見出し画像

海外映画祭に応募する方法

最近はスマホでも映画が撮れるようになり、映画を簡単に完成させられるようになりました。そして、YouTubeやVimeoなどを使って、自由に発表も出来るようになりました。でも、映画祭に応募する方法が分からない人が多いと思われます。

日本にもたくさんの映画祭がありますが、日本の映画祭の場合は、応募要項も日本語で書いてあるので、しっかり読めば大体分かるかと思います。分からなかったら日本語で電話なりメールで問い合わせればいいのです。

でも、特に海外の映画祭に応募するにはどうしたらいいのか分からない人が多いと思われます。

私は20年近く前から独学で海外の映画祭に応募してきたので、海外映画祭の応募のエキスパートと自負しています。海外映画祭に「選ばれる」エキスパートではありませんよ。「応募する」エキスパートです。私は短編映画に特化して応募してきましたが、長編映画にも当てはまる部分は多いと思います。

「プレミア」というルール

まず、国際映画祭には「プレミア」というルールがあります。ワールドプレミアは世界初公開、インターナショナルプレミアは自国以外での初公開になります。そのプレミアを持っていないと選考の対象にならない映画祭があるんです。映画祭は自分たちの映画祭で新しい才能を発掘したいので、他の映画祭で上映された作品ではなく、自分たちの映画祭で一番最初に上映したいんです。

カンヌ、ベルリン、ベネチア、ロカルノなどの世界トップクラスの映画祭では、ワールドプレミアである必要があります。応募要項にはインターナショナルプレミアでもいいと書いてありますが、ワールドプレミアが好ましいとわざわざ書いてあったりもします。そして現実問題として、ワールドプレミアでなければ選ばれないと思っていた方がいいです。

このプレミアは本当に大事で、せっかくカンヌ映画祭に応募したのに、その前に聞いたことの無い小さな映画祭で上映されてしまった場合、どんなに作品が良くてもカンヌ映画祭に選ばれることはありません。

そして、プレミアというのは映画祭だけではなく、テレビ放送劇場公開Web公開も含まれます。せっかくベルリン映画祭に応募しているのに、その前に自分のYouTubeで公開してしまっていたら、ベルリン映画祭に選ばれる資格を失います。悲しいですね。

そして、私はこのプレミアに毎回悩まされています。トップクラスの映画祭に絞って勝負を賭けたい時、5月のカンヌ、8月のロカルノ、9月のベネチア、2月のベルリンまで、ワールドプレミアを保持し続けなければならないからです。

もちろん、カンヌ映画祭からではなく、自分が選ばれたい映画祭から始めれば良いんです。例えば、2月のベルリン映画祭から始めてもいいんです。そして、そのうちのいずれかの映画祭に選ばれれば大成功なんですが、そうそう上手くは行きません。ワールドプレミアにこだわったばっかりに、ほぼ一年間、他の映画祭に応募が出来なくなってしまうんです。

最初の一年はトップクラスの映画祭の応募にこだわって、ダメだったら次の一年間かけて別の映画祭に応募すればいいと思うかも知れませんが、多くの映画祭は、作品の完成後の一年間しか応募出来ないルールがあったりするんです。賞味期限みたいなものですね。緩い映画祭になると、賞味期限が二年になったり三年になったりしていきます。

一年間応募してどこにも選ばれなかったなら、いつ作ったかバレないんじゃないかと思いますが、国際映画祭はかなり有機的に繋がっていて、情報は共有されていたりします。複数の映画祭の作品選定を兼ねている人もいます。

あるいは、ちょっとだけ編集を変えるとか、エンディングを変えるとかして、新作ロンダリングしても構わないと思いますが、私の経験上、ロンダリングした作品が良い結果を出した事はありません。

アメリカの映画祭はプレミアにこだわらない傾向

一方で、アメリカの映画祭はワールドプレミアにこだわらない傾向があります。アメリカには本当に無数の映画祭があり、私の感覚としてはアカデミー賞がアメリカ人にとっての最高の映画賞だと思います。ダイレクトに映画産業での成功と繋がっているからかと思います。なので、アメリカの映画監督は、アカデミー賞公認の映画祭を狙います。

アカデミー賞公認の映画祭でグランプリ相当の賞を取ると、アカデミー賞の予備選考の対象になるんです。オリンピックで言う標準記録突破、みたいなものでしょうか。そこからいくつもの選考を経てファイナリストになり、最終的にアカデミー賞を受賞するのです。アカデミー賞の狙い方は、ヨーロッパを中心とした映画祭の応募の仕方とはちょっと違うので、今回は書きません。

アカデミー賞公認の映画祭は、Academy Award QualifyingとかOscar Qualifying Festivalなどと書いてあります。アカデミー賞の公式サイトに行くと、どの映画祭のどの賞を取ればいいのかが分かる一覧があります。

ちなみに、日本で開催されているショートショートフィルムフェスティバル&アジアは、アカデミー賞公認映画祭なので、アカデミー賞を狙いたかったら、ガチで狙うべき映画祭でもあります。特にジャパン部門での最優秀作品でもアカデミー賞の予備選考の対象になりますから、本当に日本人監督にとっての抜け道とすら言っていいほどの映画祭だと思います。

応募要項には何が書いてあるのか?

海外の映画祭の応募要項を見ると、ビッシリと英語でいろんな事が書いてありますが、いくつかのポイントだけ押さえておけば、大きな間違いはしません。

「プレミアが必要かどうか」これは冒頭に書いた、ワールドプレミアやインターナショナルプレミアが必要かどうかです。さらに、ヨーロッパプレミア、アジアプレミア、北米プレミアなどと、地域がどんどん狭くなっていきます。さらにニューヨークプレミアみたいな州単位のプレミアを確認されることもあります。プレミアが必要ない場合も、必要ないと書いてあります。

「締切」締切は長編映画と短編映画では別だったりもしますので気をつけてください。そして、毎年微妙に変わりますので、最新の情報をチェックしてください。コロナ禍になってから、映画祭の開催時期も大きく変わっていますので、最新の情報は大事です。

「応募料」映画祭の中には無料の映画祭もありますが、短編映画の場合は、だいたい日本円にして2000円〜1万円ぐらいが多いです。長編の方が高いですね。そして、一度選ばれたことのある映画祭は半額してくれたり、無料にしてくれる事もあります。

「上映用素材の形式」国際映画祭は思っている以上に上映用素材の形式にシビアです。大きな映画祭では多くの場合DCPが求められます。DCPはパソコンベースで書き出せるようになってきましたが、データチェックが出来ません。なので、DCPの書き出しは業者に頼むのが安全だと思われます。数年前は10分の作品の書き出しで100万円みたいな事もありましたが、今ではだいぶ安くなっています。一方で短編映画はProRes422HQでの上映でも大丈夫な映画祭も多いです。短編映画はお金の無い若者が作っている事が多いので、無理矢理DCPにさせなくてもいい配慮なんだと思います。DCPにしてもProRes422HQにしても、データサイズはそれなりに大きくなります。多くの映画祭ではUSBHDDに入れて、国際郵便で送る事が多いですが、最近では高速のサーバーを持っている映画祭もあり、その場合は100Gだろうが、ネットからアップロードします。もちろん、アップロードに数時間かかることもありますが。そして最近では、応募時に4Kで作った作品かどうかを聞かれることもあります。数年後には4Kであることが必要最低条件になる可能性もありますので、可能であれば、4Kで仕上げておくことをおすすめします。

「映画の長さ」映画の長さによって、短編部門なのか長編部門なのか決まってきます。多くの短編映画は15分以内だったり30分以内が条件だったりします。カンヌ映画祭の短編オフィシャルコンペ部門は15分以内と決まっているので、カンヌ映画祭を目指している場合、企画や脚本の段階から15分以内の作品として考えなければなりません。あるいは、ベルリン映画祭の短編部門は30分以内だったりします。例えば、カンヌとベルリンのどちらかに選ばれたい場合でも、15分以内の作品にしなければならないのです。一方、長編映画は60分以上という条件の映画祭が多いです。なので、65分の作品でも長編映画として応募できるのです。そして映画の長さにはちょっとした落とし穴がありまして、30分以上60分以内の作品は中編映画と言われるのですが、中編映画を受け入れていない映画祭が割と多いんです。だから渾身の45分の作品を作ったとしても、応募出来る映画祭が少ないのです。

特定のジャンルに特化した映画祭がある

映画祭の中には特定のジャンルに特化した映画祭があります。

アニメーション映画祭は、100%アニメーション作品に特化した映画祭で、世界中にものすごくたくさんの映画祭があります。アヌシーザグレブオタワ広島のアニメーション映画祭が世界四大アニメーション映画祭と言われていたりします。だから、アニメーション作品を作った時は、まず先にアニメーション映画祭へ応募することを考えるといいと思います。アニメーション作品は、大きな資本で作られた長編と、個人で作った短編と、両極端な作品が多いと思われます。ですが、アニメーション映画祭のすべてが短編作品を受け入れてますし、むしろ短編作品の方がステータスが上の映画祭もあります。その理由は極端な作家性を尊重しているからだと思います。

ドキュメンタリー映画祭は、文字通りドキュメンタリーに特化した映画祭です。ドキュメンタリーと言うと、少なくとも1時間以上の作品でなければならないイメージがありますが、15分の作品でも十分に応募出来ます。しかも、社会問題や環境問題を追った重厚な作品だけでなく、例えば自分の親や子供を追った作品でも応募出来ます。庭のダンゴムシを追った作品でも応募出来ます。そして手法も様々で、取材に取材を重ねた作品もあれば、アニメーションやグラフィックだけで構成されたドキュメンタリー作品もあります。

子供映画祭は、Children Film FestivalとかKids Film Festivalと書かれている映画祭です。子供たちのための映画祭ですね。子供に見せたい映画や、子供たちが作った映画、あるいは子供が主人公が上映される映画祭です。実はこの子供映画祭も世界中に大小たくさんあります。子供と言っても、0〜5歳向けの部門もあれば、高校生を対象にした部門もあります。小学校に上る前の未就学児を対象にした部門では、セリフが無い5分程度のアニメーション作品が多いですが、高校生を対象にした部門では、大人の鑑賞にすら十分に耐えられる作品があったりします。ですので、子供が主人公の作品を作った時に、子供映画祭に応募するという選択肢も考えておいても良いかもしれません。一方で、ベルリン国際映画祭の中にジェネレーション部門というのがありまして、これは映画祭の中の子供映画部門なんです。独立した映画祭ではないのですが、世界中の子供映画の関係者が注目する部門です。そしてこの部門はベルリン国際映画祭にも関わらず、厳しいプレミアの条件が無いので、他の映画祭で上映された作品でも応募可能なのです。

ファンタスティック映画祭は、ホラーやSF、ファンタジーに特化した映画祭になります。私はファンタスティック映画祭に参加したことはないのですが、他の映画祭に比べて熱狂を感じます。そういう作品を作った時には、ファンタスティック映画祭も応募の選択肢に入れるといいと思います。ファンタスティックと言いつつも、そんなにファンタスティックじゃなくても良かったりもします。例えば、UFOから宇宙人が降りてくる作品はファンタスティック映画祭の対象になるのは分かりやすいと思いますが、UFOの研究者を真面目に扱った映画もファンタスティック映画祭の対象になります。自分の作品が対象になるか分からなかったら、とりあえず応募してみるのがいいと思います。

そして、ジャンルといい方とはちょっと違いますが、短編映画祭というのも世界中に無数にあります。短編映画を作ったら短編映画祭を目指すのが、海外の映画祭で上映を果たす近道です。Short Film Festivalと書いてあります。多くは15分以内や30分以内の作品が対象です。

また、アジアン映画祭というのも世界中にあります。アジアン映画祭というのは、アジア人の監督が作った作品が対象になります。日本人の監督が作った作品ならアジアン映画祭の対象になる事が多いです。アジアン映画祭は日本人にとってはあまり馴染みが無い映画祭ですが、小さな映画祭も多いので、積極的に応募していけば上映される可能性も高いと思われます。Asian Film Festilvalと書いてあります。

その他、最近ではLGBTQに特化した映画祭も増えています。あるいは、女性の監督に限定したWoman Film Festivalというのも増えていますね。

特定のジャンルに特化した映画は世界中にたくさんあるので、自分が作った作品のテーマで検索してみると、案外ドンピシャな映画祭がある可能性があります。上記に書いた以外にも、実験映画環境映画に特化した映画祭もあります。例えば、に特化した映画祭もあります。自分が作った作品のテーマと映画祭のテーマが一致すれば、上映される可能性も高くなります。

英語字幕は必須

海外の映画祭に応募するには英語字幕は必須です。英語字幕が無い映画は応募出来ません。そして、英語字幕はものすごく大事です。Google翻訳で適当に翻訳した映画が選ばれることはありません。私は映画翻訳の専門家に頼むべきだと思っています。映画翻訳の専門家は、読みやすい文字数に翻訳してくれるため、観客がストレス無く読める字幕になります。小さな文字で画面の左右いっぱいに文字がある字幕は誰も読んでくれませんし、視線が付いていけません。私の経験から言いますと、デザイン的な見た目がいいからと言って、字幕を小さくし過ぎている作品を見かけることがありますが、自分が思っているよりも下品と思えるほどの大きさにした方がいいと思います。そして、日本語のニュアンスを正確に翻訳しようとすると、文字数が多くなってしまいますので、ある程度の割り切りは必要です。推敲に推敲を重ねた日本語のセリフかもしれませんが、バッサリとシンプルにする必要があります。余談ではありますが、そういう意味でも国際映画祭はセリフの妙で伝える作品よりも、しっかり映像文法を使って作られた作品が選ばれる傾向にあると思います。映像文法を使って作られた作品というのは、セリフに頼らなくてもストーリーや登場人物の感情が分かる作品という事です。絵コンテの絵だけ見れば分かる作品と言えば分かるでしょうか。

映画祭によっては、英語字幕を画面の中に焼き込まずに、別で欲しいと言われます。多くはSRTという形式の字幕のデータ素材になります。タイムコードと共に字幕のイン点とアウト点が書いてあるシンプルなデータです。SRTの作り方なんて全く未知だと思いますが、AdobeのPremiereを使えば作れます。Premiereで字幕を入れる時に、キャプションとして入れていきます。そうすれば、字幕を入れ終わった後にSRTとして書き出せます。たぶん、多くの人は何を言っているのか分からないと思いますので、編集に詳しい人にやってもらってください。

どこからどうやって応募する?

今では映画祭に応募するための専用サイトがたくさんあります。私が良く使っている映画祭応募サイトはFilmFreewayというサイトになります。

一度、自分の映画の情報を登録してしまえば、後は簡単に応募が可能です。英語サイトではありますが、簡単すぎるぐらい簡単です。応募する料金を調べて、払ってもいい金額だと思えたらポチッと押すだけです。FilmFreewayはアメリカ系の映画祭が多いですが、本当に無数の映画祭に応募することが可能です。

少し面倒なのが、シノプシス(あらすじ)を英語で書く必要があることでしょうか。Brief SynopsisあるいはShort Synopsisというのが、短いシノプシスになり、Long Synopsisというのが、長いシノプシスになります。この文章によって審査する人の第一印象が変わるので、しっかり作った方がいいです。出来れば、英語が分かる人に見てもらった方がいいです。

あとは、自分のプロフィールも英語で必要になります。Biographyというのがいわゆるプロフィールですね。何年に日本で生まれて、どこの学校を卒業して、仕事では何をやっている、みたいなものです。もう一つ、Filmographyというのがあって、これは作品歴になります。作品のタイトルと制作年、受賞歴などの事です。BiographyFilmographyは、FilmFreewayだけでなく、ほとんどの映画祭で必要になるので、英語で準備しておく必要があります。

何でもいいから海外の映画祭に選ばれたいんだとしたら、FilmFreewayに登録して片っ端から応募すれば、かなり高い確率で選ばれます。何なら賞も貰えます。特に第1回開催の映画祭オンライン映画祭は狙い目です。伝統と歴史が無く、応募が少ないからです。

一方で、カンヌ、ベルリン、ベネチア、ロカルノを始め、トップクラスの映画祭はFilmFreewayみたいな映画祭応募サイトからは応募出来ません。それぞれの映画祭が、それぞれの応募システムを作って映画を募集しているからです。FilmFreewayに慣れていると「うわ!メンドクサ!」と思いますが、一流への道は険しいのです。一つずつ応募していくしか無いのです。

FilmFreewayみたいなサイトは他にもいくつかあります。

スペインや南米などラテン系の映画祭が多く登録されているFesthome

https://festhome.com/

ヨーロッパ系の短編映画祭が多く登録されているshortfilmdepot

https://www.shortfilmdepot.com/

映画祭の応募で見かける英語

映画祭の応募でよく見かける英語を、いくつかリストアップしてみます。映画祭のサイトのどこに応募情報が書いてあるのかを探す時には、Submission・Submit・Entry・Call for Entryという言葉を探します。応募の締切はDeadlineとして書いてあります。たまにEarly Deadline・Regular Deadline・Late Deadlineなどと書いてある事があるのですが、早く応募すれば応募料金が早くなるというシステム上の締切になります。本当の締切はLate Deadlineになります。記事の冒頭でかいたワールドプレミアはWorld Premiere、インターナショナルプレミアはInternational Premiereと書いてあります。映画の長さはDurationLengthと書かれています。短編映画は、Short FilmShort Lengthと書いてあり、長編映画は多くの場合、Feature Filmと書いてあります。Long Filmと書いてあることはほぼありません。上映用フォーマットの事をScreening Formatと書かれていることが多いです。DCPProResなどのことですね。応募する時のフォーマットのことはPre-Screening Formatと書かれている事が多いです。ひと昔前は、DVDを送りつける事が多かったですが、今はH.264のデータを直接映画祭のサイトにアップロードしたり、Vimeoのリンクをパスワードと一緒に送る形式も多いです。撮影フォーマットの事をShooting Formatと言います。字幕のことをSubtitleと言います。英語字幕はEnglish Subtitleと言います。応募料はEntry Feeと書かれていることが多いです。そして、映画祭の応募でよく見かける英語としてProduction CountryCountry of Originというのがあるんですが、どこの国で作ったかを表す言葉になります。日本人が日本で作った場合、Japanになります。

いつ結果が分かる?

映画祭の結果は、少なくとも映画祭の開催の一ヶ月前までにはメールで送られてきます。一ヶ月前というのはギリギリとも言えます。映画祭は選んだ作品のカタログやウェブサイトを作る必要があるので、一ヶ月前での通知でもギリギリです。私の経験ですと、一ヶ月半から二ヶ月前ぐらいに選ばれたというメールが来ることが多いです。

一方で、落選の通知は、選ばれた作品が発表される日の前日だったりします。選ばれた作品の発表が映画祭の開催日の二週間ぐらい前だとすると、そのぐらいに落選の通知が来るのです。なので、まったく映画祭から結果のメールが来ない時は、落選している場合が多いです。それでも「この映画祭はギリギリまで選考がズレて、選考結果が出るのが遅れてるんじゃないだろうか?」と希望的観測を持って待つのですが、そんな事を思っている裏では、選ばれた監督たちはだいぶ前に連絡をもらい、上映用素材の準備をしているのです。映画祭の発表まで誰にも口外しないようにと言われて。

映画祭に選ばれたら何をする?

海外の映画祭に選ばれたらすごく嬉しいのですが、選ばれましたよというメールに大量の書類が添付されてきます。そこには、たくさんの素材の提出について書かれています。いちばん大事なのは上映用素材の提出です。上の方でも書きましたが、DCPなのかProRes422HQなのかなどの上映形式が細かく書かれています。さらに、データの冒頭に黒みが何秒、そしてカラーバーを付けてはいけないなどなど、本当に事細かく書かれています。あと、劇中の画面のキャプチャを何枚か提出しなければなりません。そのキャプチャの事は、Stillなどと書かれていたりします。その作品を象徴する数枚を選ぶ必要があります。提出した何枚かの中から映画祭側が選んで、カタログなどに使うんです。Still監督の写真も必ず求められます。慌てて適当な顔写真を送らないように、あらかじめ監督のプロフィール写真は用意しておくと良いでしょう。そして、ポスターを求められることもしばしばあります。映画祭の会場に貼るポスターですね。データで送ればいいと思ってしまいますが、印刷したポスターを国際郵便で送るように言ってくる映画祭もまだまだたくさんあります。映画祭に選ばれると、これらの素材をすぐに欲しいと言われます。短いと一週間以内に、多くは十日〜二週間ぐらいでしょうか。これらの作業は慎重にやっていると割と時間がかかるので、映画祭に選ばれる前から準備しておいた方が本当は良いですが、選ばれるかどうかも分からないと、なかなかそこまでやる気にはなりませんよね。でも、ポスターの印刷やDCPなどを外注する場合には、それなりに時間がかかりますから気を付けた方がいいです。私も毎回、選ばれてからバタバタと準備をして、滑り込みセーフを続けてきています。

映画祭での上映に関する素材の提出をすると共に、実際に映画祭に参加するかどうかも確認されます。参加というのは海外の場合は、飛行機で渡航してやってくるかどうかの確認です。多くの映画祭は監督に何泊分かの宿泊を補助してくれます。映画祭側がその宿泊を確保するためだったり、空港からの送迎の手配だったり、通訳が必要だったら通訳の手配をしなければならないので、かなりシビアに聞かれます。映画祭に決まってから、映画祭に参加するまでに、素材のやり取りや渡航のやり取りを含めて、映画祭側とは数十回ものメールのやりとりをします。もちろん、全て英語でのやりとりになります。

そして、いつも本当に悩ましいのは、渡航するスケジュールを決めて、飛行機ホテル予約をする事なんです。映画祭に選ばれたというメールが来た瞬間に、一ヶ月半後のスケジュールを決めなければならないからです。そして、自分の作品の上映スケジュールが決まるのは映画祭の開催の二週間ぐらい前だったりします。その時に飛行機とホテルを予約していたら間に合わないので、場合によっては勘で渡航日程を決めるしかないんです。さらに、一ヶ月半後だと国際便の飛行機が埋まってしまっていてなかなか取れないことも多いですし、ホテルも条件の悪いホテルしか残ってない事が多いんです。特に4月〜10月ぐらいに開催される映画祭は、映画祭とは関係なく旅行シーズン中に開催されるので、飛行機もホテルも取りにくいんです。

どの映画祭に応募すればいいのか?

実はこの「どこの映画祭に応募すればいいの?」が最も知りたい事だったりしますよね。私も映画祭の事はそこそこ知っていますが、例えばソムリエコンクールの、どの国のどのコンクールで賞を取れば価値があるのかは、全く分かりませんから。そして、それは絶対的なものでもありません。個人の考え方によっても変わりますし、時代によっても移り変わっていきます。とはいえ、日本人であり日本で活動している私が、海外の映画祭をどう捉えているかを参考までに書いてみます。

とりあえず、アカデミー賞というのは今回置いておきます。日本アカデミー賞もそうですが、アカデミー賞は映画祭ではなく、映画業界の中でどれが一番良かったかを決めるイベントですし、自主制作映画を勝手に応募する事など出来ませんので。

私は世界三大映画祭と呼ばれている、カンヌベルリンベネチアを常に目標にしています。それは私が日本に住んでいるからという理由も大きいかも知れません。なぜなら、日本ではこの3つの映画祭しかほとんどニュースにならないからです。ローザンヌ国際バレエコンクールや、ショパン国際ピアノコンクールで優勝や入賞するとニュースになるのと同じ事なのかも知れません。メディアの人にそういうルールみたいなものがあるのか、聞いてみたいぐらいです。ニュースになるからというのはミーハーな理由ですが、やっぱり世界最高峰の映画が集まっているのは事実です。教科書に載っているような映画監督がコンペ部門にいるのは、やはりこのカンヌベルリンベネチアの映画祭になります。

そして次に、ロカルノロッテルダムサン・セバスチャンあたりの映画祭も憧れの映画祭ではあります。でも、すでにこのクラスの映画祭の名前を言っても一般の人は知りません。この3つの映画祭も十分に大きな映画祭なのですが、カンヌベルリンベネチアはやはり飛び抜けた存在感があるんだと思います。

その次になるといっぱいあります。モスクワ釜山トロントサンダンスワルシャワカルロヴィ・ヴァリ香港上海あたりでしょうか。これらの映画祭でも十分に価値があり誇れる映画祭です。

たぶんここまで書いた映画祭が、これぞ国際映画祭という感じの映画祭なんだと思います。たぶん抜け漏れがあると思いますので、気がついたら修正します。

そして日本人だったら東京国際映画祭も重要な映画祭になってきます。それは他の海外の映画祭に比べて、かなり多くの情報がニュースとして取り上げられるからです。「日本の商業映画界で天下取ったる!」と思っている人は、海外よりも東京国際映画祭を目指した方がいいかも知れません。

ここに書いた以外にも、もちろんたくさんの素晴らしい映画祭があります。ここに書いたのは、氷山の一角のさらに一角ぐらいしか書いてません。

海外の映画祭に応募する価値はあるのか?

海外の映画祭に応募する価値は大いにあります。これは私の経験ですが、日本の映画祭に片っ端から出して、何も引っかからなかった映画が、海外の映画祭でグランプリを取った経験もしています。映画に多様性があるのと同様に、映画の評価にも多様性があるんです。

日本国内では割と似通った価値観の映画祭が多く、同じ様な監督がどの映画祭でも常連だったりするかも知れませんが、海外の映画祭は野生です。日本で良いと言われている映画が、箸にも棒にも引っかからない事もしばしばあります。海外の基準が正しいということではなく、日本の外に自分の味方がいっぱいいる可能性が高いという事です。

これは本当に自信に繋がります。日本で完全にスルーされていたとしても、海外に少しでも味方がいれば、作品を作っていけるんです。作品を作っていけるということは、人生が充実するという事です。これはとても素晴らしい事だと思いませんか。

(※このnoteはどんどん追加更新されていきます。)

サポートして頂けたら、更新頻度が上がる気がしておりますが、読んで頂けるだけで嬉しいです!