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劇場公開映画のポスターやチラシを作る

最近、思わぬ人たちから「note読んでます」と言われることが多くて驚いてます。届いているのか届いていないのか、表立ってはよく分からないのですが、割と多くの方が「いやそれ違うだろ!」とか「わかるわ〜」などと思いながら読んでいるんでしょうか。

先日、『SHELL and JOINT』の劇場公開の発表をしました。ここまで来るのがなかなか大変でした。急遽、11月に劇場公開の日が決まって、バタバタと準備を始めました。

自主制作映画では当たり前のことだと思いますが、チラシやポスターももちろん自分たちで作りました。具体的に言うと、劇場に置くA5のチラシ、A2のポスター、作品の全情報が載ったプレスキット、予告篇になります。これらを誰かにお願いする資金も無かったので、自分たちで全部作ったんです。

こういうのって、表に出てくる話ではないので、今回はnoteに書き残しておこうと思います。とは言え、これは一般化出来る話ではなく、あくまでも私たちがどうやったかという話です。もっと言うと、映画業界のセオリーなんか知らずに手探りで作ってますから。

私は元々グラフィックデザイナーをやっていたので、年賀状ぐらいは作れますが、世の中に出ていく制作物を作ったのは、会社を辞めて以来かも知れません。たぶん。25年以上経ってます。25年前は、1日に20ぐらいの雑誌広告を入校し、20ぐらいの初校を戻し、10ぐらいの二校を戻し、5つぐらいの三校を戻していました。どっぷりデザイナーをやってました。

それでも、勝俣Pや岡崎Pからワッショイワッショイと担ぎ上げられ、デザインをすることになったんです。「デザイン力に限界があるから、希望通りのモノは多分出来ませんよ。」と言ってデザインを始めました。私たちは天才と言われているアートディレクターの村上健さんがすぐ近くにいるので、目が肥えちゃってるんです。

勝俣Pや岡崎Pから、いろんな映画のチラシやポスターを見せられて、こうしたい、ああしたい、という意見を聞きながら進めました。私は自分でデザインする代わりに「それは私のデザイン力じゃ難しいから誰かに頼んだ方がいいですね」という伝家の宝刀を持っていたので、宝刀をチラつかせながら、進めていきました。

ポスター比較

先にロッテルダムを始めとする映画祭用のポスターは出来ていました。これは私がプロデューサーたちに相談すること無く勝手に作ったモノです。「堀部さんすみません!」と思いながら、堀部さんの頭をフジツボにしたのが映画祭用のポスターです。堀部さんの役は「頭の中が節足動物のことばかり」という役なので、それをシンプルにビジュアル化したものでした。

劇場公開用のポスターが右になります。結果的に同じ様なビジュアルになりましたが、堀部さんの顔は出ています。フジツボ頭だと、気持ち悪い映画だと思って客足が遠のくと思ったからです。映画にとって、そして私たちスタッフやキャストにとって、何が一番大切なのかの優先順位を考えた時に、多くの人に映画を見てもらう事こそが最優先事項なので、そうしました。

子供番組を作っていても思うのですが、今の日本では気持ち悪い生き物に対する嫌悪感は、想像以上にあります。カブトムシですら気持ち悪くて触れないという大人がたくさんいますから。だから、フジツボを全面に出すと、かなりの数の観客を失うことになると思いました。この、気持ち悪い生き物に対する嫌悪感について書くと、5000文字ぐらいになってしまうので、今回は書きませんが、由々しき問題だと思っています。はい。

一方で、映画祭のポスターはいいんです。映画祭って誤解を恐れずに言いますと、「変態大会」だったりするからです。特に海外の映画祭はアートなのか変態なのか、ギリギリの線を突いてくる映画がたくさんあります。「アートって言ってるけど、もう土俵から足出ちゃってて、変態ですよね?」と言いたくなる作品がいっぱいあります。もっと言うと、見たことのないモノを作ることがアートだとするならば、アートは変態であるべきなのかも知れません。

よく、海外の映画のポスターはカッコいいのに、日本に来るとベタベタにカッコ悪くなるという話を聞きますが、ストイックでシャープなデザインに惹かれて映画を見る人は、日本では残念ながら少ないと思います。「オシャレ界隈」って実はメチャクチャ小さいですから。オシャレ界隈の1000倍ぐらいの規模で「大衆界隈」がドーンといるんです。多くの映画はギリギリの予算で作ってますので、腹をくくってハイリスクローリターンの博打に打って出ないんだと思います。ハイリスクローリターンだから、もはや博打にもならないんでしょうけど。

こうして、ポスターのメインビジュアルが決まりました。

チラシ裏表

チラシはもっと分かりやすくする必要があると思いまして、映画のとっかかりになるキャッチコピーや、批評家の方々のコメントなどを載せて、ガチャガチャな印象になるように作りました。

勝俣さんがたくさんのチラシをサンプルとして持って来てくれたんですが、ものすごくストイックに情報を減らしたチラシって、デザインとしてはいいのかも知れませんが、全く観に行く気がしなかったんです。

私、実はスーパーのチラシが大好きで、新聞を取っていた頃は「へー、和牛が100gで135円なんだ〜」とか「北海道の駅弁フェアやるんだ。どれどれ?あ、これ美味そうだな。」とか見るのが好きだったんです。たまに高価格帯のオシャレなスーパーが、オシャレなデザインでチラシを作ってくるんですけど、全く買う気にならないんです。買う気どころか、見る気が起きません。チラシって言うだけあって、映画のチラシも同じなんじゃないかと思いました。デザインじゃなくて、情報が知りたいと言いますか。ドンキホーテで買い物をしたくなる感じと言いますか。ゴチャゴチャしてる方が惹かれる事ってありますよね。

一方で、あまりにもバナナのたたき売りをし過ぎると、「観客をナメんなよ!」と思われてしまいますので、そこのバランスが難しいなあと思いました。

こうして、深夜までワイワイやりながらいろんなものを決めて行き、完成させました。これが、どこかの制作会社にデザインを発注していたらこういう事は出来ません。自主制作映画ならではの、映画業界を知らない我々ならではの、お金が無い我々ならではのやり方でやることが出来ました。

私の仕事はこれだけではありません。ポスターよりも、チラシよりも大変な、プレスキット作りがあったんです。

プレスキット

全11ページのマスコミ向けに配るものです。映画のすべての情報がここにあります。これをガッツリと作っていたので、正月はありませんでしたが、自分の作品のためなので苦ではありませんでした。

私がベースを作った後に、プロデューサーチームが、全部の文字をチェクしていきます。岡崎さんがコピーなどのディレクションをして、勝俣さん、石井さん、天竺桂さんが、正式な表記の仕方や、正しい名前などの細かいところをチェックしていきました。勝俣さん、岡崎さん、石井さん、天竺桂さんは全員女性です。強靭な女性チームがやっているんです。『SHELL and JOINT』は女性が作っている映画と言っても過言ではありません。たまたま監督は男ですけど。

監督自らプレスキットを作ってるって、我ながら凄いなと思ってるんですけど、プレスキットまで作る監督っていますかね?まあ自主制作映画だったら作らざるを得ませんよね。

さらに私が作ったのがプレスリリース。

プレスリリース

PR会社から各マスコミに送るやつですね。ここまで作っている監督がいたら、やきとりセンターで18時半から語り合いたいです。でも、結局PDFだと記事にする時、文字が拾いづらいとのことで、文字ベースの原稿にされちゃいましたけどね。おい!

いやしかし、いろいろ学びがあります。知らないことばっかりです。

写真は、板橋監督の『泣く綾乃』の試写会にて、刷りたてのチラシを持っているところを、ワタナベアニさんに撮って頂きました。江口ともみさんにもチラシをお渡しさせて頂きまして。


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