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平野勝之 還暦ヤケクソ企画『RANDONNEUR IN 60』写真集ひとりアナログファンディング インタビュー(2024.4.25)ハマジムにて聞き手:岩淵弘樹



ー今回の企画を思い立った理由を教えてください?

平野「やりたいことは山のようにあるんだけども、基本的にはいい紙を使った印刷のちゃんとした写真集を新たな旅で作りたい。あと、60歳っていうのは大きいね」


ーこの企画はいつ思いついたんでしょうか?

平野「去年、そういえば来年還暦だよなーと思って、なにかやりたいなと思った時に以前から気になってたこれが出てきて。でまあ、写真の実績はあるんで、確実だろうなと。いいものは作れる自信があるから」

ー僕みたいな素人からすると、なんで300万もかかるんだと思ったんですが

平野「そこにいるカンパニー松尾と試算してみたのよ。内訳はざっくり言うと、まず写真集の印刷費や紙代やデザイナー代、まだ決まってないけど部数など、もろもろ込みで150万弱くらい。今まで小冊子やZINEなど作ったけど、写真のクオリティにはまったく納得できてなくて悔しい思いをしてるんで、そのあたりはお金をかけたいんですよね、可能な限り印刷と良い紙使って。
あと60万は2ヶ月間の旅の実行費と準備費、自転車だって5年オーバーホールしてないから整備にお金かかるし、キャンプ道具など、もう10年20年選手で古くなってるものばかりなので新たに買い足すものも多い、テントだって5年前にシカに蹴破られたまんまなんで(笑)
テントなど全体的には値上がりしてるしね。
あと、機材も2019年にカメラが落下して、お金がなくてオーバーホールも出してないの。修理代もライカって高いんですよ、レンズ何本かと合わせて修理代だけで推定10万~20万近くかかっちゃう。自転車も60日行こうとするとオーバーホールしなきゃで5万~10万円

ーフィルム代や現像代もかかるんでしょうか?

平野「2ヶ月行くとなると、単純計算で100本ぐらいは使うことになる。2019年の時はね、一か月で60本撮ったんだけど、いつも使ってるフィルムが当時は1本1,900円だったんですよ、でも、いまは5,700円ですよ!それより安いポジフィルムでも、いまだと2,800円~3500円ぐらいするんです。狂ったような値上がりをしてるのが現状で、単純計算で30万から50万。
さらに現像代で、データ代無しにしても最低10万円。
Tシャツだって作るし、ほら、簡単に250~300万ぐらいはかかっちゃうでしょ?」

ーその300万円っていう金額の設定は達成出来そうでしょうか?

平野「かなり難しいと思うね。絶対いいものができる自信はあるだけに悔しい。さてどうしよう?っていうのをいま考えてる最中。何かいい手はないかって。何もしないって事はないと思うけど」





ーちょっと厳しい質問になりますが、現状の平野さんの生活の中から300万円を捻出することは出来なかったんでしょうか?

平野「それは当然考えてた事です。できてればとっくにやっている。自分の状況がほんとに厳しいんですよ。だって長い間本当に生活ギリギリどころかマイナスぐらいな感じで身動き取れない事態が続いてる。ほとんど「パーフェクトディズ」な毎日です。貯金したいんだけどできない状態。500円貯金をね、一生懸命やってるんだけど…貯まらないですよ、まさか自転車やカメラ類を売るわけにもいかないし、すでにいろんなものを手放して売ってるけど、とても追いつかない。普段撮影しているフィルムも、なかなか現像出せなくて数十本が2年ぐらい冷蔵庫で放置状態というありさまです。やりたいことはたくさんあるのに・・・」

と、ここで平野の盟友であり、今回のクラウドファンディングの協力者・カンパニー松尾が登場。

松尾「例えば、写真集にこだわったとして、もっとライトにさ、例えば今時の若いモデルがキャンプする写真集じゃダメなの?」

平野「それ、また別の企画になっちゃうんじゃ?(笑)キャンプブームの時だったら、もしかしたら出版社も乗るかもしれないけど、今はどうだろう?商業ベースでやるってことですよね?このクラファンではそうじゃないものを作りたい」

ーそういう商業から離れてるから、平野さんの現状もあるわけですよね。平野さんは”商業”についてどう考えてるんでしょうか?

平野「必要だな、とは常々思ってます。ただ、自分が良いと思うものは商業的なものと一致しない事が非常に多くて(笑)悩みの種です、ただ、依頼があれば自分ができる事なら何でもやりますよ。例えばお姉ちゃん連れて行って、こういうのを撮ってくれって言われたらさ、例えば、不幸なハメになって、いまだお蔵になってる「青春100キロ」が、まさにそうですし。
撮影4日前に依頼されてもやったんだから(笑)
写真に関してはデジタルの機材ないのでできないから致命的だけど(笑)もしもフィルムで良いんなら、そういう記事は書ける。ただ、そんな依頼はこないからさ、いまどきフィルムでいいなんてとこ、通常は無いですよ。
依頼がくればさ、考えて色々やるだろうし、多分できますよと。その前に営業しに行くっていう、この営業嫌いな人間がですね、難しいかなっていう」

ー今まで売れるってことは考えたことあるんですか?

平野「‥‥‥ない(笑)興味ないんだろうね、お金儲けに関して全く。だからこんなになっちゃってる。困ったことに。
それはたぶん子供の頃から同じだね、勉強できないやらない。やりたい気持ちはあるんだけど、興味持てないとまったくできなくなってしまう。
昔は勉強、今は商業的な金儲けが大の苦手、飛びぬけて得意なのは図工だけで、それでお金儲けできてればいいけど、お金に大きく変換する姑息な技ができないまま生きてきてしまった。保護する人なりタッグ組める人がいればいいけど、昔のAV制作会社以降はそれもなくなって、行き場が無い、能力を発揮する場が無い状態が長く続いている」






ーXに投稿されてましたが、これが最後のクラウドファンディングなんでしょうか?

平野「うーーん・・わかりません(笑)できればこれを最後にしたい願望はある、次はちょっと違う方向に行きたい。今回はとにかく早く旅して早く作りたいって動機だからね。
今まで2回は成功してるわけですけど、嬉しい反面、かなり心労も激しいんで。だから60歳を機に自分が信じる残すべきものはしっかり残しておきたい、旅や写真は変わらず続けますけどね」



ー平野さんは自転車のことやカメラについてマニアックなこだわりがあって、そのマニアックな視点から見て面白い写真集にはなると思うんですが、自分のような一般人でも楽しめる内容になりそうでしょうか?

平野「なりそうどころか、むしろそういうものを作りたくてクラファンしてるようなもんだから。マニアックな機材系やこだわったモノ系は以前に本出してるし・・・今回はそうじゃないものを作りたい、写真に力入れてるんで、時々眺めては、どこか遠くに行きたくなるとか、妄想しちゃうみたいな息の長い本を作りたいんです。一般人が楽しめると言っても、綺麗なおねーさんが出てきてウケそうな、とか、そういうものとは違うと思いますが(笑)」




ー映画監督の平野さんに期待している人たちは、平野さんの体当たりというか、人生をかけた壮大な人体実験を見たいと思うんですが

平野「行く前のこの時間が過酷なので。これが一番俺にとっては酷い目に遭うことなんでね、(笑)集まらなかった場合」

松尾「確かに失敗したら恥ずかしいことだから。そこは躊躇も迷いもあると思います。
ただ、俺が提案したのは、ダメなら諦めなきゃいけないけど、どうせやるならきっちりやれる高い金額を設定した方がいいと思った。それを実現するための苦しみと怒りを、支援を集めてる期間に表現してくれたら、もしかしたら300万円いくんじゃないかと思うんだよね」

平野「でも何をやればいいか、自分じゃ思いつかないんだよね」

松尾「例えば100万集まったら100キロ走る。150万とかで150キロ走るとか、とにかく応援が集まれば集まるほど苦しまなきゃいけないとか、何かそういうことでしか表せないものもあると思うので。
ただパソコンの前に座ってお願いしてても絶対良くないと思う。そういう気合いというか、やけくそを力に変えてほしい、300万達成するまで断食するとか。なんか生死をかけてやってほしい。」

平野「断食やれと」(笑)




ー話は変わるんですが、いまの60歳ってなに考えてるんですかね?

松尾「早くやり過ごしたいって感じなんですが、中途半端なんですよ。あと10年、15年、20年先の設定をしなきゃいけないじゃないですか。だけど全然いいことなさそう」

平野「いまの世の中を見てると、そうだよね。じゃあせめて60の時に、動ける時に何かやっておきたい。70じゃできないだろうから」

ー僕なんかはやっぱり平野さんとか松尾さんが60歳を迎えて、自分がその歳になった時にどうなるかっていうモデルケースとして見ているわけです。
50過ぎて老眼もキツくなってカメラ回せるのかなとか。いつ引退するかは考えてるんですか?

平野「だから結局そういった理由もあって、これをやろうとしてるんだよね。今動けるうちに、とりあえず残しておきたいものは残そうっていうね。適当に生きてるわけだけど、仕事してて思うのは、疲れやすくなったね。すごくそれはあるよね
俺ここまで自転車で来てるんだけど、毎回家に戻るとさ、やっぱ一回昼寝しちゃうからね。たかがこのぐらいの距離でさ、片道7キロくらいか。
でも、去年標高2700メートル登った時は、きついし遅いけど行けたね、やっぱ、ああいう中にいると調子がいいのかね、体はね」

ーいつぶっ倒れてもおかしくないわけですね

平野「そうだね、わからないんですよ。だからね、60歳還暦だから、ちょっと何とかならないかっていう、お金無いって問題だけですからね、そういう自分勝手でわがままな企画なんですけど」

松尾「平野さんが企画の説明文に怒りがあるって書いてるんですけど、これを説明してもらっていいですか?」

平野「こんな事態になってる自分に対する怒りってのが一番大きいんじゃないですか?世間に対しても多少はあるけど、そこを怒ったってしょうがない。自分の金で何とかしろよって話じゃないですか?こんな60を迎えてる情けない自分に対して怒ってますよって話だから、でも、その分ちゃんと自分ができる、今できる能力の最大の結果を出してお返しします、っていう話ですね」



ーこれまでの人生の中でこうしときゃよかったっていうタイミングはあったんでしょうか?

「山のようにあるよ。今まで大きなチャンスを2,3回は逃してるからね。
ハタチの頃に、まず一番最初は漫画ですよ。17歳の時にヤングマガジンの新人賞にいきなり入選して、編集者がわざわざ浜松まで会いに来てくれて、その後も、もう一回ヤングマガジンでちばてつや賞の佳作に入選して大友克洋担当の編集者が付いたり・・でも映画の方に興味が集中してて、8ミリをやりだしてたんですよ。賞金で映画も作ったし」

ー他には?

「最近だと『監督失格』です。あの後に映画の企画がいくつかあったけど、うまくいかなかった。最初の段階で俺が折れちゃうんですよ。例えば脚本書こうと思ってわからなくなったり。パワーが出てこないっていうのか、どうすりゃいいかなって考えてるうちに時間が何年も経っちゃうみたいなね。良くない癖なんですよ。バカって言われたもん。甘木さん(監督失格のプロデューサー)に「お前バカじゃないの?」って。そりゃそうだよなと思って一言も言い返せなかったです。もったいないって自分でも思ってるし、他の人にも言われるし・・そういう自分に対する怒りとやるせなさはあるね」

ー平野さんは経歴や人柄、底知れないパワーも含め、奇妙な生き物ですよね。だからいつくたばるかわかんないといつも思ってます。

「作る事以外の商売だったり生活設計などは、ほぼガン無視して生きてきたって感じで、人生とっくに詰んでるし、いつ死ぬかわからないってのはあります。今だってね、ちょっと何かあったらおしまいですよ。
みんなが生かしてくれてるみたいな感覚はあります。」



ー今後のことはどう考えてるんでしょうか?

「俺の漫画とか時々見せるじゃん。日記みたいなどうでもいいやつ、写真なんかよりあっちの方がウケがいいんですよ。やんなっちゃうよね(笑)
だから今回のクラウドファンディングがちゃんとできたらね、もうちょっと、自分ができる事と人々の接点があるものを追っていきたいです。しばらく籠ってた感覚があるので、やっぱ意識を外に向けたいよね、60歳以降は。もちろん映画作りだって諦めてはいません。例えば比べるには恐れ多すぎるけど「バリーリンドン」作ってマニアックすぎたのを「シャイニング」で少し広がりを持たせようとしたキューブリックみたいに」




―そんなわけで今回のクラウドファンディングに対しての思いを平野さんに直接伺いました。
まだまだ支援は始まったばかりです。賛同いただける方、是非ご支援ください。
よろしくお願いいたします。

構成、まとめ:カンパニー松尾

※クラファン支援の詳しい事はこちらの記事から。


https://note.com/hirano320cinema/n/n1159962112f4