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秋の空時計


2XXX年10月30日 AM 8時。

日本上空に突如として巨大な時計が現れた。

即座に政府からの緊急通達が全国に届く。

「今年も『秋の空時計』が出現しました。従って、本日は秋休暇となります」

数十年前、初めて『秋の空時計』が出現してから、 "秋" は、突然にやってくる「12時間」を指す言葉となった。

空時計が現れたと同時に、気温は一気に10度近く下がり、木々は一斉に紅葉し、キノコが育ち、果物は実をつける。

食欲の秋、芸術の秋、読書の秋。

人々はそれぞれの "秋" を楽しむため、全力を尽くす。

当然のことながら、道路は大渋滞、電話回線はパンク寸前、スーパーの食品売り場もすっからかんである。

今年も大混乱の中、12時間が経過。

空時計は消滅し、"秋" は終了する。

「趣も何もあったもんじゃない。やっぱり家でのんびり過ごすのが一番だわ」

「去年も同じ事言ってなかった?」

「そうかしら。ん、あれ?」

「おお」

暗い空から舞い散る雪が、長い冬の到来を告げていた。


                 (410字)
            お題「秋の空時計」

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