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ワタナベアニさんと②(フリー時代篇)

こっそりnoteを始め、ワタナベさんの事を書いていたのですが、とうとうワタナベさんにバレてしまったので、続きを書くしかないと思いペンを取りました。実際にはキーボードですが。

ワタナベさんとパリに行って、その後すぐライトパブリシティを辞めたことは前回の①で書きました。

会社を辞めたあと、ワタナベさんと私は「NINJA FILMS」という屋号で、一緒に部屋を借りました。渋谷の明治通りあたりです。ワタナベさんと私は面倒くさいことが嫌いなので、不動産屋に紹介された一軒目の物件で決めました。探すとか、比べるとか、費用対効果とか、そんなのが面倒くさいんです。楽だったら損しても良いんです。

NINJA FILMSが出来てからすぐは、ワタナベさんと私で同じ仕事をすることもありましたが、割と早い段階で私の仕事も軌道に乗り始め、同じ部屋で別々の仕事をする様になりました。それでも、夜になると近所にあったスカイラークガーデンズというファミレスに行って、いろんな話をしました。宇宙の果てがどうなっているのかの話をした時は、脳がおかしくなるかと思いました。そういう割と禅問答みたいな話をよくしました。

私の『aramaki』という短編映画が、2010年のベルリン国際映画祭に決まりました。音楽の渡邊さん始め、スタッフの何人かでベルリンに行きました。映画祭の最初から最後まで2週間ぐらいいたんじゃないかと思います。ベルリンに行く話はワタナベさんにも話していて、「気をつけて〜」みたいな感じで見送られたかと思います。

ベルリンでは私の作品が上映される時は劇場に行って舞台挨拶をし、それ以外の時間は他の作品を見たり、ブラブラしてました。その、ブラブラしていた時に、後ろから聞いたことのある声で「ういっす」と聞こえました。そこにはワタナベさんがいました。「なんて人だ!」と思いました。驚かすために、コッソリ情報を集めて、コッソリ来たとのことでした。

ベルリンではワタナベさんに、「正直しんどい」みたいな話をした気がします。本当に心から目指していた映画祭で作品が上映されることはとても誇らしい事だったのですが、私はそこで「金熊賞」を狙ってしまったからです。経験不足から来るおごりだったと今では思いますが、その時は金熊賞を取って、日本でアッと言わせてやろうと思い、本当にナーバスになり、ピリピリしてました。そんな姿をワタナベさんに見せるのも初めてだったかもしれません。

ワタナベさんには『aramaki』の直後に作った短編映画の『Shikasha』という作品のエンドクレジットの写真もお願いして、カンヌ映画祭にも一緒に行きました。同じ年に北野武監督の『アウトレイジ』が選ばれていて、北野監督がレッドカーペットを歩く瞬間も見ました。思わず「キタノーっ!」と叫んだのを覚えています。

私が会社を辞めて、ワタナベさんと一緒にNINJA FILMSを作って今に至る間に、ワタナベさんには革命が起きています。激変と言ってもいいかもしれません。事件とすら言える気がします。雷に打たれ、あ、もう例えはいいですね。

この記事の本題はここです。

元々のワタナベさんは、いかに楽をして、いかに効率的に、いかに高い結果を手に入れるか、を考えている人でした。

富士山の山頂が理想の場所のメタファーだとして、どうやってそこに行くか?という話をした時に、「山頂まで行けるエレベーターをひたすら探す。エレベーターが無かったらヘリコプターで行く。」と言っていました。アリとキリギリスでいうところの、完全にキリギリス派でした。事実、割と効率よく高いギャラを稼いでいましたので、すごく説得力があったんです。

そんなワタナベさんが、本格的に写真を始めるようになった途端、嫌悪感すら抱いていたであろう「アリ」になったんです。もちろんアートディレクターをやっていたワタナベさんは、普通の人よりもいい写真を撮れるのですが、人生をかけて写真を再開したように見えました。

すごく驚いたのが、ワタナベさんよりも随分と年下の写真家の方が審査員をやっているコンクールみたいなのに参加していたことです。アートディレクターとしては大御所のカメラマンとも対等に仕事をしているのにです。ある程度キャリアを積んでしまうと、プライドもあるので「恥をかく場」に行くことはなかなか行けないと思うのですが、若手の素人同然のカメラマン志望の人たちに混ざって参加していて、本当に驚きました。「そういうのが全然無理なんじゃなかったでしたっけ?」とも思いました。

それ以来、本当にずっとアリなんです。加藤の乱での谷垣さんの「加藤先生は大将なんだから!」ばりに「もう偉そうにしていいんじゃないですか!」と言ってもキリギリスには戻りません。ワタナベさんは「まだまだ丁稚なんで」みたいな事をよく言いますが、一気に追いついて、もう十分に先頭集団にいる気がします。

そう言えば、なんでアリになったのか、まだ聞いてなかった様な気が。


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