アキャーさん!!

やると言っておきながら,やらずにいたコナンの話です。

https://youtu.be/59qM7uU-apI

まず,最初の「アキャーさん。どえりゃーときが,きてまったみたいだわ」(赤井さん,とんでもないときが,きてしまったみたいだ)というセリフから。

冒頭の「アキャーさん」(赤井さん)で,こりゃかん!と思ったところもありますが,まぁ良いです。尾張方言では,日本語(標準語)の-ai(ae)-にあたる母音連続は,2つの母音が融合して,æ(の長母音)という発音になります(英語の appleの最初の母音の発音)。尾張方言の場合,これは,仮名で「ャ」で書かれる音 Cja( Cは任意の子音)とは区別される音なので,ここで「アキャーさん」とされると,それは違うんじゃないかと思います。ただ,今回は,この点についてはこれ以上触れません。「ャ」で書いているけど,気持ちは「æ」なんだと,取っておきます。

ちなみに,「〜さん」にあたる表現は,尾張方言では多く「〜さ」です。

で,「どえりゃー時が来てまったみたいだわ」です。ここでは,まず発音面で2つ。1つは,「が」の発音です。尾張方言では,ガ行音が鼻濁音で出るところもあります。ただ,これは結構地域差と個人差もあるようです。だから,その指摘だけしておきます。

次に「〜みたい」です。これ,「赤井さん」の時に母音融合して「アキャーさん」になったことを思うと,この「〜みたい」の最後のところも,母音融合して欲しいところです。ただ,仮名では表せないから,そのままにしたのかもしれませんが,今回の表記に合わせて書くとするなら「みたゃー」( mitjaa),私が書くなら「みたぇー」とか「みてぁー」とかでしょうか(mitææ)。

実は,ai(ae) → æという母音融合は,いつでも起こるわけではなくて, 融合前の aと iという母音が,複合語の境界(+)を跨いでいる時には起きません。例えば「mana+ita」(まな板)とか。これを「まなぇーた」とは言わないんですね(ただ,この場合「まな」って,それだけで使う?っていう問題も残りますが,それはまた別に考える必要があるかと思います)。この「複合語の境界(+)を跨いでいる時に母音融合が起こらない」というのは,人名とかの場合にも当てはまるようで「坂泉」(←坂+泉)なんて人名は「さきゃーずみ」とか「さかぇーずみ」とかにはならないようです。

冒頭の「赤井」も「赤+井」と出来そうですが,これは母音融合が起こるんだそうです(母語話者に確認しました)。後ろの要素の長さとかが関係してそうな気がします。これは要調査です。

で,次に「きてまった」。アクセントが少し違うかな,と思うのですが,まぁ許容範囲かもしれません(エセ尾張弁(名古屋弁)とは言われないかも)。「きて」が高低(HL)じゃなくて,低高(LH)で,全体としては「き[て]まった」([ は音の高さ(ピッチ)が上がり,] はピッチが下がることを表します)と言うかな,と(ちょっと自信ない。ネイティブに確認するか,文献で確認しないと)。

で,次の赤井さんのセリフ「わかったて」は,まぁ良いとして,次。

「ひきゃーわせてまったらあかん,どえりゃーふぁみりーがあつまってまったとき,せきゃーおうごかすみすてりーが,まくおあけてまうがね」(引き合わせてしまったらいけない,とんでもないファミリーが集まってしまったとき,世界を動かすミステリーが幕を開けてしまう!)。

「引き合わせ〜」は「ひきゃーわせて」になるかならないかは自信ないですが,これもならんと思います。「引き+合わせ」で,複合語の境界を跨いでいるし,i+aの融合例(a+iじゃない)についての他の例を知りません。

次に注目したいのは「あつまってまった」と「あけてまう」です。どちらも,大まかには標準語の「〜してしまう」(あるいは「〜してしまった」)の意味を表す「〜まう」という形式を使っていて,先の「きてまった」にも出てきました。このうち「あけてまう」のアクセントは,私的(尾張方言若年層話者的)には完全にアウトです。今のままの発音だと「開けてもらう」になると思います。

尾張方言の「〜てまう」には,標準語の「〜してしまう」にあたるものと,もう1つ,標準語の「〜してもらう」にあたるものとがあります。これらは,アクセントで区別されていて,大まかに言えば,前者は「ピッチの下り目がある」,後者は「ピッチの下り目がない」です。「あけてまう」で言えば,「あ[け]てまう(がね)」と「あ[けてまう(]がね)」です。ここでは,「ま[く]お あ[けてまう]がね」と言っています。これは,だめやないかな。「あつまってまったとき」もちょっと変で,(「あつ[まって]まっ[たと]き」って言ってるように聞こえますが)母語話者としては「あつ[まっ]てまっ]たと]き」かな,と思います。

で,多くの人が気付いたであろう「エセ尾張弁(名古屋弁)ポイント」は,「みゃーたんてい」(名探偵)と「だんぎゃん」(弾丸)でしょうね。まず,これらは「おみゃー」(お前)とか「〜だぎゃー」(文末表現)とかが尾張弁の典型例としてよく出てくるので,標準語の「ま」に「みゃ」が対応したり,標準語の「が」に「ぎゃ」が対応したりするいうのが,「思い込み」としてあったのだと思うんです。そして,また,「みゃーたんてい」の場合は,標準語っていうか,各地で「お前」を「おめー」っていうのに対して,尾張方言では「お前」を「おみゃー」と言うので,ここで「めー」対「みゃー」という(思い込みの)対立が生じて,それが「名探偵」の「めー」にまで及んだ,ということなんじゃないかなぁと思います。確かなことは分かりませんので,精査は必要でしょうが。

最後,「飛ばしたるがね,でら遠くまで」ですが,「飛ばしたる」は,尾張方言だとサ行イ音便を起こして「とばぇーたる」となるかと思います(要確認)。


「要確認」としたところもあるので,今後の調査などで,もしかしたら,私の指摘したところでも「間違い」となるところもあるかもしれません。でも,こういうの考えるのは,面白いですね。40秒少々の動画ですが,色々と考えることができました。