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映画祭の準備は大変

去年の末から、『SHELL and JOINT』の映画祭に向けての準備と、劇場公開に向けての準備の両方を進めています。同じ一つの映画に関する事なのですが、同じ様でかなり違う準備なんです。

配給会社にお金を払ってお願いすれば、大したことではないのかも知れませんが、インディペンデントの我々はすべてを家内制手工業でやる訳です。

今回は、映画祭が決まった時に何をしなければならないか書いてみます。「映画祭に行ってきました!」とか「受賞しました!」みたいなのは割と目にすることがあると思いますが、裏側で何が行われているのかは、割と表になってない気がしますので、海外の映画祭に出したいと思っている人のためにも、私が伝えるべきなんじゃないかと、使命感を感じましてw。

今回は『SHELL and JOINT』がどういう過程でロッテルダム、ヨーテボリ、スラムダンスに決まり、上映までにどんな準備をしたのか書いてみます。

『SHELL and JOINT』は、エントリーフォームから素直にエントリーして決まったのではなく、私が初めての長編映画を作ったという話を聞いた映画祭の方からコンタクトがありました。「裏口入学じゃないか!」と思われるかも知れませんが、短編映画で築いてきた実績によってそういう事が起こりました。だから、短編映画とは言え発表し続けることは本当に大事です。

とはいえ、そのまま何の審査も無く決まるのではなく、スクリーナーと言ってウェブ上で観れるvimeoのリンクをパスワードと共に送るんです。実は映画祭側からオファーがあって、スクリーナーを送っても落とされる事はたくさんあります。今回は幸運にも上映が決まりました。

上映が決まると、上映用素材を作らなければなりません。短編映画の場合、若い制作者が多いこともあるのか、ProRes422HQのムービーデータを送ったり、ブルーレイを送って、それが上映用素材になることも多いのですが、長編の大きな映画祭ではDCP縛りだったりします。DCPは今でこそ価格がだいぶ下がりましたが、2時間の映画をDCPにするのには、それなりにお金がかかります。だから、長編映画を海外の大きな映画祭にエントリーする時には、DCP代も頭に入れておく必要があります。

幸いにも、本当に大きな映画祭だったら、ユニジャパンが字幕制作費などを含めて助成してくれる可能性があるので、チェックしておくと良いと思います。

私たちはモスクワ国際映画祭の時にDCPを作ってあったので、そのデータをロッテルダムにも送りました。

そして、いろんなマテリアルを送るように言われ、必要なリストが送られてきます。必ず求められるのが、監督の写真、映画の場面写真、ポスターです。私の監督写真はカメラマンの永井さんに撮ってもらったものを、最近は使わせてもらっています。着ているのは勝俣さんからもらったカンヌのTシャツで、ちょっとしたゲン担ぎをしています。顔の修正はしていないので、そのままオジサンです。おい。

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映画の場面写真は、1枚だけで良い時もありますが、ロッテルダムからは複数枚の写真を求められたので、10枚の写真を送りました。印刷にも耐えられるように、2048✗1080のデータを書き出して送りました。映画祭はその中からその作品を象徴していると思われる1枚を選び、メインビジュアルとして使います。でも、私の邪推ではありますが、出来るだけチケットが売れると思われる1枚を選んでいる気がしています。チケットが売れ、席が埋まる事は、映画祭にとっても制作者にとっても嬉しいことですから。

そして、ポスターです。だいたいA2〜A0ぐらいのサイズ指定があります。ポスターの印刷は以前に比べて格段に安くなりました。A0でもオンデマンドだったら1枚5000円もしません。ロッテルダムにはA2とA0のポスターを3枚ずつ持っていきました。持って行ったというのは、一番先にロッテルダム入りした石井さんチームが、手持ちで飛行機で持って行ったという事です。1月頭までに送れと言われましたが、間に合わなかったからです。

そして、アクレディテーションという映画祭公式のパスをもらう手続きがあります。よく映画監督なんかが首から下げているあのパスです。映画祭に行く前に、ネット経由で自分の役職などのプロフィールと顔写真を送るんです。それで映画祭事務局に行くともうパスは完成されていて、受け取ることが出来るんです。このアクレディテーションがあると、自分の作品以外を場合によっては無料で見ることが出来たり、一般の方が入れないゾーンに入ることが出来るんです。あるいは、映画祭主催のパーティなんかに入る時も必要です。

そして、日本からロッテルダムに誰が何人参加するのかの確認も事前にあります。アムステルダムに到着する飛行機のフライトナンバー、アムステルダムから出る時のフライトナンバーなんかも伝えます。映画祭の方でそれを見て、車両を出してくれることもあります。今回のロッテルダムでは環境に配慮して、各自鉄道で来て下さいと言われました。こういうのも時代を反映するんですね。

今回のロッテルダムでは、日本から計12人が行くので、その取りまとめをした勝俣さんはなかなか大変そうでした。「エグゼクティブプロデューサー」ですけどねw。

上映が決まる前段階から、上映が決まってから映画祭での上映まで、映画祭側とは何度もメールのやり取りがあります。すべて英語のメールです。私は英会話はまだまだ全然なのですが、英語のメールは割と出来ます。超シンプルに伝えたいことを伝えます。もうちょっと気の利いたことを書きたいなあと思うのですが、映画祭のメールも超シンプルなので、余計なことは書かない方が良いのかもなとも思います。

ヨーテボリ映画祭とスラムダンス映画祭も基本的には準備は同じです。今回は3つの映画祭が重なったので、3つの映画祭のやり取りは大変でした。誰がどの映画祭の担当者だっけ?と混乱することもよくありました。さらに、映画祭期間中にインタビューしたいというメールもいくつか来ます。ロッテルダムだけじゃなく、ヨーテボリもスラムダンスも、それらのやり取りを勝俣さんがやっていたので、まあかなり大変だったと思います。大変だった、と言いますか、ロッテルダムにいる今でもやり取りは続いています。

ちなみにヨーテボリ映画祭はどうやって決まったかと言いますと、『SHELL and JOINT』がロッテルダム国際映画祭で上映されるという公式発表を見て連絡が来ました。段取りとしてはロッテルダムと同じく、スクリーナーを送り、選考を通って決まりました。

ヨーテボリだけじゃなく、ロッテルダムで『SHELL and JOINT』知って連絡をして来た映画祭がいくつもありました。ロッテルダム国際映画祭は映画の目利きとしての大きな役割も果たしているんでしょうね。

さらにスラムダンス映画祭はどうやって決まったかと言うと、これはFilmFreewayという映画祭エントリーサイトから普通に応募しているんです。だから裏口入学ではありませんw。スラムダンス映画祭はそのことにこだわりがある様で、どんなに有名な俳優が出ていようと、どんなに有名な監督が作っていようと、コネで上映が決まることはないと、わざわざ書いています。有名な監督にもFilmFreewayからエントリーする様に伝えるとの事です。そういうフェアな状況でエントリーされた8000本以上の作品から選ばれたのはすごく嬉しいですし、『SHELL and JOINT』みたいな、ちょっと変態的な映画をコンペの11本によく選んでくれたなとも思いました。

映画祭に決まる事は本当に喜ばしいことなのですが、決まった瞬間に「ああ、また大変なやり取りが始まるぞ。」とも思います。でも、そんな事なんか簡単に吹っ飛ぶぐらいの経験が出来るのが、海外の映画祭でもあります。

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