見出し画像

『Shell and Joint』で燃え尽きた

2018年の7月〜10月末にかけて、『Shell and Joint』の撮影と仕上げをしました。シナリオが完成する前に撮影に入ってしまったので、撮影をしながらシナリオを書いていました。カメラも私が一人でやっていたので、心身ともに本当にもうギリギリの状態でやってました。

まあ、映画というのはみんな「人生」や「命」をかけてしまうもので、ギリギリでやっているのが当たり前の世界でもあります。良くも悪くも、ではなく、悪しき習慣だと思います。私も命がけで『Shell and Joint』を作りました。

で、本題はここからなのです。

私はいくつかのレギュラー仕事を抱えていまして、それだけでもなかなか大変な日々を送っています。そのひとつに、2ヶ月ごと、1〜3分の子ども向け教材のコーナーを10〜15本ぐらい作っている仕事があります。この本数を勝手に作れば良いのではなく、クライアントのいる仕事なので、オリエンテーションを受け、企画を出し、コンテにして、撮影して、編集して、納品するのです。10〜15本をです。さらに『しまじろうのわお!』という番組も作ってまして、常に何らかのコーナーを抱えています。

私は映画を作るからと言って、このレギュラー仕事を止めることはありませんでしたし、本数を減らすこともありませんでした。それは『Shell and Joint』が仕事ではない、という事ではなく、レギュラー仕事というのはそういうものだからです。映画を作るからと言って止められないんです。

そんな状態に映画を突っ込みました。

隙間なくキレイに本が並んでいる本棚に、同じ量の本を入れる様なイメージでしょうか。あるいは、パンパンのスーツケースに、お土産のワインを12本入れようとしているイメージでしょうか。あるいは、焼肉屋で飲み会をして締めに冷麺とビビンバを食べたのに、二軒目でとんこつラーメンを食べてしまい、さらに寿司を食べに行くイメージでしょうか。

そんなに仕事や作業を詰めてしまったら、過労で倒れてしまうところです。

私は7年前に本当に過労で倒れたことがありました。クライアントの違う10本以上の仕事を同時並行で進めていたら、インフルエンザのような症状になり、でも体温はどんどん下がっていきました。監督として責任を持って仕上げなければならない仕事ばかり何本も進行していましたが、ある日、「死ぬかもしれない」と思い、救急外来にタクシーで行きました。医者が私の顔を見て、何を調べることもなく「過労でしょ」と言い当てました。「よく死ななかったね。たまたま体力があったから死ななかったね。」と言われました。「土日は何のためにあるか知ってる?死なないためにあるんだよ。」とも言われました。私はすぐにマネージャーの牧野さんに連絡し、すべての仕事をその日で降板しました。仕事先には大迷惑をかけてしましました。

それ以来、意識的に無理をしないようにしていましたが、『Shell and Joint』では、かなり詰め込んでしまいました。

ですが、7年前とは状況が大きく違い、レギュラー仕事も映画もどちらも制作会社のダッシュでやっているので、ものすごく効率的でした。「同じ制作会社」というだけでなく、勝俣さん、石井さん、天竺桂さんとは、映画と同時に同じ仕事もしています。なので、仕事の話をした後に映画の話をしたり、映画の撮影の最中に仕事の話が出来ました。本当に親戚のように気心の知れてる人たちなので、超効率的に進めることが出来ました。なんと言っても、ダッシュには私の「席」があるんです。社員じゃないのに。そして、私の席の前には映画のラインプロデューサーの石井さんが座ってます。仕事と映画を並行してやるには、本当に最高の環境なんです。

レギュラー仕事の隙間を縫って映画を作るのは本当に大変でしたが、10月の頭に撮影を終了して、10月末には完成しました。このポスプロの速さは異次元のレベルだと思います。短いポスプロの分、音楽の渡邊さんと、フォーリーとダビングをお願いした飯嶋さんには、すごく迷惑をかけてしまいました。

映画が完成した直後は、まだアドレナリンも出ていたのか、テンション高く仕事をしていました。でも、急激にエネルギーが無くなっていきました。もう本当に燃え尽きた自覚がありました。もう何をやるのも面倒くさくて嫌になりました。もうこのままやる気が復活することは、一生無いんじゃないかと、怖くもなりました。

体も不調になり、常に頭がフワフワする状態になりました。常に酔っ払っているような感覚です。眼科と耳鼻科に行っても特に異常なし。脳神経外科で脳のCTスキャンを撮っても異常なし。甲状腺の超音波検査と血液検査をしても異常なしでした。メンタルクリニックに行ったら、精神科の範囲ではよくある症状だと言ってました。たぶん、心のダメージが体に出たんじゃないかと思います。私のそういう「クセ」は子どもの頃からあるんです。いつも「病は気から」を体現しています。別に体現したくはないんですけど。

とは言え、映画を作っている最中から、映画が完成したら燃え尽きるとは思っていて、11月12月は余生を送るつもりで生活しようと決めていました。レギュラー仕事は淡々と進んでいくので、それだけやっていれば良いなと思って、11月はダラダラと過ごしました。

11月下旬からプールで泳ぎ始めました。1回500メートルと決めて行き始めたんですが、泳ぎ終わると血の巡りが良くなるのか、万能感に溢れるんです。世の中のすべてのものが愛おしく感じるんです。脳内に何かホルモンが出ちゃってると思うんです。泳ぐと精神的に気持ちが良くなるので、毎日のように行くようになりました。

たぶん、動物の生存本能というか、生き物としての自己回復機能みたいなものが働いて、プールに取り憑かれたんだと思います。泳ぐことで脳内にポジティブなホルモンを出して精神的ダメージを修復し、心肺機能を整え、強化することで、身体的ダメージを回復させたんだと思います。12月だけで20回以上行きました。

そうこうしているうちに、エネルギーが充電されてきました。やる気が出てきて、意識が未来に向かい、ホッとしました。エネルギーが溜まってくると同時に、「燃え尽き」のマイナス分も無くなっているので、加速度的にやる気が復活しました。

2019年を迎えた時には、『Shell and Joint』による燃え尽きは無くなっていました。それにしても「やっぱり映画作りは心と身体を削るんだな。特に長編映画は。」と強く思いました。

サポートして頂けたら、更新頻度が上がる気がしておりますが、読んで頂けるだけで嬉しいです!