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「銀河自転車の夜2019」初号試写直後座談会 平野勝之×カンパニー松尾 インタビュアー岩淵弘樹 2019年12月25日

2019年12月25日、平野勝之監督より『銀河自転車の夜2019』の編集が終わったとの報せを受け、プロデューサーのカンパニー松尾さんと共に平野さんの自宅へ向かった。襖にポスターを裏返して貼り、その簡易的なスクリーンに向かって平野さん自身が操作する8mmのプロジェクターから光が投射される、手作りの初号試写がはじまった。モノクロ、サイレントの画面には平野映画お決まりの自転車での山下りや長大な山道のロングショットが映される。スクリーンの中の平野さんは終始曇った表情をしており、広大な自然と一人の人間との対比が際立っているように思えた。50歳を過ぎた映画監督が8mmカメラ一つで北海道を進む個人映画。もがき続ける男の小さな背中がしっかりと映っていた。
本作は人力クラウドファンディングで集まった支援金を元に作られた。失恋し、彼女との往復書簡のために用意した8mmフィルムには、一人で自転車を漕ぎ続ける男の姿が刻印された。これから上映会を通して、支援者へのリターンが送られる。ということで初号試写を終えたばかりの平野勝之&カンパニー松尾インタビューをお送りします。

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ークラウドファンディングの反響はどうでしたか?

平野「支援者の人が支援をしてくれて、俺のGメールに名前が入ってくるんだけど、コメントを付けてる人が結構多くて、それが泣かせるんだよ。AVから映画から自転車から写真から、色んな分野から応援してますって言われて、それがグッときた」

松尾「あと、支援者の人が「自分が出来ないから平野さんに」って書いてる人もいたね」

平野「そうそう」

ー世代としては?

平野「色々だね、若い人も多くて。女の人も多いね」

松尾「反響は自分たちの予想以上で」

平野「全く予想してなかったね」

松尾「最初の設定は30万いけばいいねって言ってたけど」

ー旅の費用ってことですよね?

平野「そうそう」

ー旅のプランも金額に応じて変わっていったと

平野「最悪は富士山とか、近場で済ませようと思ってたけど。ゴール以上のゴールになっちゃった」

ーどうして支援金が多く集まったと思いますか?

平野「さあ・・?ヤケクソだったから?わかんないけど」

松尾「やっぱり平野さんは映画の人として認識されたってことだと思いますよ」

平野「新作の要望が一番多かったかな。とにかく見たいって」

松尾「AVの世界だけじゃなくて、『監督失格』が一般作としてシネコンでやったので、色んな人が見ちゃった。本来は触れない人も見ちゃった。ちゃんと見ててくれる人が、意外と言っちゃ失礼なんだけど、俺らの予想より多かった」

平野「うん」

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松尾「普段は平野さんもTwitterでマニアックなことを呟いてるけど、感情の赴くままに書いてるから(笑)だからTwitterで集めることに不安視もしてたけど、予想外だった」

ー平野さんはTwitterで夜中から朝までマニアックなカメラの話を延々と書いていたりしてますからね

平野「ツイ廃の時多いから(笑)たぶんカメラオタクからも距離置かれてたり、どこに行っても行き場がないんだろうな(笑)」

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松尾「8mmのオタクっているの?」

平野「極少数でね。いますよ」

松尾「その人達も今回のファウンディングは知ってる?」

平野「たぶん知ってると思うけどファンディングに課金してくれた人は知ってる限りでは一人ぐらいかな?でも、声かけると協力はしてくれますね。編集機借りたのも本当のオタクだし(笑)」


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ー支援者の方は8mmのファンが8mmの新作を見たいのではなく、平野勝之の新作が見たいのが一番なんですよね?

平野「そんな感じの感触はあるね。今回はたまたまきっかけが8mmなんで。14本のフィルムが残されたっていう話だから、30年ぶりに8mmもいいんじゃないかな?って。やるんだったら昔取った杵柄で真面目にやろうと」

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ー彼女にフラれたことが原因で作りはじめることになったわけですが、周りで同情する人はいたんですか?

平野「同情っていうか、いつものことなので、またかって呆れられることが多いよね。また騒ぎはじめたってね(笑)」

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ーでは、カメラを持って旅に出発して、道中はどうだったんでしょうか?

平野「一人だから、やることが山のようにあって、8mmがメインなんだけどいつ壊れるかわからないご老体のカメラでさ、回しはじめたらゴギョゴギョゴギョって音が鳴って大丈夫かよ!って(笑)その上で写真撮ってさ、俺の場合はガラケーだけどアップ用の写真撮って、Twitterで実況中継して、走ってテント建ててさ、いつものことっちゃいつものことだけど、昔より多少体力落ちてるのもあるけど、いろいろゆとりなかった」

ー何日目くらいから苦しくなってきたんですか?

平野「何日目・・ってわけでもないけど、のんびりする時はのんびりしてたんでそれは良かったんだけど、いったん撮影をはじめると、ただ撮りゃあいいってものじゃないから、次の展開も考えながらってこともあるし・・『白』や『UNDER COVER JAPAN』みたいなものですよ、一人だしね、対象がいないしんどさはあるね」

ー撮りながら次の展開を自分で考えて、の繰り返しだったんですね。内容は本編を見ていただくとして、手応えはどうだったんですか?

平野「手応えは…わからん・・今回は初の試みに挑戦って方が大きいかな。サイレント映画でやるって意地を見せるみたいな。8mmが昔みたいに同時録音できるフィルムがない。音を入れるとしたら大ごとになる、シンクロ入れて。それでもズレるかもしれない」

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ーだったらミニマムな環境で撮ると

平野「例えば今はミュージックビデオの効果として8mmを入れるとかは使われてるけど、潔くないじゃん。サイレントはサイレントで今の状況を見せてやろうと、うん」


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ーで、10月2日に旅から戻ってきまして、どう進めたんでしょうか?

平野「まずは現像だよね。いつもやってる現像所にお願いしたらモノクロリバーサルに関しては厳しい状況だったので、現像の経験のあるプロに手作業でお願いして。1日に1本やるのが限度だって言ってたね」

ーじゃあ現像だけで1ヶ月くらいかかったんでしょうか?

平野「そうだね、2、3週間かかったと思う、全部上がったのが。それから追撮のことをずっと考えてて。一回素材を全部見てみたけど、これじゃあなあって。何か一つ欲しいなと思ってね」

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ーちなみに『監督失格』も追撮シーンがありましたが

平野「編集しながら考えてたんだけど、あれも出てこないわけですよ。みんなにいじめられて(笑)」

松尾「ダメ出しされて、追い込まれたよね」

平野「『監督失格』は粗つなぎしたものを庵野さんのカラーでやって、それは庵野さんにケチョンケチョンにされて」

松尾「今の完成版とは全然違うんだよね」

平野「2回目の試写でも、悪くないけど何か足りないよねって。3回目で松尾くんに来てもらったり、全然知らない女子大生に見てもらったり、なかなか出来なかったよね」

ーどうして終われないんでしょうか?

平野「やっぱり自分で納得できない、自分が許せない、面白くない。これじゃあなって。そこで時間切れでアウトってこともあるんだけど」

松尾「時間ギリギリまで粘るのは、いつもそうかもしれないよね」


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ー編集と並行して、リターン用の写真集作りはどうでしたか?

松尾「俺が突っついたよね、12月末までに物を作らなきゃいけないので、逆算すると11月には動き出さなきゃいけなくて」

平野「写真の方が難しかった」

松尾「今回は写真の方が多いんだよね、平野さんが小冊子を作りたいっていうのが最初からあったから。それに取っ掛かるのが遅くなったね」

平野「原稿書きの仕事があったりしてね」

松尾「それで2、3週は遅れたかもしれないね。それから11月末から12月にかけてエンジンかけてフルで働いてもらって。最後は追い込みましたね」

ーリターン用の写真集ですか?

松尾「そう。ページ数だったり判型だったり、それも平野さんの世界だから。デザイナーさんとそこはカッコつけようって話してて」

平野「結果、パンフレットになっちゃったね。写真集寄りにはしたかったんだけど、写真集としてはちょっと厳しい。パンフですね、パンフ」

ーリターンは、映画の上映、写真集、手ぬぐいの三点セットですか?

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平野「そうだね、手ぬぐいは楽しいな。これは単純にいい」

ー松尾さんがプロデューサーとして大変だったことは?

松尾「グッズの進行が遅れそうになったから、平野さんに電話で言ったかな。大したことではないけどね。結果、ギリギリ間に合わせてくれたので。平野さんが頑張ってくれて」

ーでは、作業は全部終わったのでしょうか?

松尾「上映会のタイムスケジュールをこれから組むくらいかな。平野さんってファンサービスがしっかりしてるから。そういう時間も取ってね」

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ーこのプロジェクトを通して、平野さん自身はどんな変化があったでしょうか?

平野「変化っていうのはまだ感じられないけど、もうちょっとしっかりしようとかね(笑)後は色んなモヤモヤが行動力になって、一つの区切りというか、形になったのが良かったですよ。それが今は一番。映画に関しては『青春100キロ』から3年ぶりなんで。平野印が刻印されてる」

松尾「俺は制作のクラウドファンディングって怖くて、AV女優さんのクラウドファンディングに片足突っ込んでみたりしてさ、物を作る上で、今回は違うんだけど、出来上がるかどうかわからないものに金をくれって言うのはしんどいなって思ってて。半々の気持ちだったのね。でも今回は平野さんの手元にフィルムが残されたってことを成仏させたいってことじゃないですか。それでやってみたら、形に残せるくらいのものが出来たのは、嬉しいよね」

ーリターンを返すイベントはどういったものになりそうですか?

松尾「単純に新作の上映とトーク」

平野「あとリターンのお渡し会。どうしても来れなかった人は、DVDを送ってありがとうございましたって感じだよね」


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ーでは…今回のきっかけとなった女性とはその後どうなったんですか?復縁とか

平野「ないない。あるわけないでしょ?笑 相変わらず何事もなかったように、その事には触れずダンマリでふるまってるみたいだし、すごい不誠実っていうか、予想した通りの反応だよ。そこで意表をつく行動するほど面白い人物じゃないよ、そういう奴、彼女に限らずいっぱいいますよ。
メールの事務的なやり取りが最後だったかな?そういえば、最近、友達でもなんでも、その人の直接の字を見た事ない場合多いよね、そういう時代なんだろうけど」

松尾「確かに俺も女の子の字を見ることがないな」

平野「この子は幾らでも文字を書く機会があったわけ」

松尾「先に帰りますって置き手紙とかね」

平野「そういうの何一つなかった。メールはマメにくれる奴だったけどね、スマホ依存だったから。実を言うと、険悪になってから、メールでやり取りしてて彼女の言い分を一回受け入れたんですよ。これからは私情抜きでお手伝いの関係でいいよと(笑)それで俺の家に来てやってもらうことがあったんですよ」

松尾「うん」

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平野「ちょうど俺が京都に2、3日行くことがあって、ちょうどいいから、その間に部屋に入って作業してくれと彼女に伝えて・・・鍵を預けてたような関係だったからね。その時にすごい気を使ったんですよ、すげー暑かったからさ、エアコンはここにありますよ、三脚はここにありますよ、冷蔵庫の中におやつを用意して、ご飯も用意して、一つ一つに注意書きも書いといたんですよ、めちゃ忙しくてやる事いっぱいあったんだけど、ほとんど徹夜で作業して、笑」

松尾「キモい(笑)」

平野「味噌汁とご飯が好きな奴だったから、京都の準備してる中、わざわざ作って用意してさ。暑いから汗びしょびしょになってるだろうから、シャワー浴びていいよって、タオルと着替えまで用意して(笑)ここにあるから使いなさいって書いて」

松尾「平野ママ(笑)」

平野「オレは彼女になった女性に関しては、この部屋に来た場合、すごい甲斐甲斐しく働くんですよ(笑)朝起きたらおいしいコーヒーを淹れたり」

松尾「うふふ」

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平野「それで彼女が来るから色んなこと用意してました。俺は京都に行ってたから。そしたら何のメールもないの。作業終わりましたって連絡もないの。それ非常識じゃん?人んちの鍵預かって作業してんだよ、しかも自分から手伝いたいって言ってさ、それを無視されたからたまったもんじゃない。
だからこっちからメールしてさ、戸締りしましたか?とか、クーラー消しましたか?とか、怒った感じではなくてね。その返事は慌てて来たんでホッとしたんだけど、それで戻ったらさ、一言くらい手書きの文字でごちそうさまくらいありそうなもんでしょ?一言もないんだよ。おやつから何から用意してたのにそのまんまになってて、、しかも来たって気配がほとんど無くてさ・・ゾッとしたよ。それって怖いでしょ?その感覚はわからないですね。ほんと、気持ち悪いって真面目に思いましたよ。そういうとこに人格は出ますからね、そこからですね、いったん受け入れたものの、ひどく悲しい気持ちになって耐えられなくなったのは(ため息)」

松尾「がははは!」

平野「その出来事を思い出して、後に元カノに聞いてみたらね、好きな人には自然に自分の手書きでお手紙とか書きたくなるものですよって言われて・・・・・彼女に一回万年筆を見せられた事があるから、たぶん他では字を書く事があると思うんだよ、でも彼氏と付き合いながら俺と付き合ってたから、もしかしたらオレに対しては無意識の内に文字は書かなかったのかもしれない。エッチはしても文字は残さない」


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ー平野さんは心が通っていると思ってたんですか?

平野「正確には心が通いつつあるところで、俺が失敗こいて、むこうが嫌になっちゃったんじゃないの?少しづつだったけど通っている感じはありましたよ」

松尾「うふふ」

平野「だからショックが一層デカかった。そういう世代だから逆に8mmみたいな物理的なものに惹かれるんじゃないのかな?完全なスマホ女だったから」

ー今はそれが当たり前ですもんね

平野「今回の映画は、実はこの出来事が大きく影響していて、この映画の中心部になってるかな?フラれたとか、男女のそういう問題ではなく気付いた事があったので・・小さい個人的な事から大きな現象を発見していく、みたいな。
真逆に思われるだろうけど、実は2019年を描いてます。まずは見ていただいていろいろ考えてほしいですよね」

銀自告知

皆様、今年はありがとうございました!

来年、2020年1月に新作「銀河自転車の夜2019」お披露目です!

皆様にお会いできるの楽しみにしております!

それでは良いお年を!

てぬぐい006