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仮説を立てて映画を作る

映画作りに取り憑かれた人はたくさんいますが、私の場合、「仮説の検証」という動機が大きいかもしれません。

こういう事言うと誤解されるかもしれませんが、感動的なストーリーで人々を感動させたいとは全く思ってません。いや、感動的なストーリーを軽蔑しているわけではありません。私も感動的な映画を見て泣くのが大好きです。スッキリします。

どちらかというと、感動的なストーリーを作れないと言ったほうが良いかもしれません。感動的なストーリーを作ることに全身全霊を注いでいる人には絶対に勝てないとも思ってます。

たぶん幼少期からの習慣がそうさせたんだと思います。マンガは全く読んで来ませんでしたし、いまだにマンガは読みません。たまに読もうとすると、読み方がよくわからなくてストレスを感じます。テレビドラマも全く見て来なかったので、懐かしいドラマの話になっても着いて行けませんし、いまだにドラマは見ません。

じゃあ何をしていたかというと、小学生の頃は、生き物を取ったり飼ったり、生き物に関する番組を見たり、図鑑を読んだり。中学生の頃は、特殊メイクやストップモーションアニメが大好きで、リック・ベイカーやハリーハウゼンが大好きでした。高校生ぐらいになると現代美術や浮世絵、日本や欧米の博物図譜なんかが大好きだったので、そんな本ばかり読んでいました。大学ではグラフィックデザインと広告の勉強をしました。

だから、ストーリーテリングを浴びまくってないのです。

映画を作っているくせにこんな事を書くと、あいつなんか映画人じゃないと言われると思います。でも事実なのでしょうがないんです。

映画関係の方々との飲み会に行くと、私があまりにも映画を見てない事がバレてしまいます。「映画を作るなら映画を見ないとダメだよ」という意見も聞きますし、それが大多数の意見だと思いますが、私の中にはある確信があります。

映画が好きで映画ばかり見ている監督がいる一方で、生き物が好きで生き物の映像や本ばかり見ている監督がいるとしたら、それこそ多様性そのものじゃないかと思います。映画監督が映画ばかり見ているだけの人の集まりだったら、何か気持ち悪い集団と言いますか、原理主義みたいなのがチラついても来ます。もちろん、映画が大好きな映画監督の事は心の底から尊敬していますが、自分はそうではないし、そうなれなかった、という話でもあります。

でも、映画というメディアで表現することに、私は取り憑かれました。

途中の話が長くなりましたが、20本もの短編映画製作では「仮説の検証」ばかりをして来ました。

ストーリーではなく、作品のフォーマットや手法ばかり考えてきました。こんな話にしたら面白いよね?じゃなくて、こんな手法で作ったら驚くよね?みたいな思考です。いまだにそうかも知れませんが、一枚絵志向というか写真集志向というか、登場人物の感情の起伏やストーリーのうねりよりも、シーンを記号として捉えて、それを並べた時にどういう化学反応が起きるか、みたいな事を考えるのがすごく好きです。こんな事じゃいつまで経っても「映画らしい」作品は出来ないなと思っていました。

でもある日ふと気づきました。シーンを記号として捉えて、並べて化学反応を起こすのって、エイゼンシュテインのモンタージュ理論で、映画そのものじゃないかと。自分がやっている事、好きな事は、映画から外れたことではなく、むしろど真ん中じゃないかと思いました。ど真ん中じゃないかもしれないけど、ど真ん中なんだと思い込みました。いや、実際に私が作っている作品はど真ん中ではないと思いますし、実感としてもど真ん中にはいない自負はたっぷりありますが。まあとにかく、完全に映画の外にいる訳ではないなと。

もしかしたら、これは先方に聞いてみないとわからない事ですが、私の作品がヨーロッパ方面の映画祭で気に入られるのは、そういう思考で作っているからかもしれません。

短編映画では仮設を立てて、作り、人に見せる、あるいは映画祭に出すことで、検証をしてきました。短編映画の良いところは、「仮設の検証」が毎年出来る事です。一緒にやってくれるスタッフやプロデューサーには「仮説の検証」とは言いません。「いやいや!検証じゃなく、作品を作ってください!」と言われるからです。

それでも、仮説がそれほど間違ってなく、映画祭で評価されたりする事で作り続けることが出来ました。

今年撮った『Shell and Joint』も大いなる実験でした。それも長編で。これから関係者以外の人の目に触れ、映画祭からの評価もくだされ、仮説が検証されていきます。大成功にしても大失敗にしても、ものすごくシンプルな仮説をカタチにしたので楽しみです。まさに、自分そのもの、自分の分身の様な作品を作ったので。

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