店頭に商品が並んでない
昨日の夜、ダッシュの大藏くんと初めてサシ飲みをしました。ダッシュの大藏くんは、新卒でCM制作会社のダッシュさんにインターンとして入って来た時から知っている若者です。しばらく制作部をやって、3年ほど前に演出部になりました。あの大藏くんに演出部が出来るんだろうかと心配でしたが、忙しくも一生懸命やっているようです。ちなみにサシ飲みは初めてですが、みんなで飲んだことは100回ぐらいあるでしょう。
大藏くんが「この先売れるにはどうしたらいいんでしょうか?」と聞いてきたので、「自分の得意なことややりたいことをやらないと売れないよ。」と言いました。そして、自分の得意なことややりたいことをカタチにして店頭に並べないと、この店で何を売っているか分からないとも。
映像のディレクターの場合、駆け出しの頃は来た仕事をとにかくやるしかありません。映像ディレクターだけじゃなく、多くの仕事も同じなんだと思いますが。
そして、映像ディレクターを3年ぐらいやっていると、それなりに仕事を回せるようになります。さらに大藏くんの様な社内ディレクターの場合、ジッとしていても仕事が回って来ます。制作費を抑えたい仕事の時に、社内のディレクターでやれば外部のディレクター分のギャラが出ていきませんからね。
でも、なかなか自分のやりたい仕事が来ません。それは店頭に商品が並んでないからなんです。例えば、アイドルのMVみたいな仕事をしたいのに、洗剤のCMばかりやっていたらアイドルのMVの仕事は来ないんです。それは、その人がアイドルのMVをやりたいとアピールしてないからです。
さらに言うならば、アイドルのMVを作りたいとアピールしまくるとします。そうすると興味を持ったプロデューサーが「過去にアイドルのMV作ったことありますか?」と聞いてきます。あるいは「アイドルが出ている映像作品作ったことありますか?」と聞いてきます。その時に「ありません。」と言ってしまった瞬間に、アイドルのMVの仕事をやれる可能性が一気に萎んでしまうんです。店頭に「実物」の商品が並んでないからです。
「そんな事言ったら、自分のやりたい仕事なんて一生やれないじゃないか!」と思われるかも知れませんが、店頭に並んでいるのは仕事じゃなくていいんです。自主制作した映像でいいんです。アイドルのMVが作りたい人は、いかにもアイドルのMVが作れそうな映像を自分で作って店頭に並べておけばいいんです。
なぜ実物が必要かと言うと、プロデューサーはクライアントや代理店にプレゼンしなけらばならないからです。クライアントは、プレゼンされたディレクターの実績を見たいと言います。その時にプロデューサーが「まだ作ったことはありませんが、たぶん大丈夫だと思います。」と言って済む時代ではなくなってしまいました。
私が20代や30代の頃は、プロデューサーの独断でディレクターを決めてくれることが多かったんです。幸運にも私はそういう時代に駆け出し期を過ごすことが出来たので、大きな仕事をするチャンスも多かったんです。何の実績も無い私をプロデューサーがゴリ押しでやらせてくれましたから。
今はクライアントや代理店に何人かのディレクターをプレゼンする習慣になってしまったので、過去にそのクライアントに適していそうな仕事をしていなければ、ディレクター候補として上げてももらえません。
ちなみに私はスポーツ選手のCMばかりオファーが来た時期もありましたし、猫のCMばかりオファーが来た時期もありました。一度その専門家というレッテルが貼られると同じ様な仕事ばかり来る様になります。クライアントに「なぜこのディレクターなんですか?」と聞かれた時に、過去の実績を見せれば済むからです。そして実績があるからディレクターとして選ばれる確率も上がり、そのスパイラルの中に入り、同じ様な仕事ばかりするようになるんです。
今は本当に実績や前例が必要な時代になりました。だからやりたい仕事があったら、何らかの方法で「実物」を作って店頭に置いておかなければならないんです。
そしてまるで若者に話のように書いてますが、私自身もまさに直面している問題でもあります。私はCMやウェブムービーの実物はたくさん店頭に並べてあります。短編映画も店の奥のガラス戸の中に並べていますが、こちらは仕事にはなりません。見せてほしいと言われた時にガラス戸を開けて見せるぐらいのものです。
いやしかし!
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