性たち…を扇動して、女性が男性を立てることによって成立している仮想空間へと引き込んでいたのが、街のボスであるフランク(クリス・パイン)と妻のシェリー(ジェンマ・チャン)である。

そのような夫たちが望んでいたのは、50年代アメリカのまるで広告のような家族像。夫は外で働き妻は専業主婦。夫の仕事は成功していて、車付きの一軒家に住み、妻は毎日美しく着飾り夫を癒して献身的に支える。順風満帆の幸せな生活。全てが上手くいっている。

しかし、そんなものは偽物にすぎない。本当の自分を思い出したアリスは「なぜ、こんな仮想空間に連れてきたの?」と問うが、ジャックは「働きづめで惨めな君を救ってやったんだ」と言い放つが、アリスは「仕事が好きだった!」「私の人生だった!」と叫ぶのだった。
そこから激しい逃走劇の末、ついにアリスは元の世界に戻ることができた。(多分…)



という風に書けば多少わかりやすいかもしれないが、引っかかってしまう所が多々あった。この映画の根幹にフェミニズムのメッセージを盛り込みたい気持ちがあるのはわかるのだが、ノイズが多すぎて作品自体が混乱しているような印象をもってしまった。

例えば、現実世界でのアリスとジャックの関係性の描き方。映画では、2人は現実世界でも恋人であったという設定だったが、このことが仮想世界にアリスを連れ去る動機をあいまいにしている。いっそのこと現実世界では2人の間には関係など無く、ジャックの一方的な執着や嫉妬心によって、アリスが自分の人生から切り離され、ジャックの信じる世界に連れ去られてしまったという方が、物語がブレなかったんじゃないかという気がする。
2人が元々恋人であったせいで、最終的に「愛する人との生活か、自己実現か」という別のテーマがチラついてしまうのが、正直ノイズだと思う。女性にそんな二者択一を迫ること自体、時代錯誤だろう。


それと、本当の黒幕がシェリーというアジア系の女性であるかのような描写にも引っかかってしまった。これに関しては、「シェリーなりの夫に対する反乱」「あの仮想空間全体で、女性たちの反乱が始まった」と解釈している人もいるみたいで、確かに好意的に見るとそう取れなくもないけど、すこし強引な気がする。また作中には、アリスより先に仮想空間に気づいてしまい、心を病んだ末に自ら命を絶ってしまったマーガレット(キキ・レイン)という黒人女性もいた。マイノリティとされる存在を意図なく黒幕としたり、マイノリティの死を物語を推進するために使用したりするのは問題がある。「ホワイトフェミニズム(白人女性のためだけのフェミニズム)から脱却できていない」と言われても、仕方がないかなと思う。


この作品、1975年の『ステップフォード・ワイフ』という映画を基にしているらしい。
なんだかモヤモヤしたままだったけど、オリヴィア・ワイルド監督(『ブックスマート』好きだよ!)やピュー様たちの心意気に少しでも近づきたいので、次はそれを見てみます。


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