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映画祭日記(2006年ニッポン・コネクション)

※当時書いた日記をそのまま転載しています。

1日目

2006年4月19日、ドイツのフランクフルトで開催されるNIPPON CONNECITIONに、openArtのプログラムとして招待され、飛行機に乗った。12時間も飛行機に乗るという事で、読む本を買い込んだり、iPodの60Gのヤツを買ったりしていた。iPodには2500曲分の音楽データと、お笑い番組の映像データも入れた。空港に着き、まずはドイツで使える携帯電話のレンタルをした。直前まで仕事があり、帰国直後から仕事が再開されるため、その間、何かあった場合に緊急にかかってくる事になっている。

飛行機はJAL407便に乗った。真ん中の列の通路側の席で、隣に客がいないという、そこそこイイ感じの状態になった。気合いを入れて、本を読もうと思うのだが、眠くてダメだった。仕方がないので、機内でやっていた「SAYURI」を見てみた。今村昌平の「ニッポン昆虫記」を思い出した。なんだかんだしていたら、フランクフルトについてしまった。

おそるおそる到着ゲートから出てみたら、同じ便に乗っていたNIPPON CONNECTIONに来た人たちが集まっていたので一安心。挨拶もそこそこにバスに乗り込み、そのまま映画祭の会場へ。会場はゲーテ大学というところ。ゲストとスタッフ専用の部屋に案内され、一緒に来た日本からの監督さん達と、ぎこちなく話をしたりした。しばらくそこにいた後、クルマに乗って、夕食でドイツ料理の店に連れて行かれた。そこでは想像を超える量の、肉とジャガイモが出てきた。しかも、ジャガイモだけでも数種類の料理がある。肉もジャガイモもビールも美味いのだが、そんなに食べれなかった。2年ぐらい前なら、残った肉とジャガイモを一人で食べられた可能性はあるのだが、最近はそんなに食べられないので、渋々残した。

しばらくビールを飲んだりして話をしてからホテルに入った。ホテルはインターシティホテルという目の前に駅があるホテルだった。NIPPON CONNECTIONのスポンサーにインターシティホテルが入っていたので、そうだろうなあとは思っていた。ベッドが二つあったので、片方は散らかす場所にした。インターネットは電話回線でダイヤルアップなので、死ぬほど遅い。海外ロケとかでもよくダイヤルアップで繋ぐのだが、外線の「0」を入れてからローミングの市内局番をいれなければならない。よく外線を「0-」で繋ごうとしてしまうのだが、そうすると繋がらない事が多い、経験的に「00,」で繋ぐと、必ず繋がる事を知っていたので、今回もその方法でやったら繋がった。

2日目

朝9時に集合して、ハイデルベルク観光。電車に乗っていった。ヨーロッパの中央駅は終着駅で、ドーム型の屋根だったりしてすごく旅心をくすぐられる。今まで、駅自体はいった事はあったのだが、乗るのは初めてだったので良かった。まあ、乗ってしまえば日本と大して変わりはなかったのだが、一等席があり、個室で長旅をしたら楽しいだろうなあと思った。ハイデルベルクに着き、路面電車に乗ってお城などがある観光地へ行った。ハイデルベルクは古い町並みがあり、のんびりしていい所だった。昼飯はドイツ料理屋に。またもや、ビールに肉にジャガイモ。ワンパターンなのだが、ビールに良く合うので美味い。昨日の教訓を生かし、少なめに頼んだのだが、やっぱり多かった。

ハイデルベルク観光を終え、いったんホテルに戻ってから、夜、大学で映画祭の歓迎レセプションというのがあった。日本からのゲストや関係者が集まり、酒を飲んで、いろいろ話をした。話を聞くとみんないろんな形で来ている。監督だけじゃなくて、プロデューサーやキュレーターみたいな人たちもいっぱいいた。日本から50人ぐらい来ていると言っていた。ビックリしたのは、NIPPON CONNECTIONだけじゃなくて、この後も、ヨーロッパの映画祭をハシゴする監督達がいっぱいいる事だった。しかも、一人で。それも女性が多い。映画祭が終わったすぐに次の映画祭に行くらしい。本当にたくましい人たちだなあと思った。自分にはそこまでするガッツが無い。今回もすべてお膳立てして頂いたため来る事が出来た。もっとこう、肉食な感じでグイグイ行きたいものだが、全然そういう性格じゃなく、苔に足が生えたぐらいな感じだから、グイグイ系の人がすごく羨ましい。

その後、場所を市内のバーみたいな場所に移し、またビールを飲む。ほとんど12時間ぐらいビールを飲み続けている感じだ。映画祭には日本人のゲストをアテンドしてくれるドイツ在住の日本人の人たちや、ドイツ人の人たちもいっぱい集まっている。日本から来ている人たちも、みんないろんな事情でドイツに来ているようだった。ドイツ人でも日本語を話せる人もいるが、ほとんどの人が英語を話す。でも、ネイティブの英語じゃないので、すごく聞き取りやすかった。カタコトの英語で通じるのが逆に良かった。

3日目

昼頃集合し、現代美術館に行った。パンクっぽい感じの特集をやっていた。しばらく展示を見てから、外に出て昼ご飯。ドイツ料理屋に入って、ビールとウインナーとジャガイモ。相変わらずワンパターンではあるのだが、ここでもなかなか美味かった。この辺でやっと気がついたのだが、ドイツ料理がワンパターンなのではなくて、自分たちがワンパターンなメニューを頼んでいるだけだった。そしてまたビールをひたすら飲んだ。

夕方、映画祭に行き、映画を一本見た。会場は満席で大盛況な感じだった。観客の9割以上がドイツ人だと思うのだが、みんな細かいところで爆笑している。とにかく笑うために見に来たという感じだ。それと会場全体が優しい感じで映画を見ている気がした。以前、釜山の短編映画祭に行った時もそうだったのだが、みんな本当に映画が好きで、すごく映画祭を楽しんでいる感じ。もし、日本でドイツ映画祭が開かれたら、日本人はそんなに笑わないと思う。やっぱり国民性もあるんだろう。

今回、空港で映画祭のプログラムと、食券とドリンク券を山のようにもらった。ドリンク券一枚でビールが一本買える。ビールはすべて瓶で、食券で買う時も瓶のデポジット用に0.5ユーロ預けなければならない。飲み終わり、瓶を返すと0.5ユーロ返してくれる。いかにもリサイクルが進んでるドイツだなあと思った。ドイツビールばかり飲んでいたのだが、キリンの一番搾りもあったので飲んでみたら、同じぐらい美味かった。まあ、とにかくビールが美味い国なんだなあと思った。

映画の上映を見た後、もらったドリンク券で何本かビールを買い、監督達とホテルの部屋に戻ってのんびりして、いろいろ話をした。今回、境遇はそれぞれ違うのだが、映像作品を作って海外の映画祭に出品し、海外の人たちにも見てもらいたいという、同じ様な志を持った人たちといろんな話をする事が出来たのがすごく良かった。自分の周りにはそういう事をしている人はほとんどいないので、いろんな情報も入ってきたし、刺激にもなった。普段、作品を作って世界で勝負するという感覚はあんまり無く、とりあえず作ってみるか、で、出来たから出してみるか、みたいな場当たり的な感じでやっているのだが、いろいろ話をしているうちに、自分ももっと上の場というか、もっとすごい世界の映画祭で上映されたいと思うようになった。しかも、そこでウケたら最高だろうなあと思う。

4日目

9時に集合し、フランクフルト市内のノミの市に行った。ゴミみたいなモノを売っている店も多く、どこまでが商品で、どこまでがゴミで、どこまでが公共の施設なのかわからない程だった。ドイツに来てから買い物らしい買い物をしていなかったので、気になるモノがあったら即買いすることにした。買った物はほとんど置物系。買いすぎて肩が凝った。変なクマの置物を買ったら、この日本人これ買うらしいぞ、みたいな事を言われ、爆笑された。さらに、その店のオッサンが、前の店のおばさんを呼んできて、同じ様な事をおばさんに言い、おばさんには、こんなの買うのか、お前の顔を見せてくれ、みたいな事を言われ爆笑された。お金を払って行こうとしたら、もう一度おばさんに顔を見せてくれと言われ、もう一度爆笑された。たかだが4ユーロの置物なのに。

昼ぐらいに映画祭の会場に行き、日本からのゲストとドイツ人の関係者全員で記念撮影。ドイツ人のカメラマンの演出が入り、全員下を向かされ、123で顔を上げて笑顔、みたいな事もやった。大してその演出に効果があるとは思えないのだが、そのドイツ人のカメラマンは得意げだった。その後、近くのレストランに行ってお食事会。そのレストランには小さな映画館があり、そこでまた全員で記念撮影したあと、一人ずつでも撮影された。そこそこ良さそうなレストランで、最初にジャガイモのスープなんかが出てきたので、ちょっとしたコース料理が出てくるかと思いきや、チキンカレーが出てきて拍子抜けだった。デザートのマスカルポーネはかなり美味かった。そういえば、ドイツに来て甘いモノを食べたのは初めてだった。

夕方、映画祭の会場に戻り、少し時間をつぶしてから今回のドイツのクライマックスである、自分の作品プログラムの上映が18時からある。なんかソワソワするなあと思って控え室に入った。18時が近づくに連れて、両手から体温が無くなり、死んだように冷たくなっている。水を飲もうとコップを掴むとかすかにブルブル震えている。うわー、これじゃあ、マイクを持つ手がブルブルだなあ、と思いながら会場に行ってみた。

上映時間が近づくに連れて観客も入り、ほぼ満員になった。スクリーンの前に呼ばれ、挨拶をした。今日は見に来て頂いてありがとうございます、途中、飽きても出て行かないで下さいね、的な事を言って挨拶を終えたら、映画祭のディレクターの人に、え?それだけ?みたいに言われたのだが、強引に終えた。ホッとして席に着いたのだが、すぐに作品の上映。心臓が1分間に200回打つ程のペースでドキドキしている。

最初の作品は「HELMUT」。釜山では冒頭のシーンからかなりウケたので、そこそこウケると読んでいたのだが、軽い笑いが続いた。オチになりやっとちゃんと笑ってくれた感じ。その頃、だいぶドキドキも収まり、普通に見れるようになった。次の上映は「PENIS」。映像で笑いを取るつもりではなく、話の方で興味を引こうとしている作品なのだが、映像だけで笑いが起きていた。まあいいか、なんでもウケればいいや、と開き直った。次は「COCKROACH」。元々、完成度の高い作品ではないし、話もわかりづらいので、反応もそんなになかった。次は「DORON」。今年の1月に作った最新作なのだが思いのほかウケた。そこは笑って欲しいけど、わかんないだろうなあ、日本でもそこはウケてないし、と思ったところで笑いが起きちょっとうれしかった。下ネタでは確実に受けるし、コンスタントに笑いが起きていた。「DORON」は日本人にウケたいがために作った作品だったのだが、作り終わった時に、これは日本人にはウケないかもしれないと思い、ヨーロッパならぎこちない部分も良い風に解釈してくれて、ウケるんじゃないかと思っていたので、予想通りの反応で安心した。その次は「CONVERSATION WITH NATURE」。これも話自体は笑えるものではないのだが、細かい部分で笑っていた。次は「VS」。「VS」はホラー映画のつもりで作ったモノだったのだが、あらためて見てみると、どう見てもホラー映画のパロディにしか見えない。だからか、ところどころでクスクスと笑っている人がいた。最後は「TEXTISM」。このプログラムは自分が順番を組んだのではないのだが、これしか無いという程、絶妙な順番で組まれているのに感心した。「TEXTISM」は完全に笑える作品では無いので、最後までほとんど笑いは起きなかった。笑いが起きたらどうしようかと思ったが大丈夫だった。

上映が終わり、拍手をもらい、スクリーンの前に行った。そこから質疑応答の時間。何人かが手を挙げて質問をしてきた。その中の一人に何度も手を挙げて長い質問をしてくるおじさんがいた。これはアメリカの現代アートの批判をしているのか?とか、影響を受けた映画はあるのか?あるいは、映画から影響は受けているのか?とか、割と突っ込んだ質問をしてきた。考えた事も無いような質問だったので、どうしようかと思ったが、いざとなると、口からでまかせというか、それなりに答える事は出来た。「映画ではなく、むしろグラフィックデザインの影響を受けています。」とか「声をコンピュータの声にしたのは、無機的な音にしたかったからです。」とか「結果としてアメリカの現代アートの批判になったのかもしれません。」とか、よくもまあ、と自分でも思いながら答えた。

普段やっているCMの仕事では、口からでまかせを言う事もあり、その場をしのいでいる経験がよくあるので、その経験が生きた瞬間だった。そのおじさんは直接話したかったらしく、「Can you speak English?」と聞いてきたので、「No thank you.」と答えた。あれ?変な英語じゃねえか?と思ったが、取り返しがつかない。しかも観客の前で。こうやって恥をかいて大きくなるんだよ。と自分をなぐさめた。でも、それほど興味を持って見てくれていると思うとすごくうれしかった。そのおじさんとは記念に写真を撮ってみた。ポストカードをもらったので、帰国後調べてみたら、現代美術の作家の人だった。

何とか、質疑応答も終え、上映プログラムが終わり、会場の外に出たところで、一人のドイツ人が話しかけてきた。どうやら作品集のDVDを売ってくれという事だった。クレジットカードで払えるか?と、いきなり具体的に聞いてきた。そこで高い値段をふっかける度胸などもなく、個人で見るんですか?と聞いたところ、そうだったので、「Present for you」と言って、名前と住所を紙に書いてもらった。

そして、大学の外に出て、ビールを飲み、「ああ、やっと終わったー!」とかなりホッとした。その後、22時からアニメーション特集を見たりした後、0時から会場の一つがクラブみたいになっていたので、そこに行ってみた。DJが来ていて、何やら盛り上がっていた。映像も流れていたので、見てみると、自分の作った「HELMUT」がサンプリングされ、逆回転や早回し、繰り返しなどの加工をされて流れていた。その会場で、見知らぬドイツ人に「お前はニューヨークに住む俺の友人にそっくりだから写真を撮らせてくれ。」と言われ、写真を撮られた。何やらみんな酔っぱらっている。地下鉄も無くなったので、2時頃、20分ぐらい歩いてホテルに帰った。

5日目

日本に帰る日なのだが、夜21時の便なので丸々一日ある。初めて一人でフランクフルトの町を散歩してみた。日曜日という事もあり、人も少なく店もやっていない。中央駅の店はやっていたので、シーフードのサンドイッチみたいなのを食べてみた。アジをカルパッチョみたいな味に漬け、タマネギとピクルスが入っている。肉ばかり食べていたので、試しに食べてみたのだが、ドイツに来て一番じゃないかと言えるほど美味かった。調子に乗って、もう一つシーフードのサンドイッチを食べた。もう一つは、コハダの酢漬けのでかいヤツみたいなのが、パンに挟まれて、タマネギが入っている。これも美味かった。

午後、ぴあフィルムフェスティバルの特集などを見た。さすがにいろんな賞をもらっている作品たちで、しっかりしている。自主制作で長編を作っているという時点で、すごいと思ってしまう。そうこうしているうちに夕方になったので、空港へ向かった。帰りの便はすごくすいていて、3人がけの席の肘掛けを上げ、エコノミー式フルフラットシートで帰ってきた。離陸してすぐに寝てしまい、起きたら9時間が過ぎていた。もう、機内の明かりもついていて、着陸直前の軽い軽食の準備をしていた。退屈する事もなく、なんだか得した気分になった。

今回のNIPPON CONNECTIONの旅はすごく良かった。いろんな人と知り合う事が出来て、刺激をもらう事が出来たし、自分のほぼすべての作品の反応を直接見る事が出来た。じゃあ、これからどうする?という自分自身への問いかけみたいなものも出来た。自分たちが上映した会場は100人ぐらいの会場で、普段、劇場では見られないような作品をやっている。もう一方は400人ぐらい入る会場で、長編のメジャー作品をやっている。日本映画の現状の縮図のような映画祭だと思った。だから、自分の立ち位置もよくわかる。自分のマイナーな上映プログラムでも、大勢の人に見てもらえたのだが、向こうの会場でやっている「電車男」では、入りきらない観客が立ち見している。自分が、本当は何をしたくて、どういう風になりたくて、どういうスタンスで作品作りをしていくのかをちゃんと考えないと、この先やるべき事が決められないなあと思わされる旅だった。今回、openArtのプログラムという事で行かせてもらい、本当に良かった。もっといい作品を作って、恩返ししないとなあとも思った。

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